表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/168

第04話 剣を愛し、剣に愛され

俺は、賞金首狩りを名乗る戦士風の女と対峙していた。


背後には、和尚(おしょう)の首に短剣を突きつけた忍び風の少女がいる。

ただ、こちらは今のところ牽制以上の動きを見せる気配はない。


決闘の邪魔さえしなければ、危害は加えない。

──そんなことを言っていた。


盗賊団首領相手に、タイマンを挑むとは。

それだけ、腕に覚えがあるということか。


俺は、あらためて目の前の女を観察した。

身長は180cm近く。女性としてはかなりの長身だ。

全身に無駄な肉はなく、引き締まったシルエット。

おそらく、背中に担いだ大剣を振るうためだろう、上腕から背筋にかけての筋肉が異常に発達している。


まるで猫科の大型獣のような、しなやかで力強い肉体。

狩りに特化したビルドアップ。


自信過剰ではない。

これは──強者の矜持。

サシでの勝負を望むのは、誇りある者の選択だろう。


彼女は俺に鋭い視線を浴びせていたが、盗賊団首領の“圧”を前に、すぐには踏み込めないと見たのか──ふっと眼力を緩めた。


「へぇ……あんた、やっぱり強いね。隙がない」


ぽつりと呟くように言い、

そして背中の大剣に、ゆっくりと手を伸ばした。


「さっきの雑魚じゃ、使うまでもなかったけど──

あんたには、これでいくしかないみたいだ」


俺の背筋に冷たいものが走る。

素手でモヒカンと鉄仮面を軽くいなした相手だ。

その彼女が、いよいよ“本気”を見せるというのか。


ビュンッ──

風を裂く音とともに、大剣がいつの間にか彼女の手に収まっていた。


……あれ?


(どうやって抜いた?)


背中に担いでいた、あのサイズ……常識的に考えて、可動域が足りるはずがない。

だが、それをまるで流れるように抜いてみせた。


(いやいや、そんなことはどうでもいい)


俺は首を振って雑念を振り払った。


「カレン、気をつけて」


後ろから静かな声がかかる。

カレンと呼ばれた女戦士は、大剣をゆっくりと構えた。


「分かってるよ、レナ……」


そのやり取りを聞きながら、俺も構えをとる。

あの大剣のリーチ……おそらく、カレン自身の身長と同じくらい。

間合いは──二メートルはとらないと危険だ。


そんなことを考えていた、そのとき。


ゾッとする殺気が首筋に走る。

反射的に体を仰け反らせた。


次の瞬間──

俺の喉笛があったはずの空間を、剣の軌跡が正確になぞっていた。


開始の合図など、どこにもなかった。

カレンが剣を構えた瞬間……いや、それ以前から“狩り”は始まっていたのだ。


俺は思わず、首筋に手をやる。


……繋がってる、よな?


いまのは、盗賊団首領の反射神経じゃなきゃ、確実に──

冗談でも何でもなく、この女は本気で──


(いや、ウソだろ!!)


こいつは、やばい。

心拍数が、一気にレッドゾーンを振り切る。


破滅エンドを避けるために動いてきたはずなのに、

突然あらわれた賞金首狩りにキルされるなんて──!


どうする? 逃げるか?

この体なら、逃げに徹すれば……あるいは……!


──カレンの初太刀をかわしてから、まだ数秒も経っていない。

俺の脳内は、フル稼働していた。


だが、

その思考を切り裂いたのは、耳慣れた関西弁だった。


「ボスぅぅう! いてこませやぁぁあ!!」


……なんて汚い応援だ。


俺は思わず、苦笑いを浮かべた。


しかし、少し冷静になり、さっきまでの自問自答が頭の中で再生される。


逃げる、だって?

俺だけ我が身可愛さに?


たしかに、この世界に転生したばかりの頃なら、そうしていただろう。

極悪集団なんて知ったことじゃない。自分の安全が何より第一。


──だけど、今は違う。


こいつらや、ティナの前で“ホワイトな盗賊団を作る”って、大見得を切っただろうが。


……逃げてんじゃねえよ。

アイツみたいに。


脳裏に浮かんだのは、クソ上司の顔だった。

いつも威張るだけ威張って、いざとなると責任は部下に丸投げ。

あいつの尻ぬぐいで、何度涙を飲んだことか。


俺が上だったら、絶対に部下を見捨てない。

──あのとき、そんな思いで唇を噛んでいたんじゃなかったか?


逃げたら、あいつと同じってことだ。


俺は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

そして、モヒカンに向かって、グッと親指を突き立てる。


……転生前の俺なら、カレン相手に瞬殺されるのがオチ。

だが、今のこの体は──“盗賊団首領”のものだ。

このフィジカルに、賭けるしかない。


剣を構え直すカレンに、俺は真っ向から向き合った。


そして、今度は──こちらから踏み込む。


(うな)りを上げて迫る大剣の袈裟斬りを紙一重でかわし、

懐に入り込んで、ボディにカウンターを叩き込む。


が、それを(ひざ)で蹴り上げてガードするカレン。


腕に激しい衝撃が走る。

だが、ここで引いてはならない。


考えている暇などない。

何が起きているのか自分でも理解が追いつかないような、そんな攻防のスピードだ。


余計なノイズは、邪魔になるだけ。


二度、三度と打ち合ううちに──

カレンの剣は、俺の首元を何度も掠めた。

それを皮一枚でかわしながら、俺の拳も彼女の胴や肩をいくつか捉え、鈍い衝撃となって返ってくる。


最初のうちは歓声を上げていたモヒカンや鉄仮面も、

いつの間にか声を呑み──

息をすることすら忘れて、戦いを見守っていた。


「ハッ、やるね! さすが“1億”。そうこなくちゃ面白くない」


カレンは、言葉どおり楽しげに剣を振る。

その一撃一撃が、まるで急所を狙いすましたかのように鋭い。


(クソッ、このバトルマニアめ……)


盗賊団首領の体は問題ない。

だが、紙一重の命のやり取りに、俺の神経が限界を迎えそうだった。


攻防の隙を突き、俺はバックステップで距離を取る。


やはり、強い……。

完凸リュシアンやクラリスにも、遜色ないレベルだ。

魔王にだって勝てるんじゃないか?


そんな思考を巡らせていると、カレンは剣を軽く肩に担ぎ、その場で伸びをしながら飄々(ひょうひょう)と口にした。


「ん〜、ようやく体が温まってきたかな。

それじゃ、第2ラウンドといこうか!」


……呆れたタフネスだ。

こっちはそれなりのダメージを入れたつもりだったんだが。


化け物かよ……。


──仕方ない。

とことん、やるしかないのか。


と、思ったその時。


「おー。やってるやってる」


不意に、まったく別の方向から声が飛んできた。

反射的に俺とカレンはそちらへ視線を向ける。


そこにいたのは、若い男女の四人組。

そのうちの一人、銀色の鎧を(まと)った男が、ニヤリと口角を上げて一歩前へ出た。


「あんたが賞金首? ソコソコ強そうだな」


気取った口ぶりに、張り付いた薄ら笑い。

場の空気が一気に濁る。


「なにしに来たんだい? レオン」


カレンが眉をひそめ、あからさまに嫌悪をにじませた声で尋ねる。


だが、レオンと呼ばれた男は、彼女をちらりと一瞥しただけで──応えなかった。


レオンの張り付いた薄ら笑いが、徐々に戦場を支配していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ