第08話 静かなる開戦
俺たち砦側には、新たに──魔王、ゼファス、リスティア、リリカが正式に加わった。
素材調達はS級冒険者カレンを中心に、元・ブラック冒険者ギルドA級パーティのリーダー・レオンと戦士グロックが主力を担う。モヒカンと鉄仮面も幹部として加わった。
採取チームはレナと和尚がまとめ、リスティアは契約術者の育成を担っている。
魔王、ゼファス、ヴィオラ、リリカは経営管理を担当。これまでフィジカル面に偏っていた俺たちに、ようやく優秀な頭脳が揃った。組織としての層が、確実に厚みを増している。
そして今、俺たちはあらためて今後の方針を確認していた。
***
「精霊炉はライナくんとドワーフ商工会で進めているが、稼働までは数カ月はかかるな」
ゼファスが進捗を報告する。
さすがライナとドランだ。ゼファスの進捗報告を聞いて、俺は内心で唸った。数カ月でもかなりのスピードだと思える。
あとは、俺たちに協力してくれる精霊の確保だな。
課題をここで一度整理する。
1. 精霊エネルギーインフラ構築
・精霊炉:
ライナ+ドワーフ商工会で一基開発中(数か月以内稼働目標)。
・精霊エネルギーの供給源:
契約に応じる中位以上の精霊を確保。
2. 王国内の協力者探し
・良識派貴族との連携:
地方からの改革基盤づくり。
・産業競争力強化:
魔導ギア活用による農業・鉱山・製造業の効率化。
・技術供与:
貴族領内工房の魔導ギア産業再興。
3. WSOとの関係改善
・制裁緩和:
協力貴族領の制裁解除、監査受け入れ条件整備。
・国際信用回復:
王国産業の信用を取り戻し、他国との商取引ルート樹立
それぞれの課題は独立したものではなく、密接に絡み合っている。
だからこそ、俺たちはチームを分け、連携しながら進めることにした。
WSOへの働きかけは、俺とゼファス、リスティアで担う。
そして、協力者となる良識派貴族を探し、営業にあたるのはヴィオラとリリカ。
ヴィオラは国内に謎めいた情報網を持ち、交渉の場数も豊富だ。
リリカは広報統括の前は営業部の出身。
「魔王賞も取ったことあるっちゃ!」と胸を張り、どこか得意げだった。
ふたりとも気が合うようで、頼もしすぎる美人コンビだ。
王国内での協力者探しだが。
この世界で出会った貴族連中は、どいつも小悪党か、目の濁った無能ばかりだったが……中には、まともな奴もいると信じたい。
ヴィオラの話によれば、「エルンハルト」という地方大貴族が、まだマシな部類らしい。
王都の貴族相手では目立ちすぎる。まずは地方の有力者を巻き込み、静かに着実に実績を重ねるのだ。
エルンハルトというのは聞き覚えがある名前だ。銀シャリのゲーム内だったか……?
思い出せなかったが、とにかく、次の一手は決まった。
そして、ふたつのチームを束ね、俺が留守中の砦の経営を執り行うのは──魔王だ。
最初こそ若い者に遠慮する素振りを見せていたが、その実績と能力の前に、他の選択肢はなかった。
正直、俺は現場を飛び回っている方が性に合っている。だからこそ、魔王が全体を見てくれるなら、これ以上の安心はない。
ゼファスたち旧・魔王カンパニー組はもちろん、砦の面々も誰一人異を唱えなかった。
むしろ──魔王の言葉があるだけで皆の心は落ち着き、自然と前を向く。そんな空気が、確かに広がっていた。
「またひと花咲かせられるとはね……あの頃を思い出すなあ」
魔王は盗賊団の面々を見渡し、穏やかに頷いた。
聞けば、魔族はかつて荒くれ集団だったという。だからこそ、団員たちにどこかシンパシーを感じているのだろう。
ある日、
「ゼファスくん、成人式ではこんな派手な格好で暴れててね……」
そう言って懐から一枚の写真を取り出し、俺に見せてきたものだ。
魔王は、どういうわけかゼファスの黒歴史を暴露したがる。
──ともあれ。
その彼らをまとめ上げ、ホワイト企業を一代で築き上げたのが、この男だ。
その手腕を──今度はこの砦で、いかんなく発揮してほしい。
新体制スタートだ。
***
……前年比240%。
邪神の口から告げられた売上目標に、役員会議室の幹部たちが小さくざわめいた。
邪神は淡々と告げる。
「我々の精霊炉ビジネスは業界三位。価格破壊と魔導ギア稼働時間の向上で、風穴を開ける」
「無茶だ……」誰かのかすれた声が、室内に漏れた。
だが、邪神は意に介さない。
「そして、新たな市場を開拓する。資源豊かなポテンシャルを秘めたフロンティア──魔導ギア未開の地」
契約本部長ルチアの肩がわずかに動く。まさか……あそこはWSOの制裁下……。
邪神の瞳が冷たく光る。
「ターゲットは、王国だ」
静寂が室内を支配する。
そして──王国を舞台にビジネス戦争の幕が、音もなく上がった。




