第07話 持続可能な盗賊団
「……へえ、盗賊ってのは、いろいろおかしなこと考えるんだね」
カレンは床に胡座をかき、スルメをくわえながら、ぐいと酒をあおって俺の話を聞いていた。
くつろぎすぎてて、もはやオヤジである。
どうやら俺の留守中、ふたりは砦を訪れ「帰ってくるまで待つ!」とその場でキャンプを張ったらしい。
が、長期戦の備えはしていなかったようで──あっさり食料が尽きたとのこと。
それを見かねたモヒカンが、「メシ食うか?」 と誘ったのがきっかけらしい。
「いやぁ、目の前で腹減ってるやつがいたら……なあ?」
モヒカンはニッと笑って、串焼きをカレンの皿に追加する。
(お前……つい最近まで、村を襲って食料略奪してたよな?)
和尚がフォロ─に入る。
「袖触れ合うもなんとやら……ボスならこうしたはず。それをやったまでよ」
そうか。
もしかすると、これが“ホワイト改革”の副産物なのかもしれないな。
レナはというと、鉄仮面がお仕えしている猫様を膝にのせたまま、無言でモフモフし続けている。
ときどき、ふっと顔を近づけて──吸っていた。
そしてその隣には、優しげなイケメンがいた。
──ああ、さっきから気にはなっていた。
あまりにも自然に団員たちと馴染んでいるから、ついスル─していたが──
ここはあえて確認すべきだろう。俺はおそるおそる声をかける。
「あの……どちら様?」
サラサラの黒髪。切れ長の目元は涼やかで、伏せた睫毛の奥には理知的な光。
肌は滑らかで白く、頬のラインはやや細め。どこか中性的な、整いすぎた顔立ち。
その“誰だお前”は、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
その背後に、ふわりと花が咲いたような……気がした。
「え? やだなボス。ずっといたじゃないですか。出張お疲れ様でした」
(いや、いたっけ!?)
頭の中で団員デ─タベ─スを必死に検索するが、ヒットしない。
いやそもそも、こんなキラキラした男がうちにいるはずが──
「ああ、なるほど」と言って、イケメンはそっと顔を伏せ、何やらゴソゴソと……
ほんの数秒の沈黙。
そして顔を上げたその瞬間──
「ウオオオオオオオオオオオ!!」
鉄仮面のシャウトが響いた。
……お前、そういう設定だったのか。
仮面を被ると髪型まで変わるのはおかしいだろ! というツッコミを入れる気にもならなかった。
***
「それで? 素材調達ねぇ……」
宴の賑わいの中、カレンがぽつりと話を振ってきた。
手には、俺がドランから借りてきた腕輪型の魔導ギア。
彼女はしげしげと眺め、彫り込まれた紋様を指でゆっくりなぞる。
「さすがドワ─フの仕事だね。……見事なもんだ。ブラック冒険者ギルドのギアなんて、子どもの玩具に見えるよ」
そう言って腕輪を俺に返すと、視線をまっすぐこちらに向けた。
「でも──いくら力があっても、魔導ギアがあっても、それだけじゃ“無謀”ってやつさ。採取ポイントの場所、危険地域、魔獣の習性や弱点……何も知らないんだろ? 素人が首を突っ込んだら、死ぬよ」
「……やっぱり、そうか」
思わず肩を落とす俺。
だが、カレンは「まあ、でも」とつぶやくと、手にしていたジョッキを一気に飲み干し、床にドンと置いた。
「タダ飯を奢られっぱなしってのは、あたしの性に合わないんでね」
そしてこちらを見て、にやりと笑う。
「手伝ってやってもいいよ、それ。……あんたとの決着は、そのあとだ」
「え……?」
レナは猫の背を撫でながら、そっと顔を寄せ、「すん」と静かに吸い込む。
そのまま、こちらを見ずにぼそりと言う。
「……ボクたち、こう見えて“S級冒険者”だから。素材調達くらい、そのへんの連中より、よっぽどできるよ」
──おいおい。頼もしすぎるだろ。
と、そこへ。
あのイケメンが、なぜか真剣な表情で口を開いた。
「ボス。カレンさんとレナさんに、ぜひ協力してもらいましょう。
……僕、ずっと思っていたんです。このまま略奪だけで、将来があるのかなって」
「困ってる契約労働者の皆さんを助けるだけじゃなくて、ちゃんと働ける環境を作って……未来につなげる。ボスの考えにすごく共感します。
暴力じゃなくて仕組みで変えていく。これが、“持続可能な盗賊団”の姿ですよね」
あまりにもまともな意見に、俺の口から出たのは、「……お、おう」だけだった。
(いやお前。最初、“俺の爪が獲物を切り裂くぜぇぇぇッ!”って叫んでたろ)
ツッコミを心の中で抑えつつ、俺はカレンの方を向いた。
「いいのか? カレン。ブラック冒険者ギルドの方は……」
「ああ、あたしらはフリ─ランスさ。グレイスとは腐れ縁で、仕事は回してもらってるけど──縛られる筋合いはない」
そう言って肩をすくめ、指を一本立てる。
「ただし。指導料はきっちりいただくよ。あと、うまい飯と酒。これが条件」
「ボクは……猫様をモフモフできれば」
──交渉成立だな。




