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2.余興

夜会のあった二日後、上司と共にアラミス殿下から呼び出しを受けた。


褐色の髪に同じ色の瞳、そして口許には髭をはやし、それが嫌味ではない美男子はご婦人らに人気の高い王子でもある。

彼が最も国王陛下に風貌が似ている。


リオネル殿下とオスカー殿下は王妃殿下と同じ赤毛に緑の瞳、お二方は品行方正で温厚なご性質と聞いている。


アラミス殿下は不機嫌を露にした口振りでミレアをなじった。


あの日ミレアにウインクした同じ人物とは思えない。

気分によって態度がガラリと変わるお方のようだと、ミレアは身をすくめた。


「君さあ、オスカーはどうでもいいわけ?」


夜会の日に一度もオスカー殿下と踊ることも、会話をするでもなく、途中で会場を抜けた挙げ句、会が終わる前に帰ったことを責めているのだ。


「私の楽しみをなぜ奪うんだい?」

「楽しみ······ですか?」


ミレアが恐る恐る聞き返す。


「フッ、知らないの? 君は結構有名なんだよ」

「どういうことでしょうか?」


全く心当たりが無い。


「君は顔に出るのさ。誘いを受けた男に対しての社交辞令上の笑いが、脈無し度合いがあまりにもわかりやすすぎだと令息達の間では『脈無し令嬢』って有名なんだよ」

「も、申し訳ありません、全く存じませんでした」


上司はうつむいたまま苦笑いを浮かべている。


「だからさ、試して見たかったんだよ、オスカーに対して君がどんな顔をするのかをね。ダンスに誘われたらどんな顔をするのかとか。でなきゃ子爵令嬢の君なんかを王族の婚約者候補に入れるわけないでしょ?」

「······!」

「せっかくお膳立てしたのに、君ときたら」

「本当に申し訳ございませんでした」


自分を突然婚約者候補にしたのは、余興のようなもの、その余興に自身の弟すら巻き込むその残酷な感覚がミレアには理解できなかった。


この方が王太子ではなくて良かったと心の中で思った。


「中座した時、中庭にいたそうだけど、まさか他の男と逢い引きかい?」

「全く違います、至急相談したいことがあるからそこで待つように伝言を受けたのです。ですが結局その方は現れませんでした」

「プロワー、それは本当か?」

「は、はい、バーレイ嬢にはそのような連れはおりません。会場へも私の馬車で連れて参りました」

「ふうん、だとしても我が弟よりもそいつを優先したことには変わらないよね」

「誠に申し訳ございません」


アラミスはわざとらしく溜め息をついた。


「君ってつまらない子だねえ。もう金輪際夜会に来なくてもいいよ」

「······承知致しました」

「殿下、そ、それは」


プロワーが躊躇いがちに仲裁しようとしたのをアラミスが遮った。


「で、どうしようか、バーレイ嬢にはこの際、魔法省も去ってもらうことにするかな、どうだいプロワー?」


ミレアは戦慄した。


自分が判断を誤ったことが、アラミス殿下の不興をここまで買っしまったのだと。


「バーレイ嬢は、ゼカリアへ出向させます。五年は王都には戻れません。これは修道院に行くのと大差ないかと。それでお許しいただけませんでしょうか」

「ゼカリア? あの辺境地区か」

「左様でございます」

「······わかった。それで手を打とう、だが次はないぞ」

「殿下のご温情に感謝致します」



***



「助け舟を出して下さりありがとうございました」

「丁度いい逃げ道があって助かった。それにしても、『脈無し令嬢』とは酷いな、俺も知らなかったぞ」

「こ、今後は気をつけます。······でももう夜会は出禁になりましたので」

「向こうで頑張れ」

「はい、ありがとうございます」


ミレアが先日合格となったのは、ゼカリアにある「魔法庵」だ。

伝説のゼカリアの魔女から働きながら直接指導を受けることができる魔法省管轄の魔法道場だ。


その代わり十年、二十年に一度など不定期、募集人数も不明という極めて気まぐれな求人だ。機会を逃すと次はいつ受験出来るかわからない、かなり特殊なものだった。


しかもそれは女性に限られ、最低でも五年は寝泊まりを共にし、ほぼその魔法庵から出られないという。

一旦魔法庵へ行くと通常はゼカリアへ永住、王都にはまず戻って来ない片道切符であるため結婚前の若い令嬢は、魔法庵への憧れはあっても婚期を逃すのを恐れて尻込みすると言われている。


プロワーの「修道院へ行くのと同じ」というのはあながち間違っていない。


元々それは覚悟の上だったミレアは、ゼカリアの魔女が待つ魔法庵に思いを馳せた。

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