第17話 幕間
― 近隣地域動向報告書(抄) ―
提出先:王都防衛局第三室
作成者:地方観察官 ケルヴィン・バルジ
以下、本年度下半期におけるリエンツ南東域の治安報告を提出する。
本地域は従来より複数の盗賊団が出没し、交易路の安全を脅かす事案が継続して確認されてきたが、近頃、特異な動きが観測されている。
第一報:
かつて凶悪とされていた一派「灰岩窟の盗賊団(仮称)」が、突如として周辺村々の略奪行為を中止。
代わりに、密売人など非合法活動を行う者を標的とした襲撃を繰り返すようになったとの報せあり。
また過去の略奪品を返還し補償を行ったとの形跡もあり、現地住民からは“正体不明の義賊”と誤認されつつある。
ただし、王国法に照らせば依然として非合法な武装集団であることに変わりはない。
第二報:
先月、北部の労働者仲介業者を襲撃。就労規則に重大な疑義ありと主張し契約書を武力行為にて廃棄。契約労働者を伴って立ち去った。
労働者の処遇は不明だが、一部は団内に保護されている模様。
上記は職員からの内偵の聞き取りで判明したことであるが、労働者仲介業者は王国経済協議会理事ヴァルト=アレクシオ=グランツハイム侯の私有であり、捜査の介入については慎重を要する。
第三報:
一部目撃情報によれば、同団は「税納入」を試みた形跡すらある。
納税先である郡守との接触は未遂に終わったが、現地に残された文書から「ホワイトな組織づくり」なる不可解な理念が確認されている。
信憑性は未確定だが、団内に何らかの指導的変化が生じている可能性は高い。
所見:
近頃の行動からは一種の「戦略的転換」あるいは「自浄作用」が読み取れる。
ただし、背景に“統治思想の転換”があったと仮定するなら、これを放置することは中長期的に見て危険と考える。
本団体は、過去の凶行歴から見ても以前として討伐対象であり、得体のしれない行動を繰り返していることから、より危険性が増したと見ることもできる。
以上、簡略ながら報告とする。
※備考:
同団の首領に関する正確な情報は依然不明。
一説には、かつての残虐指揮官とは異なる人物が指揮を執っているとの噂もある。
現在の首領は、「略奪の禁止」や「労働環境の改善」など、従来の盗賊団らしからぬ統治方針を掲げており、団内に何らかの思想的転換が生じた可能性は否定できない。
その目的、および正体については、引き続き慎重な監視が必要である。