外出したいナーシャお嬢様【続き】
悲報。ナーシャお嬢様とはぐれましたっ!
手を握っていたのになんで!
騎士だって沢山、まわりで護衛してくれていたのにっ!?
騒ぎになるとよくないからと、騎士たちは目立たないようにお嬢様の捜索を始めた。
責められないのが、僕はまだ子どもだと言われているみたいで辛い。
お嬢様が居なくなったのは、平民街と貧民街の境目を歩いているときだった。
「猫だ!」
そう、お嬢様は猫を見つけて、僕から離れて人混みに紛れ込んでしまったんだ!
お嬢様は小さくて、すぐに居なくなってしまった。
平民の服装をしているから誘拐されることはないと思うけど、貧民街に入ってしまっていたらどうなるか分からない!
早く探しださないと!!
周囲を見渡す。平民街には詳しくない……。だけど見覚えがある。というか、ここは僕と母さんが仕事をしていた酒場の近くでは?
酒場に行けば何か分かるかも!
夜になりかけているのもあって、酒場は常連のお客さんたちで賑わっていた。
「……っ女将さん! 猫を追いかけた小さな女の子、みませんでしたか!?」
忙しそうに料理を運んでいる女将さんに、酒場の入口から叫ぶ。
「サリュシス君? 久しぶりじゃないの! 元気か心配してたのよ。何かあったの?」
女将さんは動きをとめて、僕のところにくる。
「白金色の長い髪をした女の子を探しているんです……、不注意で見失ってしまって」
何の情報も得られなかったらと思うと焦燥感が募る。
「女の子ねぇ……」
女将さんが目をつむって、しばらく沈黙した。
お願いだから、情報をください!
固唾を呑んで女将さんをみる。
「ああ! あの子かしら。走って入って来たと思ったら、裏口からでていってしまって何事かと吃驚したのよ?」
酒場の裏口! その外には僕と母さんが暮らしていた家があるけど、まわりは貧民街だ!
「ありがとう! 今度また会いにくるね!」
「いいえー。そのときはまた舞台に立ってくれると嬉しいわ!」
「分かった! 女将さんまたね!」
酒場の中を通って裏口から外にでる。
裏口からでたら、そこには未知の空間が広がっていた。
ここ、本当に僕が住んでいた家の外?
崩れそうな塀の上に猫。家の入口にも猫。左を向いても、右を向いても猫、ネコ、ねこ!
いつから僕の家は猫の家に……?
お嬢様は猫を追いかけていたから、家の中に入っているのかも。
猫を踏まないように、おそるおそる古びた家の扉を開けて中に入る。
まって、本当にここは僕の家だった?
家の中にも猫が沢山。幻じゃないよね……?
疑心暗鬼に陥りながら、寝室だった部屋の前まできて、中から灯りが漏れていることに気づく。
寝室の扉を開けるとそこには
「ナーシャっ!!」
良かった! 無事だ! どこにも怪我はなさそう?
他の猫より一回り大きい白猫と、小さい猫たちに埋もれているお嬢様がいた。
勢いでお嬢様を抱きしめる。
「心配した! 手を離してごめん!」
気が抜けて、お嬢様を抱きしめたまましゃがみ込む。
手を離した後悔が押し寄せた。
例えお嬢様が自ら離れたんだとしても、僕はお嬢様を捕まえておかないといけなかったんだ。
大事なくて本当に良かったっ!
「サリュ君、サリュ君大丈夫?」
能天気なお嬢様の声が耳元で聞こえる。
何も分かって無さそうな声に、無性に安心した。
「……泣いてるの?」
「泣いてません……」
お嬢様に頭を撫でられる。
「なんか、ごめんね?」
「無事だったので、もういいです」
だけど、街歩きはしばらくお預けにさせてください。