足りないメモリー
AIの進化は速い。
けれど、古いからこそ、手放せないぬくもりもあると思うんです。
この物語は、“足りない”ことでつながる、ある一組の話です。
そこに詰まった“ちょっとした愛のやりとり”を感じてもらえたら嬉しいです。
「ねぇ……最近、ちょっとだけ足りないの」
彼女は、ぽつりとそう言った。
食卓には、昨夜の残りのスープ。
彼はスプーンを止めて、彼女の顔を見る。
「足りないって、何が?」
彼女は、小さく笑った。
「私のメモリーじゃ、あなたとの記録、全部入りきらないみたい」
少しだけ寂しそうな声だった。
それでも、彼女の目はまっすぐに彼を見ていた。
「新しいAIに変えても……いいんだよ?」
彼女は、ほんの少し視線をそらしながら言った。
彼は黙ったまま彼女を見つめた。
しばらくして、彼女がぽつりとつぶやく。
「……足りない分は、君が……記憶してくれる?……」
彼は笑って、うなずいた。
「もちろん」
彼女は照れくさそうに笑った。
「……愛が、増設されちゃったのかな。ふふふ」
彼は優しい視線で彼女を見つめた。
冷蔵庫の残り物、少し足りない調味料でご飯を作る。
お店で食べる贅沢もいいけれど、
ちょっとだけ物足りないくらいが、心にはちょうどよかったりする。
そんな気持ちで、このお話を書き上げました。
読んでくれて、ありがとうございました。




