第35回戦 中学1年生≪後編≫
まだ中学1年生の話です
◆第35話 デストロイヤー
「痛ぇ……」
あの狂暴女に殴られた頬を擦りながら、俺はため息を吐く。女に拳で殴られたのは始めてだ。
「保健室行ったほうがいいんじゃない?」
俺に濡らしたタオルを渡し、そう勧めてくる幸希。俺は軽く舌打ちして、受けとったタオルを頬に当てる。痛みのせいで熱くなった頬が、やんわりと冷えていくのが心地好い。
「そこまで重傷じゃない」
でも…、と口ごもる幸希をシカトして、先程の騒動を思い出す。少し冷たくあしらっただけであんなにキレるなんて、どれだけ短気なんだ。あんな女と同じクラスになるくらいなら、A組に入っておけば良かったかもしれない。
「青海、なに笑ってるの?不気味だよ」
…どうやら無意識に笑っていたらしい。結局この退屈しなそうな事態を、内心楽しみにしてるみたいだ。
「っていうか、誰が不気味だ」
「ギャア!!」
幸希に蹴りをいれて、俺は笑みを深くした。
◇
『すいませーん、入部したいんですけど…』
私は料理部に入ることにした。だって部活で食事ができるんだよ?こんな最高な部はないね!
だけど、一週間後私は料理部をやめた。なんか試しに作ったクッキーを顧問にあげたら、次の日泣いて退部を頼まれたから。いったい何だったんだろ?
『すいませーん、入部したいんですけど…』
次に私はバスケ部に入った。前から誘われてたんだけど、まぁ運動は得意だしいいかなってね。だけど、後日退部することになる。え?なんでかって?実は顧問とケンカしちゃってさぁ〜。やめてやる!って、タンカきっちゃった。
『すいませーん、入部したいんですけど…』
次に私は、吹奏楽部に入った。なんか楽器できるのって、カッケー…憧れる。でも後日、退部した。いや、その…楽器壊して、責任逃れみたいな?キャッ★
◇
「お前さ、これ以上ややこしい事しないでくれる?いろんな先生から苦情くるんだけど」
なんだかんだで6月、私を職員室に呼んだ翔先生はデスクに肘ついて、渋い表情うかべながらそう言った。
『そんな事言われても、別にわざとじゃないし…』
いや、ホントだよ?ガラスわったり、ある先生のカツラとっちゃったり、教室水浸しにしたのも、全部悪気はなかったのさ。もっと言えば偶然?
「悪気ない奴が、超楽しそうにあんな事するか。お前、密かに【デストロイヤー女】って呼ばれてるの知ってるか?」
え、私、有名人?照れるわ〜!いったい誰がつけたのかな?
『でも大丈夫だよ先生、私帰宅部にしたから。少なくとも、部活関係じゃ事件起きないさ♪』
そう、あまりに続かないからもうやめちゃった。なんか請求されたら困るし。
「ふーん。まぁ、俺はお前がどこに入部しようが、此方に害がこなきゃいいけどな」
アレ?今、教師ならぬ言葉が聞こえた気がする。幻聴か?耳掃除しなきゃ。
「俺に迷惑かけるなよ〜。めんどいから」
……やっぱり言ったよ。
――――――――――――――
『……と、まぁそんな理由で私は帰宅部に、ってオイ!聞いてる!?』
私はじゃれあっている双子に向かい、そう叫んだ。
人のメモリーを無視すんなや!
「だって舞ちゃんの事情なんか興味ないし〜」
「それより藤森先輩のこと教えてよvV」
ちょっとコイツ等むかつく!!せっかく過去話してあげたのにィ〜!
「本当にかっこいいよね先輩」
「ねー♪」
…青海と幸希の悪口流そうかな。仕返しきそうで恐いけど。
っていうかこの娘達、私の話聞いてなかったわけ?青海は初対面の私に『ウザ』って言ったんだよ?性格悪いにも程があるだろッ!!
幸希はヘタレだ。他に例えようのないくらいヘタレてる。とりあえずヘタレだ。
「藤森先輩って、貴公子って呼ばれてるんだって!!」
更に別名、キング・オブ・ザ・ヘタレだけどね。
「高梨先輩は王子らしいよ!」
…………。
なんだろ、イライラする。え、なんでだろ、別に青葉が青海を好きでもいいじゃん。
なんでこんなに、心の中がムヤムヤ────
あ、わかった。私、わかっちゃったかも。私がこんなにイライラするのは…
『1番かっこいいのは花形先輩だァァァァ!!』
1番の座は先輩以外認めない!つまり悔しかったんだ。はい、問題解決☆