第36回戦 ミーティング
☆体育祭編☆
◆第36話 会議を始めよう
こんにちは、藤森幸希です。授業はもう5時間目、僕等D組は話し合いをしていた。
そう、2週間後に控えている【体育祭】についての。
リレー
障害物競争
二人三脚
借り物競争etu……
たくさんの個人競技を、学級委員の2人が黒板に書いていく。
その様子を、翔先生はつまらなそうに、椅子に座って見ていた。司会は面倒くさいから、指揮を全部学級委員に任せたんだよこの教師。
「では、皆さん。この中から立候補・推薦をお願いします」
時代はずれの、漫画みたいなぐるぐるメガネをかけた学級委員が、僕等のほうを向いて言った。
途端にざわつく教室内。皆友達同士で、相談してるみたい。
うーん、僕なにやろうかな。去年はリレー出たから、今年は違うのがいいけど…
『ハイハイハイ!わたし借り物競争出たい!!』
元気だなぁ、舞ちゃん。
「ハイは1回。じゃあ、とりあえず浅野さんは借り物競争で―」
そう言って、メガネ君─本名は瀬崎君─が黒板に舞ちゃんの名前を書こうとした時、反対の声が。
「俺はアイツが借り物競争出るなんて反対だ。っていうか、アイツが生きている事に反対だ」
かなりめちゃくちゃな異議を申し立てるのは、外面完璧、内面腹黒の青海その人。
『テメェそれどういう意味だ!!』
「そういう意味だよ」
案の定怒る舞ちゃんに、青海はポーカーフェイスで対応する。
他のみんなは、またか…という目で、傍観者モードに入ってた。なんだかんだで、この2人の喧嘩はD組の名物状態だからね。
「痴和喧嘩は放っておいて、他にもどんどん言って下さい」
もう1人の学級委員、長い黒髪をお下げにしている矢野さんが、皆に向かって言う。だけど皆、喧嘩のほうばかり見てるし…。
早いうちに決めたほうが楽かな?えっと、じゃあ……
「僕、障害物きょ『だから、微生物といったらミジンコだろ!?』
……は?
「何馬鹿言ってんだ。微生物=アメーバって昔から決まってるんだよ。なんでよりによってミジンコ…」
……なんか僕の意見遮られたんだけど。しかも、争いの論点変わってない?なんで微生物?
『うるさい!ミジンコをバカにする奴はミジンコに泣くんだぞ!!』
ミジンコに泣くってどんな状況?
「舞ちゃん、借り物競争はどこいったの?」
『え?………そうだ!借り物競争!!』
やっぱりこの娘バカだ
『わたしは借り物競争で好きな人と一緒にゴールするんだ!それで体育祭が終わった後、ドキドキしながら告白して、夕日が射す教室でキッスみたいな?きゃー!待ってて下さいね花形先輩vV』
うわ!すごい青春期待してるよ!っていうか、相手は先輩なんだ。まだ好きだったんだね…。
「そんな事はどうでもいいから、早く決めて下さい」
やや低い声で、矢野さんが睨み気味に言う。結構怒ってるね、コレ。
「…舞ちゃんさ、足速いんだし、リレー出れば?」
頭は確かに悪いけど、舞ちゃんの運動神経は異常な程、秀でてる。なんでB組の誘い蹴ったんだろ?まぁ、僕も断ったから人のこと言えないけど。
『リレーかぁ〜、じゃあ幸希一緒に出る?』
「僕、障害物競争出たいからさ。青海はどう?」
そう言って、チラリと青海を横目で見る。相変わらずポーカーフェイスで、考えがよめない。
『えー、青海私より足遅いじゃん』
「明けテスト3教科50点以下だった奴に馬鹿にされたくないんだけど」
『青海、人は成績じゃないのよ。天才と頭良いは違うの。エジソンが良い例よ。だからね』
「なんか殺意わく…幸希、俺、殺人者なるかも」
「物騒なこと言わない!!」
この人は本気でやりそうだから恐いんだよ!舞ちゃんは舞ちゃんで、自分に都合の良い事言ってるし!
「ああもう、ダリイよお前等。早く決めてくれ」
なかなかまとまらない僕等に、翔先生がやっと口を出した。
ゆるゆるのネクタイを更に緩め、頭を乱暴に掻きながら黒板の前へと出る。
「あのなぁ、体育祭なんて来年もあるんだし、何でもいいじゃん。何をそんなに迷ってるわけ?」
黒板に寄りかかり、ずり落ちそうになったメガネをくいっと、中指で定位置に戻し、そう言った。
『先生、私達は一瞬一瞬を大切にしてるんだよ?だからそんな適当に決めたくないの。エジソンがいい例だね』
「舞ちゃん、エジソン関係ないから」
『じゃあクレオパトラ』
「偉人言えばいいと思ってる?」
だいたい『じゃあ』って君…。誰がこんな風に教育したんだろ、ゆとり教育どころじゃないぞ。
「とりあえず幸希は障害物競争。舞と青海はリレーでよくね?」
相変わらず適当な先生が、これまた適当にまとめた。
あ、でも僕は障害物競争決定?良かった。
「じゃあ私もリレー出るわ!」
突然大声を出したのは、舞ちゃん激ラブの流華ちゃん。今までおとなしいと思ってたら、やっぱりきたか。
「冗談じゃねぇ。なんで舞や葉月流華と走らなきゃいけないんだよ。それなら俺は、幸希と一緒に障害物のほう出るぜ」
そう言って、僕のほうを見てくる。見てくる、というより、睨むって感じだ。僕を脅してどうするの。
「いや、青海はやっぱりリレーやりなよ」
「……あ?」
青海は無表情を崩し、不機嫌な声を出した。かなり恐いけど、もう慣れたかな。
「藤森、私は青海と一緒に出るなんてごめんよ」
珍しく青海と同じ意見を言う流華ちゃん。まぁ、仲悪いからこそだろうけど。
「だから、流華ちゃんは僕と障害物出よ」
「はぁ?なんでよ!!」
……そんな否定されるとショックなんだけど。
「僕は、あの2人にもっと素直になってほしいんだ」
口喧嘩している青海と舞ちゃんを見て、僕は呟く。
「……舞と青海が、なんて嫌よ」
怒りと哀しみの混ざった声で、流華ちゃんはそう言った。
意地っ張りは青海のほう。舞ちゃんは、きっと気付いてないだろう。でも流華ちゃんは舞ちゃんの事をよく見てるから、多分分かってる。僕だってそこまで鈍くない。
「ダメかな?」
「協力なんかしたくない」
「舞ちゃんの秘蔵プレミア生写真をセットで」
「今回だけならいいわ」
簡単に意見を変えたよこの娘。単純だなオイ。
方法はとにかく、一応了承をとった僕は、学級委員2人に向かい
「じゃあ、僕と流華ちゃんが障害物競争。青海と舞ちゃんがリレーで」
「不本意だけどね」
矢野さんがそれぞれの名前を書いていく。メガネ君、もとい瀬崎君は、他の皆にやりたい競技を聞いていた。
『えー!?ちょっと何勝手に決めてるのさ!!』
「テメェ等俺の意見聞けよ」
……………無視無視。
「幸希もお人好しだな、友達の恋路を手伝うなんて」
「──先生」
いつのまにか教室の後ろに移った先生は、1番後ろの席の僕に、周りに聞こえない程度の声で話しかけてきた。
「別にそういうわけじゃ…、っていうか、僕と流華ちゃんの話聞いてたんですか?」
「さぁな。でも、なんとなく分かるんだよ」
意味深な言葉を吐く。恐いんですけどこの人。どれだけ観察力あるわけ?
「でも、ちゃんと自分の恋愛も進めようとしてるあたり素敵な性格だよな」
「……なんの事ですか?」
「べっつにー」
だから怪しい言い方するな!!
学校行事といったら体育祭ですよね!!クラス対抗戦にしていきます★




