第12話 別れと出会い
時は1945年8月6日8時15分17秒。
美波がアメリカ軍の爆撃機を見つけ、あみに伝えた瞬間だった。
「お姉ちゃん!!空を見て!!」
あみが美波の声に反応し空を見たその時、あたりに眩しい閃光が広がった。
あみはたまらず目を両腕で覆った。美波はあみの元に駆け寄ろうとした。
「お姉ちゃん!!」
その後すぐに強大な爆風が2人を吹き飛ばした。
「きゃあああ!!」
その後、美波は意識を失ってしまった。
どれくらい時間が経っただろうか、美波はレンガの壁の下敷きになった状態で目がさめる。
「うう、なんか体が重たい。」
美波は何とか這い上がり脱出する。そして目の前に広がった光景に絶句した。
「え、何これ。」
辺りは火の海に包まれ、建物はほとんど破壊されていた。美波は呆然としていると目の前を人が横切った。その瞬間美波は尻餅をついて倒れてしまった。
「ひ、ひいい!!」
美波の目の前を通りすぎた人は手を幽霊のように前に突き出し、全身が大火傷していた人だった。辺りを見回すと同じような人達がたくさんいた。身体中にガラスが突き刺さった人、臓腑が飛び出た人、黒焦げの人など重症者がそこら中に溢れていた。
「お化けだ。みんなどうしたの!?」
美波は恐怖で動けなくなっていた。しかしすぐにあみのことが頭を横切る。
「お、お姉ちゃんは?どこなのお姉ちゃん!!」
美波が辺りを見渡すと黒焦げになり、頭を建物の柱で潰された遺体を見つけた。
服がかろうじて残っていた。その服はあみが着ていたものと同じだった。
それを見た美波が発狂する。
「いやあああ!!お姉ちゃん!!お姉ちゃあん!!」
美波は泣きながらあみの所にかけ寄り必死に体を揺らす。
「起きてよお姉ちゃん!!ねえ!!ねえってば!!」
あみの近くで泣き叫んでいると後ろから男性の声がした。
「おい、お嬢ちゃんその人はもうだめだ。早く逃げるぞ。」
振り返るとそこには軍服をきた男性がいた。美波は抵抗する。
「嫌だ嫌だ!!私もここで死ぬんだ!!お姉ちゃあん!!」
「ええい、分からない子だ。ほら早く逃げるぞ。」
美波は強引に引っ張られあみから離れさせられる。
「うわーん、お姉ちゃんごめんねえ。」
美波は泣きながら軍服を着た男性とその場を離れた。
しばらくその人と逃げていたが大量の人混みに巻き込まれ離れてしまい、美波はまた1人になってしまった。
美波が安全な場所を求めて歩いていると、瓦礫に隠れて怯えている7歳くらいの少女を発見した。美波はすかさず駆け寄った。
「ねえ君、大丈夫?」
美波が駆け寄るとその子は安心したのか大声で泣き始めた。
「もう大丈夫。両親は?」
そう聞くとその子は震える手で指差した。指先には黒焦げになった腕を伸ばした遺体が三人ほどいた。倒壊した建物から出られずにそのまま焼け死んでしまったのだろう。
家族が焼死する様子をこの子は見てしまったのだろう。
美波は少女をおんぶした。
「もう大丈夫。怖かったね。」
美波は少女と共に避難場所に向かった。
避難所に着くと美波は少女を下ろして話しかけた。
「君の名前は?」
「玲奈。」
「そうか玲奈ちゃんって言うんだね。もう大丈夫だから。」
そう声をかけた瞬間少女は再び泣き始めた。
「どうしよう。家族みんな死んじゃった。ひとりぼっちだ。ええん!!」
そんな玲奈を見た美波は先ほどの自分と重ねた。今この子に必要なのは、
「大丈夫だよ玲奈ちゃん。なら私がお姉ちゃんになってあげる。だから安心して。」
姉のあみがしてくれていたことを真似して、この子を守ろう。美波はそう決心した。
しばらくして玲奈が疲れて寝始めた。
美波は玲奈を抱っこしながら呟いた。
「お姉ちゃん、私大丈夫かな。」
頼る人がいなくなった美波は不安に襲われていた。しかし、自分が変わらないと玲奈も自分も生きていけないことは分かっていた。
まだ心の準備をするには充分な猶予が美波には無かった。
美波の目から涙が溢れた。その涙を拭いてくれる人はもう誰もいなかった。
玲奈の静かな寝息だけが聞こえていた。