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第05話 魔法の才

俺はさっきから違和感を感じていた。


セリーナは、ずっとリュシアンの頭を撫でながらヒルダと魔王とのやり取りを聞いていたが……なんだ、この距離感は。

ゲームの中ではこんなキャラではなくて、物静かな学級委員長タイプじゃなかったか?


そして、クラリスはチラチラと二人を見ては、顔を赤らめている。


そんな中、セリーナが口を開いた。


「あの、精霊契約術師・リスティア様のことはミレーヌから聞いています。

彼……リュシアンに学ぶ機会をいただけないでしょうか。魔法の才能があるのですが、王都騎士団ではその才を伸ばす術がなくて」


リスティアの表情がピクリと変わり、リュシアンをじっと見つめる。


「……きみ。風の精霊さんが、ずっと寄り添ってるね。普通じゃあり得ないことだよ」


リュシアンは静かに頭を下げた。


「はい、ずっと風の精霊に応援してもらっていて……簡単な魔法は使えます。けれど、契約というものがどういうものかは分からなくて」


そう言って軽く手を振ると、シュルシュルと音を立てて室内に風の流れが生まれた。


リスティアは目を細める。

「契約なしでこれだけ使えるなんて、きみ自身の魔力が相当高いね……エルフや魔族並みじゃないかな」


そう言ってゼファスを見ると、彼も頷いている。


そして、部屋の壁にもたれかかり気だるそうに様子を見ていたミアに「あれ、お願い」 と言葉をかける。


ミアがぶつぶつ言いながら退室し、戻ってきたとき手にしていたのは透明な水晶球だった。


リュシアンの前に無造作に置かれ、ミアが淡々と告げる。


「契約適正の測定器。……知ってる?」


「あー! 私もやったことあります! 少しだけ光ったんですよ!」

アリサが元気よく声を上げるが、ミアは鼻で笑っただけだった。


リュシアンはごくりと喉を鳴らし、恐る恐る水晶球に手を添えた。


――瞬間。


眩い閃光が弾け、部屋全体が一気に白に飲まれる。

まるで太陽を閉じ込めたかのような輝きに、全員が思わず目を覆った。


周囲がどよめく中、誰よりも先に声を上げたのはゼファスだった。


「きみ……こんな才能を眠らせていたなんて、世界の損失だ!

リスティア! Sランク適正じゃないのか!?」


リスティアは真剣な表情で頷いた。

「うん、間違いない……ちなみに私はSSだけどね」


なぜ、さりげなくマウントを取るんだ。


だが、俺も納得していた。ゲーム本編で聖剣を振るっただけの器は確かにある。


「やっぱり、あなたにはすごい才能があるわ!」


セリーナが弾けるように叫び、そのままリュシアンを抱きしめる。


……おい。さっきからボディタッチが多すぎるぞ!

銀シャリは淑女のためのゲームだろ!?


そしてリュシアンは真剣な眼差しでリスティアに向き直る。


「お願いします。精霊契約術式を教えていただけませんか。大切な人を守る力が欲しいんです」


その一言で、セリーナの興奮は限界突破。

頬を真っ赤にし、瞳をきらめかせてリュシアンを見つめている。


「ちょっと、ちょっと!」

そこに、ミアが勢いよく割り込んできた。


「センセーは忙しいの。そういうのは、お断りしてるから」


いや……エルフ国から帰ってきてから、最近は菓子を食べて昼寝してる姿しか見てないんだが。


リスティアがぱっと表情を輝かせる。


「じゃあ、ミアが教えてあげなよ。

ほら、初級受かったでしょ。実力はもっとあるんだから、人に教えるのも経験だよ」


「えぇーー!?」

ミアは顔をしかめ、心底からめんどくさそうな声をあげた。


リスティアがぷいっと横を向く。


「ふーん、じゃあセラにお願いしよっかな。

リサの面倒も見てくれてるし、やっぱり一番弟子って言うだけのことはあるよね」


すると、ミアは慌てて食い下がった。


「はあ? セラなんかに教わったら、地味なやつしか覚えないじゃん! やっぱ魔法はドカーンと爆炎でしょ」


頭をかきながら、リュシアンを見据える。


「しょうがないなー。あたしが特別に教えてあげるよ」


リュシアンは顔を輝かせた。

「ありがとうございます、先生!」


「良かったねーリュシアン! ミアさん、すっごい魔法使いなんだよ!」


アリサが全力で持ち上げると、ミアは鼻を高くした。


「まあね〜。

ま、この砦はむさ苦しいのやオジサンしかいないから、たまには可愛い男の子の相手も……」


言い終わらないうちに、――キン、と澄んだ金属音。


気付けば、ミアの喉元に鋭い剣先が突きつけられていた。


セリーナだ。

穏やかな表情なのに、目がまったく笑っていない。


「え……じょ、冗談だって……」

ミアが小さく呻くと、セリーナはゆっくり剣を引き、にっこりと微笑んだ。


「先生は魔法だけじゃなくて冗談もお上手なんですね。

……“私の”リュシアンを、よろしくお願いします」


凍りつく空気の中、リスティアだけがワクワクした目つきで修羅場を眺めていた。


その様子を伺っていた俺の背中に、ツーっと汗が落ちる。


――セリーナは、ミレーヌよりはマシ。最初はそんなことを思っていたが。


前言撤回。どちらも危険人物だ。


リュシアンは、ルートを間違えたんじゃないか?

俺は、彼の行く末を密かに案じた。


そしてミアは冷や汗を拭うと、「ねえ、やっぱりイヤなんだけどー」とリスティアに助けを求める。


だが、聞こえないふりでスルーされていた。


***


アリサたちは国境警備隊で仲間と合流し、その足で前王妃に会うためにエルンハルト領へ向かう。

一方でセリーナとリュシアンは、ミアを伴って王都へと帰還する予定だ。


ミアは「ひさびさの都会〜!」と少し浮かれているようだったが……こちらとしては道が別れる前に、アリサとベアトリス両陣営に改めて俺たちのビジネスのことを理解してもらう必要があった。


それは、ドワーフ商工会の魔導ギア工房と、エルンハルトの分家・エドワルド領内での農業振興の視察。


それぞれ現地のドランとリリカに案内を頼んであり、快く迎えてくれるはずだ。


そして砦の面々は、急ピッチで引っ越しの準備を進めていた。


今後の連携を考え、ドワーフ商工会が押さえている管理物件を新たな拠点にする予定だ。


セリーナからの情報では既に王都では盗賊団を糾弾する世論操作が行われており、このままでは確実に派兵の気運が高まるだろうとのこと。

あまり時間をかけていられそうもなかった。


ヒルダとの打ち合わせどおり、俺たちは「国外逃亡を図るが、国境付近で戦闘になり――全員その場で処刑された」という筋書きで進める。


かなり物騒な話だが、ヴィエールの蛮勇は王国全域どころか諸外国にも鳴り響いている。

「国境を侵す輩はひとり残らず血祭りに上げる」――その恐ろしいイメージは、もはや揺るぎない常識と化していた。


誰も疑問など抱かないだろう。

むしろ、そうであることが俺たちの逃走劇を盤石なものにする。


計画は完璧だと思えた。


だが、騎士団長ガーランドの動きはこちらの予想を上回っていたのだった。

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