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4.メレディス

ゼカリアの魔女は自称350歳になったと言うが、本当の年齢は不詳だ。

名はメレディス、魔女になる前と魔女になってからも当時の家族や友人が生きていた頃には、そう呼ばれていたらしい。


「だからあんたもメリって呼んでくれていいよ」

「······はい、メリ様」


ミレアは先程自分が次のゼカリアの魔女だと言われたことは、まだ受け止め切れていない。

魔法庵に来ることは魔女の弟子になるということは承知していたが、自分もこれからメレディスのように300年以上生きるとは全く想像していなかった。


「今いくつ?」

「今年で22歳になります」

「婚期逃す覚悟でいるのよね?」

「はい、結婚はしなくても良いと思っています」

「したければしてもいいんだよ。魔女さえ続けてくれれば結婚も恋愛も自由さ」

「メリ様はしなかったのですか?」

「するつもりだったんだけどね、結婚前に相手が戦死したのさ。そんな時に先代の魔女にここへ連れて来られて、それであたしは魔女になったんだ」


メレディスは戦死した婚約者が転生するのを待つことにした。


やっと見つけたと思ったら、既に妻帯して子どももいたのでその時は諦めた。


二度目は、彼は女性として隣国に転生していた。その時は自分の正体を隠して友人として関わった。


三度目は見つけられるかはわからないけれど、それでも気長に待ってみるのだそうだ。


先代のゼカリアの魔女は450歳、初代のゼカリアの魔女は600歳を越えていたというから、あたしもそれくらいいけるかもとメレディスは冗談混じりに話した。



メレディスはミレアが魔法で作った家で暮らしている。

あれからすぐに三階建ての、はじめに作った家よりも大きな家に即座に作り替えた。

一階は厨房とクラフトコーナーと応接室、二階が二人の居住スペース、三階は資材保管庫、予備の部屋をいくつか用意した。

屋上にはガラス張りのドームを作って天体観測、サンルームにもできるようにした。


ミレアが二人分の朝食の用意をしていると

「ぶはっ!あんた魔法を使わずに作ってるんだ」

メレディスが皿によそってあったキノコとゼカリア特産の青菜のサラダを一口つまんだ。


「いいねえ、人の手で作った料理なんざ、いつぶりか」


同じ皿に出来上がったばかりの目玉焼きを乗せ、パンを添えて食卓に並べた。

メレディスはシャガイモのスープが気に入ったようで、一気に飲み干すとすぐにおかわりをした。


「上出来、上出来、この調子でよろしくね」


ご機嫌な笑顔を浮かべている。


「はい、お口に合って良かったです」


ミレアは洗濯や掃除は魔法で済ませたが、料理だけはなるべく自分の手で作りたかった。


魔法省の研究室ではポーション作りが主な業務で、ミレアの作ったポーションは評判が良く、高品質なのに手頃な価格で手に入ることから重宝されていた。

ゼカリアへ来てからも、これまで通り作ったポーションは王都へ納品することになっていた。

魔法庵で修行すればさらにハイクオリティのもの、新しいポーションができるだろうとミレアは期待している。


ミレアが魔法でポーション作りをするきっかけになったのは、母の心の病を治癒するためだった。

体の痛みや痺れ、外傷などに効くポーションは既に流通しているが、治癒魔法では治せない心の病に働きかけるポーションを必死に作り出そうと努力した。


だが、ミレアの作ったポーションを母は一切受け入れなかった。

ミレアが作ったというだけで過剰な拒絶反応をしてしまうのだ。

ミレアが作ったことを伏せて試しても、血族ゆえに、ミレアの魔力の痕跡やミレアのエネルギーを敏感に察知してしまい、同じように拒絶反応が起きた。


亡くなった叔母と同じ髪色、同じ瞳の色のミレアという存在を意識しないこと、思い出さないことが、母の精神の安定と保護になるという理由から、ミレアは実家にいられなくなった。


しばらくは父方の親戚の家に身を寄せていたが、全寮制の魔法学園へ入学してからはずっと独り暮らしだった。


子供の頃の姿よりも、成長した今のミレアの姿の方がより叔母を思い起こさせてしまう筈だから、もうこの先実家に戻る日は来ないだろう。


母の意識下から葬り去られた娘に縁談を取り持つこともなく、父からも放置されているため、自分がバーレイ家の娘として結婚するという道もほぼ閉ざされている。


それもあって魔法庵で学びたいという希望が強かったのだ。

帰らなくてよい片道切符はミレアには好都合だった。


師匠と弟子という間柄であっても、誰かと一緒に同じ家で暮らすのは何年ぶりだろうとミレアはそれだけで心が暖まるような気がしていた。


そしてメレディスも人恋しく思っていたのか、三食一緒に食事をし、二人で居間で過ごすことを楽しんでいるようだ。

時々ミレアのベッドに勝手に潜り込んで来ることもあった。

それを不快に思わない程、自分の中にあった人恋しさにミレアは驚いていた。

時々師匠と並んで寝る、そんな二人暮らしは、すぐに心地よいものになって行った。



「今まで他に弟子はいなかったのですか?」

「うーん、逃げちゃったんだよね」

「えっ?」

「20年前に弟子としてここに来て、一年ちょいで逃げ出したのがプロワー夫人さ」

「は?! えええ!?」


(室長、聞いてませんよそんなこと!)

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