ルールとは。
ルールとは何か。
その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。
パンツである。
「帰ります」
「待ちたまえ」
「待てません」
「重要だ」
「ルールがパンツは無理です」
「無理ではない」
博士は紙ナプキンに書き足した。
ルール=外側の形。
ベスポジ=内側の収まり。
「……少しだけ聞きます」
「よろしい」
博士はコーヒーを飲んだ。
「ルールは必要だ」
「はい」
「パンツも必要だ」
「はい」
「そこは否定しない」
「否定したら大変です」
「だが」
博士は紙ナプキンに書いた。
このパンツなら、全員のベスポジは外れない。
「これは?」
「傲慢ですね」
「そうだ」
「かなり傲慢です」
「かなり傲慢だ」
博士は言った。
「他人のベスポジを知る術はない」
「チンポジ哲学ですね」
「そうだ」
「なのに?」
「この形なら全員が収まる、と決める」
「危ないですね」
「危ない」
博士は紙ナプキンに書いた。
ルールは、全員のベスポジを保証しない。
「強いですね」
「強くてよい」
「ではルールは何をするんですか」
「外側の衝突を減らす」
博士は即答した。
「内側ではなく?」
「内側ではない」
「ベスポジを作るのではなく?」
「作れない」
「正しい収まりを決めるのではなく?」
「決められない」
博士は紙ナプキンに書いた。
ルールは内心を設計しない。
ルールは外部行動を整える。
「かなり大事ですね」
「大事だ」
博士は続けた。
「人前でパンツを履く」
「はい」
「これはルールとして扱える」
「外部行動ですね」
「そうだ」
「だが、パンツの中のベスポジを指定する」
「はい」
「これは?」
「侵入ですね」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
履け。
までは言えることがある。
こう収まれ。
までは言うな。
「最低なのに分かりやすいですね」
「分かりやすいから使っている」
博士は続けた。
「ここでカントを借りよう」
「出ましたね」
「人を手段としてのみ扱うな」
「はい」
「ルールで人間をただの部品にするな」
「なるほど」
「ミルは?」
「危害が出たら介入する」
「そうだ。だが、不快だけで内側まで支配するな」
「ウィトゲンシュタインは?」
「ルールという言葉が、どの場面でどう使われているかを見る」
「ニーチェは?」
「そのルールは誰のベスポジを標準にしたのか、と疑う」
「刺しますね」
「必要だ」
博士は紙ナプキンに書いた。
標準。
普通。
正しい。
「この三つはすぐ混ざる」
「混ざりますね」
「普通のパンツ」
「はい」
「標準サイズ」
「はい」
「正しいパンツ」
「はい」
「最後が危ない」
「危ないですね」
博士はうなずいた。
「標準は便利だ」
「はい」
「普通も目安になる」
「はい」
「だが、正義にするな」
「普通は正義ではない」
「そうだ」
博士は今日の答えをまとめた。
ルールとは、外側の形である。
ルールは必要である。
だが、ルールは全員のベスポジを保証しない。
他人のベスポジを知る術はない。
だから、ルールで内側の収まりまで設計しようとするな。
ルールは内心を設計しない。
ルールは外部行動を整える。
標準は便利だが、正義ではない。
普通は目安だが、命令ではない。
履け、までは言えることがある。
こう収まれ、までは言うな。
「博士」
「何かね」
「チンポジで言うなら?」
「最初からチンポジで言っている」
「そうでした」
博士は紙ナプキンに最後の一文を書いた。
ルールとは、全員に同じベスポジを与えるものではない。
互いのベスポジを知らないまま、外側の事故を減らすためのパンツである。
「綺麗なんですかね、これ」
「綺麗だ」
「パンツなのに」
「パンツだからだ」
博士は笑った。




