7.転移魔法
視察の帰り際、魔法庵の中に転移魔法用の通路、座標を設定することになった。
魔法省の視察が短時間で済むように、また、ポーションを王都に納めるのに効率を良くするためということだった。
そして緊急時の避難先に魔法省を選べるようにというプロワーとオスカーの共通の配慮からだった。
いくら魔女様でも、身を守る術は多い方が良いでしょうということだが、確かにこれは心強い。
オスカーが魔法院を出て魔法省への配属が正式に決まったことを通知し、今後ともよろしくという挨拶でもあった。
「やっぱりミレアは殿下に愛されてるねえ」
「そんなことありませんてば」
「なんだかんだ言って、これからちょくちょくミレアに会いに来るんじゃないの、そのための転移座標よね、フッフッフッ」
「私は何があってもメリ様の弟子はやめませんから! 好きな人ができたら魔女をやめるなんてことはありませんよ」
ミレアは膨れっ面で抗議をする。
「うん、うん、あんたの魔女愛は十分わかっているよ」
メレディスは楽しげに笑った。
オスカー殿下が緑の瞳をキラキラさせて生まれたてのユニコーンを撫でていたのは、なんだか可愛らしくて眼福だった。
(あれはきっとまた撫でにやって来るだろう)
ミレアは自分のユニコーンが持てたことに興奮していた。
自分の腕の中へ落ちて来たあの温かい珠の重みを生涯忘れることはできないだろう。
今はミレアのベッドで眠っているユニコーンは、自分の名はアイリィで女の子だと言った。
ちなみにメレディスのユニコーンはセルジュという名だとはじめて知った。
これから長い時を共に歩む相棒となってくれるユニコーンのまだ柔らかい鬣にそっと指で触れた。
窓の外が白々としてくるまで眠れずにミレアはアイリィに寄り添った。
オスカーはユニコーンの成長を見に定期的にやって来るようになった。
可愛い角も生えてきたアイリィもすっかり彼に懐いてしまった。
赤髪のオスカーと赤い瞳のユニコーンはまるでペアのようだ。
プロワー夫人が魔法庵から逃げたかつての弟子だと知ると、オスカーも驚いていた。
「あの娘の焼いたアップルケーキは絶品なのよね。あっ、殿下、今度プロワーに持って来るように頼んでもらえません? それから、もう時効だから、二人で遊びにいらっしゃいと伝えて下さいますか」
「ええ、必ず伝えます」
二週間後、プロワー夫妻が持参してくれたアップルケーキをメレディスと堪能した。
もちろんオスカーも一緒だ。
プロワー夫人のジュディはメレディスを見たとたん号泣し、二人は抱擁しながら
「「やだもう、全然変わっていない!」」
とお互いに言い合った。
最近はプロワー同様にオスカーまでが魔法庵の一員のような存在になりつつある。
彼の滞在時の専用部屋も用意している。
アラミスの不興を買い、追放された形でゼカリアへやって来た当初は、このようなことになるとは全く想像していなかった。
ミレアも転移魔法を完璧にマスターすると、活動範囲も広がった。
そのお陰で、クエス山まで試作中のポーション用の材料を採取するのも楽にできるようになった。
オスカーも興味津々でミレアについてくることもあった。
アイリィが大きくなって騎乗できるようになるまではまだかかる。
それまで転移魔法を活用することで、試作中の新しいポーションも完成できる筈だ。
ミレアの魔法はメレディスにはまだ遠く及ばない。
それでも魔法庵での修行の毎日が楽しくて仕方ないのだった。