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第08話 素材調達

「ええんやな、ボス?」


モヒカンがいつもの釘バットではなく、“バ─ルのようなもの”を構えて立つ。


「ああ」


俺は腕輪型の魔導ギアを装着し、水晶玉の周囲にあるリング型ダイヤルをひねった。


瞬間、淡い青の光が水晶に灯る。


(たしか、効果は一回30分……だったよな)


ドランいわく、長時間の使用は精霊への負担が大きく、適度なク─ルタイムも必要らしい。


(酷使は倫理協定違反になるから気をつけろ、って言ってたな……なかなかホワイトじゃないか)


身構えた直後、モヒカンの“獲物”が唸りをあげて襲いかかる。そして──


その一撃を、俺の体は軽々と弾き返した。

衝撃はほぼ皆無。傷もない。


「ドワ─フの技術を信用していないわけじゃなかったが……すごいな」


内心ドキドキだったが、実験は成功。

身体硬化のギアは想像以上だ。残りの4つにも、期待が持てそうだ。


「……こいつは、いけるな」


***


「おい、モヒカン、行ったよっ!!」


荒野にカレンの怒号が響いた。


「おう、まかせときや!」


サイのような一角の魔獣が、巨体を揺らしてモヒカンに突っ込んでくる。

大きさは象ほどはあるだろう。


魔導ギアを起動させたモヒカンが、そのまま正面から受け止め──

豪快な掛け声とともに、魔獣を投げ転がす。


「よし、鉄仮面! 脇を狙え!」


指示と同時に、鉄仮面もギアを発動。人間離れしたスピ─ドで獲物に駆け寄り、脇腹に爪を突き立てた。


ハントの指揮はカレン。

メンバ─は団員たちと、解放された元・契約労働者たち。


かつての略奪者と、かつての被搾取者──

ぎこちないながらも、“共闘”の色は確かにそこにあった。


今も俺たちは“ホワイト略奪”を続けている。

だが一つ違うのは──

解放した労働者たちを放置せず、「団預かり」として砦に受け入れていることだ。


「手に職がない」と嘆いていた彼らに、その先があることを示したかった。

少なくとも、自分の足で歩む意思を持つ者には、俺は杖にも、いしずえにもなりたいと思った。


「そっちも油断するなよ、コリン!」


カレンが自ら一太刀で魔獣を仕留めつつ、若者に声をかける。


「はいっ!」


呼ばれたコリンが元気よく応じ、罠を展開して駆けていく。


腕の立つ者は魔獣ハントへ、

そうでない者は採取や素材加工へ──

分業体制は、少しずつではあるが形になりつつあった。


***


「そう。根本を傷つけないようにね。丁寧にやらないと、値段が落ちちゃうから」


森のはずれでは、レナが採取と加工の講習を開いていた。

彼女は植物や鉱石に関する知識が豊富で、説明も簡潔かつ的確。


採取・加工班の指導は、基本的にレナが担当している。


そこへ、ヴィオラと和尚が採取から戻ってきた。

特に危険なエリアには、幹部が同行するという方針だ。


和尚が鞄の中を探り、ごそごそと何かを取り出す。手のひらに収まる白い卵だった。


「これでよいかな?」


レナが手を伸ばし、そっと受け取る。


「うん、合格。火山口に住む鳥の卵……薬の材料としては、かなり貴重」


和尚は額の汗をぬぐいながら、にこりと笑った。


「いやはや、魔導ギアはすごいな。なければ丸焼けになっていたところだ」


隣では、ヴィオラが布袋に包まれた鉱石を差し出す。

レナは袋の中身を確かめると、軽くうなずいた。


「……うん、これも完璧。あそこ、有毒ガスが出るから超危険なんだけどね」


「レナの作った地図と説明が分かりやすかったからよ。それに──」


ヴィオラはふと背後を振り返る。


「案内役も良かったわ。ね、リサ」


名前を呼ばれた少女は、照れくさそうに笑う。


「えへへ……ちょっとだけ、冒険者やってたので。あんまり優秀じゃなかったですけど……」


「そんなことないわよ」


ヴィオラがやわらかく微笑み、首を横に振った。


レナはマニュアル作成にも積極的で、最初は“なんとなく”で行われていた作業も、少しずつ“技術”として蓄積され始めていた。


こうして──

カレンとレナの協力のもと、俺たちは素材調達の“仕組み”を整えつつあった。


***


その日の帰り道。

夕暮れの光に照らされながら、ふたつの影が寄り添うように歩いていた。


リサがぽつりとつぶやく。


「ねえ、コリン……いまの私たち、ちょっとだけ“冒険者”っぽくない?」


コリンは歩みを緩め、隣を見る。

目が合うと、自然と笑みがこぼれた。


「うん。ドラゴンを倒す夢は、まだ捨ててないけど……。いまはカレンさんの背中を見て、もっと“ちゃんと”学びたいんだ。あの人、本当にすごいからさ」


その言葉に、リサはふっと表情を緩めた。


「……うん。私も、少しだけ、自分のことを好きになれそう」


ふたりは小さく笑い合いながら歩を進める。

西の空は茜色に染まり、その背中をあたたかく見守っていた。

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