表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/150

第11話 足止め方法

モニターに映るのは、ぐったりと地面に崩れ落ちたサーフレイス。

その傍らで、二人の男は明らかにドン引きした表情を浮かべていた。


「お……おい……」


最年長のマニッシュが、絞り出すように声を漏らす。


すると、ユリィの元気いっぱいな声が飛んだ。


「あ! 大丈夫ですよ。ちょっと魔法で眠ってもらってるだけですから!」


……いや、殴殺(おうさつ)にしか見えないんだが。

ゴーレムに搭載された魔導マッスルのフルパワーは常人比150倍。

まさか、本当に死んでないよな?


俺は途端に不安に駆られた。


モニターに映るレーダー画像には、生命反応が三つ。

だが、そのうち一つが弱々しく点滅し──ふっと消える。


……おい。


思わず声が出た瞬間、また復活。

心臓に悪いぞ。


マニッシュは大きく息を吐き、動揺を押し殺すように言った。


「そ……そうか。ずいぶん前衛的な魔法なんだな。

まあ、生きてるならいい。──交渉再開と行こうじゃないか」


この男は、同じブラック冒険者ギルドといっても、初期のレオンとは違い道理が通じそうだ。

ただ、彼も最近はだいぶ丸くなってきたが。


「それで、俺たちを見逃してくれる条件は、この装備と仲間の情報だったな。

……装備は、わかった。ギルドに戻ればペナルティはあるだろうが、命には代えられん」


しかし、そこでマニッシュはグッと目に力を込めた。


「しかし──サーフレイスの言う通り、仲間を売ることはできん。

冒険者にも、矜持ってものがあるからな」


なかなかの人物じゃないか。

俺は、こういうやつは嫌いじゃない。


……もっとも、言葉の裏を返せば仲間は確実に存在するということだ。

残り二種の兵装についてはドランに聞けば把握できる。

ここでこれ以上時間をかけても仕方ない。


俺は砦のリスティアに連絡をとった。


「ユリィの方は鎮圧した。

そっちに、おそらく一人か二人が向かっているはずだ。気をつけてくれ」


スピーカーからは、「わかったー」というリスティアの声。


「ユリィ、一級兵装を回収後に砦へ戻ってくれ。

リスティアなら大丈夫だとは思うが……映像情報が欲しい」


そう告げると、ユリィは目の前の二人に向き直り、交渉のまとめに入った。


「分かりました。じゃあ、装備だけでいいです。武装解除、お願いしますね」


マニッシュと若い男──リハルトは無言で頷き、鎧化を解除する。

大盾と弩砲へと戻り、さらにサーフレイスの方も、リハルトが操作を加えるとパーツが外れて大剣の形に組み上がっていった。


彼らがそれをリヤカーのような荷車に載せ終えると、ユリィは無邪気な言葉を発した。


「それじゃあ、もうこんなことしちゃだめですよ?

冒険者さんは──冒険をしなくちゃ! ね?」


マニッシュは、やれやれ、といった風に肩をすくめた。


「そうだな。言う通りだ。

傭兵くずれみたいな真似は懲り懲りだな。魔獣ハントの方がよっぽどいい。なあ、リハルト」


リハルトも静かに同意し、ふと問いかける。


「なあ、こないだうちのレオンたちがそっちを襲撃したきり戻ってないんだが。

どうやら、あんたたちは殺しはしなさそうだし……あいつら、生きてるよな?」


「はい! レオンさんもグロックさんも、セラさんもミアさんも。元気ですよ。

私たちの仲間です」


ユリィの即答に、リハルトはふっと表情を緩めた。


「そうか……なら、いい。

サーフレイスは、こんなんでも仲間思いだからな。

セラが元気だってわかったなら、俺とマニッシュでこれ以上あんたたちに手を出さないよう説得しておく」


そう言ったあと、リハルトはふと視線を伏せ、付け加えるように呟いた。


「……あ、それと。これは独り言なんだが。

俺の仲間ふたりと、もし戦闘になっても……できれば穏便に済ませてやって欲しい。

勝手なお願いで悪いんだけどな」


バツが悪そうにマニッシュの方を見るが、無言の笑顔が返ってくるだけだった。


ブラック冒険者ギルドも、根っからの悪人ばかりじゃない。

俺は、少し複雑な気持ちになった。


ユリィは嬉しそうに声を弾ませる。


「ふふっ。大丈夫。砦にいるリスティアさんは優しいから」


いや、どうだろうな。


俺は、エルフの里で見た光景を思い出す。

彼女が本気で怒ったときに放った、あの巨大な雷撃。

そして、ごろつき共を谷底へと送り込んだ転移魔法……。


冷静に、恐ろしいことをやってのけるやつだ。


「それじゃあ、冒険がんばってねー!」


ゴーレムは荷車のハンドルを握り、声を残して風のように去っていった。


「冒険、か……あんなもん見ちまったら、戦争なんてやってられねえな。

頑張ってお宝ゲットといこうじゃねえか」


マニッシュはどこか清々しい声で呟いた。

だが、その視線が足元へ落ちると、顔に複雑な影が差す。


「ところで……本当に死んでないよな? こいつ」


***


ドランの話によると、残り二種はランスと杖らしい。


ファンタジーゲームでは、ランスを振り回すキャラもよく出てくる。

だが実際には、あれは馬上で運用するものだろう──そう思った俺の疑問は、ドランの説明で解消された。


「ランス自身に推進ユニットを搭載してんだ。

スピードと突撃力は、侮りがたいぜ」


……なるほど。高速機動兵装ってわけか。ワクワクするじゃないか。


一方の杖については、ギルドマスターの説明を聞いても、ドランにはよくわからなかったらしい。

ただ、「強力な魔法を撃てるらしい」ということだけは確かだという。


そこに、ライナが自信満々の声を張り上げた。


「リスティアの杖は、最大で五属性混合魔法を放てるのよ。──敵じゃないわね」


そういえば、それを開発したのはライナだったな。


だが、ドランが妙な対抗意識を燃やす。


「さっきのやつらはゴーレムの障壁に手も足も出せなかったが……。

ジジイの開発したギアだ。きっと一泡吹かせてくれるはずだぜ」


おい、どっちの味方なんだよ。


俺はリスティアに伝える。


「そっちに向かっている兵装の情報は以上だ。

できれば武装解除してお引き取り願いたいんだけどな」


するとスピーカーから聞こえてくる声。


「さっきの話、聞いてたよ。体内魔力操作かぁ……動きを止めるのは良いアイデアだね」


そして数秒間、「う〜ん」と考える声が続く。


「じゃあさー。脳内物質を操作してハッピーな幻覚を見せるとか、魔界の寄生生物を召喚して神経系を乗っ取るってのはどうかな~?」


……どうしてそういう発想になるんだ。

リハルトから「穏便に」と頼まれているのだ。却下に決まっている。


そこへ、こちらからも楽しげに割って入る声が響いた。


「気が合うわね。私も同じこと考えてたわ。

でも──どうせなら傀儡魔法を試してみない?

あれ、魔力糸と神経接続が難しいけど……リスティアならきっといけるでしょう。

まあ、二、三本切れても死にはしないって」


ゼファスは渋い顔を浮かべつつ、満面の笑みで語るライナを黙って見つめていた。


俺はたまらず口を挟む。


「なあ……セラがよく使ってる、体が重くなるやつ。ああいうのでいいんだよ。

ただし──押しつぶすのは無しな」


一応、予防線は張っておくことにした。

油断していると「1,000気圧で行こう!」とか言い出しかねないからな。

マリアナ海溝並みの圧力だ。


「なによ、ゴリラは発想が貧困ね」


ライナが口を尖らせる。

いや、普通のデバフで十分だろう。なぜ人体実験に持って行きたがるんだ?


とにかく──速度低下や睡眠など、穏当な方法で片をつけるように指示を出した。


……だんだん、襲撃者が気の毒になってきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ