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第四十二話:火の鳥、不燃の城壁

視点:足利 三郎(維直)


 僕が強引に進めた「鉄砲の規格化」は、戦場に劇的な変化をもたらした。統一された口径から放たれる鉛玉は、もはや単なる「飛び道具」ではない。一箇所に火力を集中させれば、中世の薄い土壁や木の盾など、容易に粉砕できる「物理的な破壊力」へと進化していた。

(……でも、これは諸刃の剣だ。僕が規格化した鉄砲が敵に渡れば、三好家の城だって一瞬で火だるまになる)

 現在の日本の城は、あまりに火に弱い。木材と漆喰、そして土。これらは鉄砲隊による集中射撃や、火薬を用いた攻城戦の前には、巨大なまきも同然だった。

 僕は、三好家の新たな拠点となる飯盛山城の設計図を前に、大きな溜息をついた。僕が求めるのは、敵を倒すための城ではない。何があっても「燃えず、壊れず、死なない」ための究極の安全地帯だ。


 僕は、前世の土木エンジニアとしての記憶を辿り、ある材料の再現に着手した。それは、現代のコンクリートのルーツとも言える**「古代ローマ式コンクリート(オプス・カエメンティキウム)」**だ。

「長慶殿。この火山灰と石灰を混ぜ、そこに海水を加えてみてほしい。……少し時間はかかるけど、石よりも硬く、火を寄せ付けない『魔法の泥』ができるはずだ」

 三好長慶 は、僕が差し出した灰色の泥を訝しげに見つめていた。だが、数日後、型枠の中で岩石のように硬化したその塊を見て、彼は言葉を失った。

「若君……。これがあれば、石を切り出す手間も、木を組む苦労も要らぬと? この泥を流し込むだけで、不落の壁が立ち上がるというのですか」

「そう。さらに、この中に節を抜いて防錆処理をした『竹』を骨組みとして入れるんだ。……本当は鉄がいいけど、今はこれで代用する(竹筋コンクリート)。これで、大筒の衝撃すらも受け流す『粘り』が生まれる」


 工事が始まると、僕は四歳の体 に鞭を打ち、現場を走り回った。

 職人たちに「水セメント比」の概念を教え込み、型枠の精度を厳しくチェックする。彼らにとって僕は「足利の貴種」というより、口やかましく、しかし誰よりも正確な答えを出す「化け物じみた現場監督」に見えていたに違いない。

「……若君。町衆の間では、貴殿が指先から石を産み出しているという噂まで広まっておりますぞ」

 松永久秀 が、影のように僕の後に続く。

「……久秀、僕はただ『安全第一』を徹底したいだけだよ。火に包まれて死ぬのも、城が崩れて下敷きになるのも、僕の人生設計ライフプラン には入っていないからね」


 完成しつつある飯盛山城の不気味なほどの威容。灰色の滑らかな壁面は、夕日に照らされて鈍い光を放っている。それは、戦国時代の美意識を根底から破壊する「無機質な暴力」の象徴でもあった。

 周囲の民や職人たちは、僕が通りかかるたびに地面に額を擦り付け、祈りを捧げるようになった。僕がもたらした「壊れぬ橋」や「暖かい家」、そして「燃えない城」。それらは彼らにとって、足利の権威などよりも遥かに切実で、救いに満ちた「神の業」に映っていた。

(……違うんだ。僕はただ、畳の上で大往生したいだけなのに)

 僕が設計図を引けば引くほど、世界は僕の意図とは裏腹に、僕を「人智を超えた存在」へと祭り上げていく。

 飯盛山城の冷たいコンクリートの感触を確かめながら、僕は自分が築き上げた「安全」という名の檻が、ますます強固になっていくのを感じていた。

【作者より:次話への展望】

第42話をお読みいただきありがとうございました。

ついに三郎が、自身の専門領域である「土木工学」を極致まで引き出し、コンクリートというオーパーツを戦国に持ち込みました。本人にとっては単なる「安全管理」の延長ですが、当時の人々からすれば、それは既存の戦術や経済、そして宗教観までをも破壊しかねない「神の業」として映っています。

次回、第四十三話「崩れゆく権威、不燃の幻影」。(※先ほどお送りした内容です)

視点は将軍・足利義晴。

自分たちが積み上げてきた伝統や権威が、三郎の「灰色の石」によって砂のように崩れ去っていく絶望を描きます。


次々回、第四十四話「泥の巨塔、三好の野望」。

視点は三好長慶。

三郎という「劇薬」を手に入れたことで、自らの野心が予期せぬ方向へと肥大化していく長慶。彼は三郎を「道具」として使いこなしているつもりですが、次第に「三郎の設計図なしでは生きられない体」になっていく自分に気づきます。

三郎の異質さを、彼を取り巻く権力者たちの目線で浮き彫りにしていければと思います。

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― 新着の感想 ―
なんだが主人公自体が白い危ないお薬めいてきましたね。 この時代の人には、刺激が強すぎた、神秘に対するおそれも強い。 やろうと思えば主人公、清涼殿でなくとも任意で落雷させられますし。 幼児に依存する大人…
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