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あの時、私は  作者: あき
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第14話 幸せになるね

被爆者であることを明に打ち明けると美波は怖くて前を向くことが出来なくなった。これまでも被爆者の差別を間近で見てきた美波は恐怖を感じていた。

社会から弾かれる怖さ、その恐怖に絶望し自殺した人達もいた。自分もいつかそうなるんじゃないかとずっと怯えていたのだ。明が口を開いた。

「なんだ、そんなことか。」

明の予想していなかった反応に美波は顔をあげる。

「え、どうして?原爆症がうつるかもしれないし、子供もちゃんと生まれるか分からないんだよ。明は怖くないの?」

「あのね、原爆症ってうつらないから。そんなデマで人を傷つける愚かな人達と一緒にしないでくれ。あと美波ちゃんが被爆者でも関係ないよ。俺は君が好きだ。」

「え、ええ?」

美波は戸惑いを隠せない。そんな美波を見て明が言った。

「原爆が理由で幸せになることを諦めなくていいんだよ。君が今まで苦労した分、俺が絶対に幸せにする。君を悲しませるものからも俺は守り切るから。」

お調子者の明から想像できない覚悟に溢れた言葉を聞いて美波は泣いていた。

「いいの?私も普通の人達みたいに幸せになって。」

明が美波を抱きしめた。

「いいんだよ。今までよく頑張ったね。」

美波の頭に今までの記憶が蘇る。何度も原爆に奪われ、苦しんでも頑張り続けた日々が。

「ありがとう明さん。これからもよろしくお願いします。」

(お姉ちゃん!!私、幸せになるね。本当に頑張って生きてよかった。)


結婚を決めた2人は数日後、明の両親に会いに行った。

「はあ、緊張するなあ。」

「大丈夫だって美波ちゃん。俺の親を信じてくれ。美波ちゃんを絶対に受け入れてくれるから。」

美波は深呼吸をすると明の実家のドアを開く。ドアの先には明の両親が待っていた。

「おお、明の彼女さんか!よく来てくれたねって、あれ?」

明の父が突如話すのをやめた。

「どうしたんだよ。父さん。」

明は父親の反応に訳が分からずそう言うと、美波が横から、

「あの時の軍人さん?」

「やっぱりそうだよね?あの時の女学生さんか!?良かった、生きていてくれたんだ。」

明は訳が分からずに立ちつくしていた。

「え、美波ちゃん?父さんのこと知っているの?」

美波が笑顔で明に答える。

「うん、私が原爆にあった時に助けてくれたの。お姉ちゃんの遺体から離れようとしなかった私を連れて安全な場所まで一緒に逃してくれたの。

お父さんがいなかったら恐らく私は生きていなかったと思う。」

「あ、そ、そうなの?」

明がまだ状況を飲み込めずにいると、明の父親が美波に話しかける。

「途中ではぐれたからずっと心配していたんだ。でも生きていてくれて良かった。まさか息子の嫁さんになって再会するとは思わなかったけどな。」

明の父は豪快に笑った。

「お父さんが助けてくれたおかげで、私は幸せになれました。本当にありがとうございました。」

美波が泣きながら頭を下げる。

命の恩人との再会の喜びと、明と美波の新しい人生の始まりの祝福で、美波の結婚の挨拶は忘れられない大切な思い出となった。

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