第04話 遺跡探索
大貴族エルンハルトの一角を攻略。
王国ホワイト改革は、幸先のいい第一歩を踏み出した。
──さすが、ヴィオラとリリカだ。
さっそく、ドワーフ商工会と連携して、領地の農業振興プロジェクトに動き出していた。
クライアントが決まったとなると、いよいよ精霊炉を急がなくてはならない。
国外担当チームも本格稼働だ。
その前に、リスティアからひとつ提案があった。
俺たちが運用しようとしている「精霊炉」──つまり魔導ギアへのエネルギー供給には、中位以上の力のある精霊との契約が欠かせない。
リスティアの魔王カンパニー時代の伝手を使えば、協力してくれる精霊を探すのは難しくない。ただし、当然ながら「対価」が必要になる。
「お宝が大好きな子なの」
リスティアがそう言ったとき、思わず眉をひそめた。
ずいぶん俗っぽい精霊もいたもんだ。
とはいえ、実力は折り紙付き。
交渉するならその精霊が話が早く、最有力候補らしい。
「お宝って……どんな?」
「そうね〜。珍しければ珍しいほど、喜ぶと思うな〜」
答えになってるような、なってないような……。
こういうとき、相談すべき相手は決まっている。
──餅は餅屋ってやつだ。
俺はカレンとレナ、そして彼女たちの舎弟である元・ブラック冒険者ギルドのA級パーティ、レオンたちに声をかけた。
「お宝かい。そいつは冒険者のロマンだね」
即座に反応するカレン。 金と酒とバトル──それがこの女戦士の三大欲求なのだ。
だが話を聞くうちに、現実の厳しさが見えてきた。
王国内の遺跡やダンジョンの多くはブラック冒険者ギルドの縄張りで、すでに探索され尽くしているという。
「手つかずの場所も、あるにはあるんだけどね……」
レオンが口を挟む。
「あの遺跡ですか、アネゴ」
いつの間にか“アネゴ”呼びになっていた。
「そうだね。あたしとレナ、それにグレイスも挑戦したことがあるけど……」
そう言って、カレンは首を横に振った。
あのカレンとレナでも攻略できなかった? どれだけの難関なんだ。
──そして、さらりと出てきたブラック冒険者ギルド長・グレイスの名前。
この三人、昔は同じパーティだったらしい。
グレイスのことは俺は直接知らないが、相当な女傑だと聞いている。
ヒーラーであり、精霊契約術師だったという。
同じヒーラー職のセラ曰く──
「自分で回復しながら魔獣を殴り倒してたんですって。普通じゃないわ……」
戦闘力は、あのカレンにも引けを取らないという。
「昔はね、ポエムとか花言葉とかが好きな乙女だったんだけどねぇ」
カレンが懐かしげに言うと──
レオンたちは、露骨に引いた顔をしていた。
人物像がまったくつかめない。
カレンは苦笑して、話を戻した。
「……とにかく、そんなわけでブラック冒険者ギルドも、今は手を出してないってことさ」
「相当やばい魔獣でも出るってのか?」
俺がそう訊ねると、カレンは少し考え込むように眉間にシワを寄せた。
「魔獣はいるけど……そこまででもないかな。問題は、仕掛けだね。それでずっと足止めされてる」
レナが代わって説明を加える。
「変な問題が出るんだよね。ボクたちには意味不明。 グレイスは、契約術式の一種じゃないかって言ってたけど……まだ誰も解除できていないから、どうなんだろう」
なるほど。力技では突破できないってことか。
宝があるかどうかも分からない。 でも、他にあてがあるわけでもない。
俺は詳しい場所を聞き、探索チームの編成に入った。
カレンたちには、エルンハルト領の魔獣駆除を優先してもらうことにした。
砦はレナと和尚の素材採取チームに任せた。
魔獣の強さがそこまででないなら、俺とモヒカンで何とかなるだろう。
そして、リスティア。 もし仕掛けが契約術式の一種なら、専門家の同行は必須だ。
リスティアが行くと聞いて、彼女の弟子であるセラ、ミア、リサの三人も「ぜひ」と名乗りを上げてきた。
ここで、あらためて彼女たちを簡単に紹介しておこう。
セラ:元・ブラック冒険者ギルドA級
紺のブレザーに白シャツ、きっちり締めたネクタイと膝丈スカート。
艶やかな黒髪を背に流す、細目の和風美人。優等生系ヒーラー。
ミア:元・ブラック冒険者ギルドA級
スクールベストに第二ボタンまで開けたシャツ、ゆるめのネクタイ、短めのスカート。
外ハネのミディアムヘアにバッチリメイクとネイル。ギャル系魔法使い。
リサ:元・ブラック冒険者ギルドE級
先輩たちとすっかり打ち解け、なぜかマリンブルーのセーラー服に衣装チェンジ。
肩上で切りそろえたショートカットと、笑顔が眩しい、見習い魔法使い。
──このゲームは、騎士団の物語のはずなんだがな。
こうして盗賊団とファンタジー学園という異色のコラボが誕生したのだった。
***
探索にあたり、装備を整えることに。
元・A級冒険者パーティが使用していた魔導ギアは、以前カレンとレナによって破壊されたが、ドワーフ商工会を通じて新たなものを支給していた。
リサには、リスティアが修業時代に使っていたというおさがりの杖が渡される。
ミアは「私もそっちがいいんだけど」とブツブツ言っていたが。
さらに、各人の魔導ギアにはリスティアの契約術式が封入された。
ちなみに、魔導ギアは必ずしも精霊炉によるエネルギー供給を必要としない。
あらかじめ使用エネルギー量を定めた術式を封入することで、限定的に魔法を行使できる。精霊炉が発明される前は、こうした方法しかなかったという。
俺はこのタイプを「スタンドアロン型」と呼ぶことにした。
例えるなら──
精霊炉が“都市ガス”なら、スタンドアロン型は“ガスボンベ”。
あるいは、電源供給で言えば“コンセント”と“バッテリー”の違い。
スタンドアロン型は、使い切れば再封入が必要になるため、供給面に難がある。 俺たちが精霊炉の整備を急いでいるのも、そこに理由がある。
──というわけで、装備を整えた俺たちは砦を後にした。
遺跡探索か……冒険ファンタジーしてるじゃないか。これぞ異世界ってやつだよな。
このときの俺は、少しだけワクワクしていたのだった。




