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5.ユニコーン

プロワーの妻がメレディスの逃げ出した弟子だったことは驚きだが、だからこそミレアの魔法庵行きに対して理解と協力が得られたのだと納得した。


メレディスのかつての弟子であったジュディは魔法学園を卒業と同時に魔法庵へ合格した。

性質も良く魔力も充分だったが、いつまでたってもユニコーンに慣れなかった。

一年過ぎてもメレディスのユニコーンを彼女はなぜか恐れた。


「馬の姿の魔法の箒だと思えばいいのさ」

「でっ、でも······」


元々馬が苦手だったこともあるのか、ユニコーンへの騎乗がどうにもできず、魔女として向かわないとならない場所への移動ができなかった。


メレディスもそうだが、歴代のゼカリアの魔女達も魔法の箒は一切使わない。


新しい魔女が一人で臨むクエス山での儀式にも行けずにいるのは流石のメレディスも困っていた。


これでは新しいユニコーンをもらい受けることができないからだ。


他の地域の魔女はともかく、ゼカリアでは魔女とユニコーンはペアであり、ゼカリアの魔女として歩んでゆくには自分のユニコーンを持つのは必須だった。

ゼカリアの魔女は自分のユニコーンと生涯を共にし、魔女の死期が近づいてくると、ユニコーンと共にクエス山へ行き、そこで永眠するものなのだ。


そんな時、たまたま魔法庵の視察に訪れていたプロワーに出会い、彼に一目惚れした魔女の弟子は恋に逃げた。

魔女になるのはやめて結婚して普通の人生を送りたいと言い出し、プロワーに猛烈なアタックをしてジュディは彼の妻に収まった。


「ユニコーンが苦手な魔女って珍しいですね」

「だろう? あたしもびっくりさ。それ以外は本当にいい娘だったんだが。 ミレアは大丈夫だな」

「はい、もちろんです」




ミレアが魔法庵に来てから半年が過ぎていた。


メレディスのユニコーンに乗せてもらい、クエス山へ一人で向かっている。

ミレアが自分のユニコーンを受け取りに行くためだ。

急激に浮上すると高山病など身体に負担がかかるので、ゆっくり空からの眺めを楽しむように飛行する。


魔力を使用した飛行船の開発は行われているが、まだ実用化はされていない。

この国ヒューゼルでは、飛行船よりも高位魔力者による転移魔法での移動の方が確実に低コストで速い移動手段だからだ。


眼下に見覚えのある町並みが見えてきた。


はじめてゼカリアに来て、馬車で渡った橋とポプラ並木が懐かしく感じられる。


普段は魔法庵からはほぼ出ないので、世間から隔絶された生活、確かに修道院暮らしとほぼ変わらないかもしれない。


クエス山に近くなるにつれて空気が冷ややかになっていく。


『ミレア、もうすぐだ』

「あなたもここで生まれたのね?」

『ああ、もう随分昔のことだが』


ミレアを乗せたユニコーンはゆっくり下降して、山の中腹付近の雪の上にふわりと着地した。


『風が強いから私にしっかり掴まって』


雪道を進み、自分のユニコーンをもらい受ける洞の前に辿りついたら、メレディスに教えてもらった手順で、一人で儀式を行ってゆく。


霊峰クエスは雌雄のユニコーンによって護られていると云われている。


よって、ユニコーンとゼカリアの魔女に危害を与えれば、山は怒りで噴火を引き起こすと伝えられてきた。

ヒューゼルとファージアの二つの国に股がる山でもあるから、戦争となれば山が憤るため、両国の協調関係は必至である。


今から330年程前に、両国間で戦争が勃発した直後、クエス山は火を噴いた。戦争どころではなくなった両国はすぐに和議を結んだという。


そこは雪に埋もれてしまわぬよう木々に守られていた。

燭台を灯し馬頭型の入り口から洞の中に進んで行きつつ、長らく使用されてこなかった空間にクリアリング魔法をかけてゆく。


最奥には象牙のような質感のもので作られた雌雄のユニコーンの御神体が安置されている祭壇があった。

この御神体は象牙質のユニコーンの角から作られたものなのかもしない。

持参した花と水晶、儀式用ポーションを捧げた。


「我が名はミレア、ゼカリアの新しき魔女なり。我が魂にふさわしきユニコーンを与え給え」


凛と響く声でミレアが祈りを捧げると、御神体がぽうっと黄金色に輝いた。

鈴が鳴らされたような涼やかな音がすると、空間が揺らめき何かがミレアの両手の中に落ちて来た。


それは黄金色の温かい大きな珠だった。両腕にずっしりと確かな重みを感じる。予想外の重さによろけて倒れそうになったが必死に耐えた。

今まで生まれたての動物の仔を抱いたことはなかったが、ユニコーンの仔は子羊よりも大きく重いようだ。


『待っていたよ、ミレア』


という声がしたと同時に温かな黄金の珠が弾けて、地面へ落ちてゆくとユニコーンの仔の姿になった。


黄金色の(たてがみ)と毛、ミレアと同じ柘榴石のような赤い瞳の小さなユニコーンがふるふると身体を震わせながら、か細い脚で地面から立ち上がった。

まだ角すら生えていない幼い姿に、ミレアは息を飲み、そして歓喜で満たされた。


「ああ、私のユニコーン、私も待っていたわ」


ふわふわで柔らかな毛のユニコーンの仔を真新しい毛布で包み、丁重に抱きかかえる。

その重さに驚きつつ、ゼカリアの魔女として生きてゆく責任をかみしめた。


ようやく出口まで辿り着くと、洞の外でミレアを待っていたメレディスのユニコーンが美しく微笑んだ。

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