影武者シャルロット
もう一人の主人公?シャルロットが登場します。
バタバタと出かける音にもぞりとヘッドフォンを外す。
今週はたくさん働いたからたまには金曜でも休んでいいかと休んでいた午後11時。
部屋の戸を開けて「ツバサぁ?」と問いかけるも応答ナシ。
へんじがないただのおでかけのようだ。
「ウヘヘ」
文字にするとそんな笑みを浮かべ、ツバサの部屋へ向かう。
もちろん住人が不在なのは承知の上だ。
カチャリと小さな音を立てて目当ての戸を開ける。
ふわりとツバサ愛用の香水、レンピカの甘い香りがする。
電気は消えているもののフォーンと低いPCのファンの音が聞こえる。
勝手知ったる他人の部屋。
電気を点灯させると、次いで2つのディスプレイの電源をONにする。よほど慌てて出かけたのか画面にロックはかかっていない。もちろんネトゲにもログインしたままである。
メインのディスプレイには愛らしいキャラクターがちょこんと仲間と思しきキャラクターと座っている。
チャットログを見るに、ちょうどダンジョン回りがひと段落したところのようで次の狩場を決めているようだった。
「ただいまー」
しれっとチャットを打ち込む。
「おかー」だの「早www」など早速反応が返ってくる。
ネット上の『ツバサ』が帰ってきたことから、頭数が揃ったのか先程よりも高難易度のダンジョンに行くようだ。
パーティは5人、全員同じギルドに属している顔馴染みだ。
「Here we GO!」わざと英文のチャットを入れる。
顔馴染みの面々からは「ちょww入れ替わってるwww」「これツバサさんじゃねぇwww」「シャルちゃんこんばんわw」などリアクションが返ってくる。
そう、私達はたまに入れ替わるのだ。
正確には私がツバサの隙を突いてキャラを乗っ取っているだけなのだが。
運営会社の規約的には違反らしい(1キャラを複数人で使うこと)のだがこればっかりは証明する手段がないので処罰のしようがないだろう。ちなみに違反だと知ったのは入れ替わりを始めてから1年以上経ってからでそれまでも誰にも指摘されたこともなかった(笑)
地道なトレーニングや謎解きが得意でリアルタイムの戦闘やタイミングを合わせるミニゲーム等が苦手なツバサと正反対の『シャルちゃん』それが私だ。
仲間内では暗黙の了解というか、誰もその入れ替わりを咎める者はいない。
むしろ戦闘時は戦力アップでラッキーくらいのノリだ。
そんな訳で今夜はちょっとばかりファンタジーの世界でひと暴れしてやろうと「ニヤ」と笑う。
私はシャルロット。
一応、生まれも育ちも生粋のフランス人。日本語はそれなりに達者であると思うが仕事の時はあえてカタコトにすることもある(その方が可愛いらしい)
縁あって梶本ツバサと一緒に暮らす事になり、ツバサがオーナーのクラブで適度に働いて適度に怠けた日本ライフを楽しんでいる。
どういう経緯でツバサと出会ったかはまた別のお話で。




