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9.悪夢

あの夜会の日、中庭のベンチで魔法庵への合格通知を喜んでいる自分がそこにいた。


待ち人は来る気配が全くない。


そう、あれはメレディス様だったのよねと、心の中でミレアは笑った。


ミレアは手の中の手紙が自分は手を離していないのに勝手に落下してゆくのを驚きながら目で追った。

芝生の上に落ちた手紙はまるでガラスや鏡のように割れて飛び散った。


それを拾おうとして手を伸ばすと、その欠片に映っていたのは、自分の姿ではなく、なぜか叔母のエレノアだった。


どうしてこんなことがと戸惑っていると、背後から「エレノア」と誰かが呼ぶ声がした。


振り向くとそこには、アラミスの姿があった。

ミレアは「いいえ、私はミレアです」と答えた。


「いいや、君はエレノアだ」


アラミスの冷ややかで粘着質な声が近寄って来て、そこでミレアはハッと目が覚めた。



その時は妙な夢だなと思っただけだったが、アラミスが出てくる夢をそれから連日見るようになった。


夢の中でアラミスはミレアをエレノアと呼び、エレノアをミレアと呼ぶことを繰り返している。

アラミスはミレアを見ているようで見ていない、そんな異様な視線を自分に向けて来る。


ミレアが「エレノアではありません」と答えると、アラミスは激昂しミレアの首を両手で締めあげてきた。


ミレアは飛び起きて、ようやく悪夢から解放された。


夢の中での、アラミスのざらついた手の感触がやけに生々しくてゾワリとする。


昨日もアラミスに殺されそうになる夢を見たばかりだ。


なぜこんな嫌な夢を続けて見るのだろうか?


ここのところ、そのせいでよく眠れていない。


ミレアが悪夢に悩まされていることはメレディスも気がついていた。


「ミレア、クエスの山の家へしばらく行っておいで。アイリィも一緒に連れて行きなさい」


山の家はメレディスが作った別荘のようなものだ。

クエス山での修行や儀式の時の滞在に使用している。魔法庵よりは小ぶりだが使い勝手は悪くない。


「でっ、でも」

「こっちのことは心配せずに、後はあたしがやっておくから、羽を伸ばしておいで」

「これは叔母のことと何か関係があるのですよね?」

「知りたい気持ちは良くわかるけど、身体が資本だから、今はしっかり休養しておきなさいな。真相がわかったらちゃんと全部教えるから」


自室で山の家で過ごすための荷物をまとめていると、パキッと何かが折れるような音がして、反射的に音のした方向を見やった。


本棚の横の壁を背にして、陽炎のように揺らめくアラミスの姿がそこにあった。


ミレアは初めて生霊というものを目にした。


心臓が止まるのではないかと思う程に驚き、悲鳴をあげることも後ずさることすら出来なかった。


それでも知らないうちに日々のメレディスの教えが身に付いて来たのか、咄嗟にクリアリング魔法をかけることだけは忘れなかった。


「とにかくクリアリング魔法をかけとけば大抵なんとかなるもんさ」という師匠の教えの通り、アラミスの姿はすぐに消え去った。


気のせいではなくて、あれは本物のアラミスだった。


夢の中だけでなくて、起きている時まで彼の姿が見えてしまうなんて、これでは睡眠不足どころか食欲すら失せてしまいそうだ。


こんなことが頻繁に続いて行くと思うと萎えてしまう。


極少の魔力しかないアラミスですらこうなのだから、もしアラミスが強大な魔力の持ち主だったらと思うと、ゾッとして生きた心地がしなかった。


確かに今はここにはいない方が安全かもしれないと納得し、ミレアはクエス山まで転移魔法でアイリィと一緒に飛び去った。


クエス山の浄化力が高いのか生霊も悪夢も一度も見ることはなく、アイリィと日常を忘れて雪山生活を楽しむことができた。


メレディスからのあの知らせが届くまでは。

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