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あの時、私は  作者: あき
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第11話 美波

あみが萌夏に連れられた場所、そこは普通の病院だった。

なかに入ると「美波」と名前だけ書かれたプレートを見つけた。

「ねえ萌夏ちゃん。ここに本当に美波がいるの?」

「確証は持てないけど、まずは事実確認をするため私だけ病室に入るからあみちゃんは待っていてね。」

そういうと萌夏は病室に入る。

「美波おばさん、こんにちは。」

萌夏の姿を見た美波という名の老婆は笑顔で出迎えた。

「あら萌ちゃん!!会いに来てくれたの?嬉しいわ。」

萌夏は美波を見つめて言った。

「ねえ美波おばさん。聞きたいことがあるの。」

「あらどうしたの?」

「あみさんって知ってる?」

その名前を聞いた途端、美波は驚いて言った。

「なんでお姉ちゃんの名前を知っているの?萌ちゃんには一度も話たことはないはずなのに。おばあちゃんも知らないはずよ?」

その返事を聞いた時、萌夏は立ち上がり扉を開ける。

「あみちゃん、間違いないよ。ほら入って。」

あみはゆっくりと病室に入る。視線の先には驚いて固まった美波がいた。

「お、お姉ちゃん?嘘だよね?」

「美波なの?こんなにおばあちゃんになって。」

再会を果たした2人は泣きながら抱きしめ合った。

「うわーん、お姉ちゃん。もう会えないと思っていた。」

美波は子供のように泣いている。萌夏には姉に甘える、まだ幼い妹に戻ったように見えた。

それを見た萌夏はそっと扉を閉めた。


しばらくして美波はあみに話しかける。

「お姉ちゃん、あの言いづらいんだけどさ。」

「どうしたの?お姉ちゃんなんだよ、何でも言って。」

美波が戸惑いながら質問する。

「何で生きているの?あの日確かにお姉ちゃんは私の目の前で。」

それを聞いたあみは目を丸くする。

「え、美波何言っているの?お姉ちゃんはここにいるでしょ?ねえ萌夏ちゃん。」

あみが振り返ると萌夏は浮かない表情をしていた。

「え?萌夏ちゃんまでどうしたの?」

萌夏が口を開く。

「やっぱりあみちゃんって既に亡くなっていたんだね。」

「え?いつからそう思うようになったの?」

「資料館の入り口に来た時だよ。ガラスにあみちゃんだけ反射せずに姿が映っていなかったから。その時にあみちゃんは幽霊なのかなって思ったの。受付の人も私しか見えて無かったから確信したの。隠していてごめんね。」

資料館で受付をする際に萌夏が2人分の受付を済ませたというのは嘘だったのだ。

その嘘はあみがもう亡くなっていることに気づかせないための優しさだった。

広島で何が起きたか受け止めるだけでも精一杯なのに、自身の死も到底受け止めきれないだろうと萌夏は判断したのだ。

あみは愕然とする。

「そしたら街の人が相手してくれなかったのって。」

萌夏が答える。

「私と美波おばさん以外の人には見えていなかったからだと思う。」

あみは落ち込んだが、しばらくすると明るく振る舞った。

「そ、そうか。私は死んじゃったんだ。」

萌夏は気まずそうに俯いていた。あみの顔を見れそうでは無かった。

そんな萌夏を見たあみは近づいて、萌夏の両頬を両手であげた。

「こら!そんな顔しないの。萌夏ちゃん気を遣ってくれてありがとうね。貴方のおかげで私が死んだ日に広島で何が起きたのか知れたし、妹にも会えた。」

その言葉を聞いた萌夏は顔を上げてあみを見つめた。萌夏と目が合ったあみは続ける。

「私は萌夏ちゃんのおかげで死んでも後悔がなくなったんだよ。私は救われたの。だから落ち込まないで。」

萌夏を励ますあみを見て美波が呟いた。

「ふふふ、お姉ちゃん。何にも変わっていない。」

それを聞いたあみは美波に向かって笑顔で振り返る。

「ねえ美波、私が亡くなった後どんなことがあったの?最後に教えてよ。」

「分かったよお姉ちゃん。ほら、萌ちゃんもおいで。」

美波が手招きをし、萌夏を隣に座らせる。

「初めて人に話すなあ。自分の話なんて。」

美波は外を眺め、あみと萌夏の手を握ると語り始めた。

病室には日の光が差し込んでいた。

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