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王暴の魂塊譚〜家に隕石落ちたから旅に出る〜  作者: 大正水鷹
王暴編

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第86話最前線と先

 アクフはしばらくの交戦の後、教皇がいる戦場へと進んでいく。


 だが、その途中でその歩みを思わず止めてしまうような人物を遠くから目撃してしまう。


 そう、貴族の護神教の使徒である。貴族であるからか、自らの保有する軍を引き連れている。


 しかも、他のものとは何やら違った雰囲気を持っている。


 見た目としては、スパルタではどこにもいるような貴族の顔をしているが、それがアクフの脳内に保存されている奴隷の頃の主人の顔と類似するのだ。

 

 (もしかして、この人は俺の、いやそれよりもナルを奴隷として扱っていた貴族。)


 そう考えた瞬間、ミティスが言っていたことが脳裏によぎる。


 その内容は、かつての奴隷としての主人が今でもナルを追っているということだった。

 

 アクフは、後をついて行きているナルの方に目を向ける。


 視界に入ったナルは、かつての主人を見て唖然とした顔をしていた。


 そして、ものすごい速さでアクフの影に隠れる。


「アクフ…………。あの、貴族みたいな格好している人って。絶対に私たちの記憶にあるよね。」


 ナルは、昔にさせられた仕打ちから少しの拒否感を覚えているため、声が震えている。

 

「ああ、間違いない。俺達が奴隷の時の主人だ。」


「なんでこんなところに…………って、あの主人だったらこの場にいるのも全く持って不思議じゃないよね。」


「気をつけろ。前に会った仲間から聞いたんだが、まだナルのことを探しているみたいだ。下手に見つかったら、面倒なことになる。それに、軍の中に一人だけ突出した強さを持っている奴がいる。」


 アクフがそう言うと、ナルは意を決して姿を表して戦闘態勢に入る。


「ここは私に、任せてよ。ここからはいつ教皇と遭遇してもおかしくなし、気を取られて奇襲されて死んじゃったら、私は嫌だから。」


 アクフは当然、見ているだけの状態になることを避けるために、声を出そうとしたが、ナルの顔から伝わってくる思いから言うのをやめる。


 その時、アクフが注意していた人物が森の中にいるナルに気がついて、主人に耳打ちする。


「うむ?遠くからであまり良くは見えが、何か私が探している奴隷に酷似しているような気がする。おい、グラペ。あそこにいる者を捕らえよ、アレは私の奴隷かもしれない。」


「軍を使わなくても大丈夫なのですか?お話通りの人物であれば私一人で補足するのは大分厳しい気がしますし、それにこんなところにいるという事はエジプト軍に所属している可能性もあります。僭越ながら申し上げますが、下手に私一人が突っ込んでも犬死にしてしまうだけかと思います。」


「問題ないだろう。お前はそうやって分析ができる。仮に危なくなったとしても、お前の幾つもの魂塊を使えば問題なく対処できるだろう。私は有能な家臣であるお前を信用している。これ以上の言葉が必要というのであれば、言うがいい。しかし、もうこれで十分だと思うがな」


 そう言って、主人はグラペの方に恩着せがましく手を載せて、説得に近しい命令をする。

 

 少し思うことはあったものの、元奴隷であるグラペはスパルタの奴隷には例を見ない奴隷解放をしてくれた主人に恩義を感じて、ナルの方に向き直って戦闘態勢に入る。


 グラペが戦闘態勢に入ったことを確認したナルはもう時間がないと思い、

 

「じゃ、アクフはもし私がもう勝てなくて、殺されてしまうってなった時の為に周りを警戒しながら隠れていてね」

 

 と言った瞬間、奴隷のグラペがナルに向かってものすごい速さで飛んでくる。


 アクフも、それと同時にバックジャンプをものすごい速度で行って、瞬時に森の奥に進んでいった。


 (これで、アクフを巻き込んで不利な状況にしてしまうと言った不安はなくなった。この戦いは私が終わらせないといけない。)


 そう思って、ナルは牽制として『種子弾(しゅしだん)』を使って、グラペの勢いを削ごうとする。


 しかし、グラペの持っている魂塊モデルヨーロッパサイカブトを神を模した魂塊と似通った作り方で生成した魂塊、フラペの個別能力『全てを穿つ力(スラッパー)』を使って、飛び交っている『種子弾(しゅしだん)』を除けてしまう。


 (これは、強力な個別能力を持っているね。でもこれだけしか種子に損害を与えられていなかったら、まだ活用できる。)


 ナルは樹護り族の力である『植物急成長』と『植物特性強化』を使って尖り、まるで槍のような樹木をバラバラに散らばっている種から、伸ばす。


 木の槍達はフラペの気を使わせるために単純な動きをして迫る。

 

 それに対してフラペは、この程度は想定できていたと言わんばかりに、インドガンの魂塊の個別能力を使って空高く飛翔することによって、無数の木の槍を避ける。


 (あの魂塊に他の魂塊も使えるんだ。でも、あんなに高くにいるんだったら今から私のすることを止められないね。)


 ナルは『爆発西瓜(ばくはつすいか)』を使って、適当な所で爆発させて種をばら撒いて、そこから『植物急成長』で倍々に爆発し、森の木を豪快に吹き飛ばし、太いツタに変換しながら増やしていく。

 

 そのあまりの光景にフラペは、(何だこれは!こんなに爆発していたら、何もしないままで地上に降りてしまえば死んでしまうかもれない。)と思う。そして、アカウミガメの魂塊の個別能力『亀結界』を使って甲羅型の結界を生成してナルに向かって剣を突き立てて、落ちる。

 

 ナルは暗殺者時代に培った感を使って、背後に飛ぶことによって回避する。その後、落ちることによって生まれた隙をついて、『毒藍苺(どくらいめい)』を浴びせる。

 

 落下の衝撃と辺りで爆発し続けている『爆発西瓜(ばくはつすいか)』と相まって、フラペにはそこそこの攻撃を受けた。しかし、それでも優秀な戦士であったためか、まだまだ余裕がありそうである。

 

 ここにいては『爆発西瓜(ばくはつすいか)』で、無駄な消耗をしてしまうと考えたフラペはナルから一旦距離を取る。


(あの甲羅みたいな障壁は結構硬いみたいだけど、私の『爆発西瓜(ばくはつすいか)』を意図して避けている辺り、完全に無視できるくらいの硬さじゃないのかな。それか、生力を使って受ける衝撃を肩代わりさせているかだけど、この場合だったら関係ないね。)


 ナルはそう考えながらも、フラペがこちらの攻撃を警戒しているなら好都合と思いつつ、切り札である『ガイネーク』の召喚準備をする。

 

 『ガイネーク』は確かにベリープルの中に入ってナルに力を貸してくれるようにはなったが、その存在自体がかなりの高位的なものなので、特殊な条件下でなければ出すとこが出来ないのだ。

 

 それは、使用者の半径10メートル以内を自らが操ることのできる植物で埋め尽くすこと。

 

 ナルの半径10メートル以内には既に大量の『爆発西瓜(ばくはつすいか)』の種が散らばって、新しい目を瞬時に出すこともできるようになっている。


 もう既に条件は整っている。


 しかし、そこで大技を出させるほど、フラペは鈍感ではない。即座に何かを行おうとしたナルを見て被爆覚悟の特攻を仕掛けてくる。

 

 『全てを穿つ力(スラッパー)』によって、弓矢よりも速くなっているフラペは飛んできてナルの腕を狙う。


 ナルは、『ガイネーク』を召喚する準備を中断して、回避するために遠くまで飛ぶ。それによって直撃は避けることが出来たが、少々遅かったのか少し掠ってしまう。


 『種子弾(しゅしだん)』の残りを使ってバネのように使って、遠くに飛んでいたナルにフラペが、

 

「なぜそこまでして、我が主人から逃げるのだ。あの人は私を奴隷解放してくれるほど良い人だと言うのに。それにあの人の理念は立派だ。奴隷に厳しい国に生まれたのに奴隷を隣人のように大切にしてくれるんだ。」


 と油断を誘うために言う。

 

 (奴隷を大切に?何を言っているの?あの主人は、私が嫌がったのに魂塊を無理やり作らせたし、まともな食事なんてみんなもらえていなかったから、私が『果実生成』をして皆にあげたりしていたんだ。それに、誰とも分からない貴族かそれと似たようなものを殺させるために、奴隷を使い捨てていた。だから私を庇って、死んでいった仲間が存在ちゃったんだ。それに私の大切なアクフにだってその扱いをした。その全ての元凶のあの主人が奴隷を大切に?…………………………ふざけないで!)


 その効果は絶大で、ナルの地雷を見事に踏み抜くことに成功する。


 通常、人間は怒っている時は攻撃性が増してあまり物事を細かく考えられなくなり、その結果として軽率な行動をしてしまう。


 それを理解してのものだったが、何よりも他人のことを大切に思っており、もう元仲間達の死から逃げないと誓ったナルからしてみれば効果は絶大である。


 ナルは眼の前にいる存在(フラペ)を、自らの大切にする殆どのものを否定するものだと判断して、『爆発西瓜(ばくはつすいか)』を『植物特性強化』で強化して、『植物急成長』によって出来うる限りの速度と頻度で射出する。


 フラペは少し、逆鱗に触れてしまったのは軽率だったかと思いつつ、『亀結界』を使いながら避けて、死角に回ろうとナルの周囲を言ったり来たりする。


 その途中でいくら激昂した末の指向性が低下している乱射でも、頻度もかなりのものであったことから何度もぶつかりそうになるが、『亀結界』で受け止め、ついにはナルの背後を取っていた。


 もうこうなってしまえばもらったようなものだと思いつつ、『亀結界』の内側に閉じ込める準備をしながら気絶させようとする。


 (しかしながら、こうも上手く行ってしまうとはなんとも不気味だ。この少女の逃走には他の奴隷も関わっていたという話だが、その奴隷が見つからない。こんなところにいるのだから、エジプト軍として戦闘を行っているのだろうが、それであればこの近くにいると考えていたが、少々考えすぎたか。)


 そう考えならがら、剣の持ち手を強くぶつけ意識を刈り取るために振り上げている。

 

 しかし、ここで激昂していたナルも背後を取られたことによって生物的な感が働いて、すんと冷静になる。


 (はっ!いけない。こんな所で止まってられないんだった。ここは、取り敢えず『植物急成長』で。)


 ナルは『植物急成長』によって『爆発西瓜(ばくはつすいか)』のツタを大きくして操って高くまで飛び上がって回避する。


 (危なかった。そもそもあんな残虐な主人のことをそう思っているわけがない。これはあの主人がやれと命じていて言ったのであって、本心ではないはずだよね。ここで正気を取り戻せなかったら死んでいたところだよ。)


 そう思いながら、上空で現在の状況を瞬時に整理する。


 (特にあの敵がなにかして工作した形跡はないね。それに『爆発西瓜(ばくはつすいか)』の残骸も全然残っているね。それに飛び上がっている状態の私に何もしてこない今だった『ガイネーク』を使える。) 


 そう考えた。ナルは目を閉じて封印を解放するようなイメージを持って、ベリープルを具現化して地上に落とす。

 

 勢い思って落ちたりんごの様な見た目をしている魂塊はくりくりとした目で、フラペを見つめてから、その体が根本から崩壊するように変形する。


 そして、中からギラリと目を睨みを聞かせながらも、口元が歪んでおり笑っているように見える大蛇が現れる。


『やっと我が出る必要がある的に遭遇したか。それにしても、この景色は中々だな。』


 そういいながらも、しっかりと、その巨大な体を使ってフラペの周りを囲んで身動きを取れないようにする。


 そのままの勢いで、ナルの指示を聞いてフラペを締め付け始める。


「あの主人から逃げるなら、今のうちだよ。今だったら私も逃げる背を追うことなんてしない。けど、もう一度私達に襲いかかってきたら容赦は当然してあげれないけど。」


「そんなことは断じてしない。なぜならば、この場所は現在主人の監視下にある。仮に私が逃亡したいと思っていても、逃げることなど出来ないし、それに私は仮にも奴隷解放されて主人に仕える立場だ。ここでそんなことをしてしまえば一生の恥となってしまうだろう。だから私はその誘いに乗らない!」


 そういいながらも、ガイネークに締め付けられていて主人には見えないことから、顔には主人に対する不満が具現化されたかのような表情が浮かべられていた。


「なんで?どうして、その顔の真反対のことが言えるの!?」


 ナルはあの地獄の様な空間を思い出して、眼の前にいるフラペも奴隷の過去があるのであれば同じ扱いを受けているのに、どうしてそこから回避することはおろか、何もしないのかと疑問と同時に思う。


「私の今の状況はどうあがいったって優勢で、このままだったら主人を殺すことだってできるんだよ?そんなものに囚われて、死んじゃったら何も意味ないよ!」


 ナルはフラペを正直にさせるためにガイネークを操って締める力を倍増させる。


 ガイネークの周りには今も尚轟音を立てながらも爆発と成長を続けている『爆発西瓜(ばくはつすいか)』がある。仮に何らかの方法でガイネークの拘束から逃げ出したとしても、フラペの『亀結界』ではもう防ぎ切ることなど出来ないようになっており、今の状況は完全にナルの独壇場であった。


 それでも、強くなっていく力に多少抗いながら、フラペは折れずにただ毅然と言い放つ。


「主人はお前を生かして連れてこいと言った。でも、もうお前を捕獲しながら勝利する余裕なんてとうになくなってしまった。それでも、あそこから逃げ出す人間には分からないだろうが、どんなことをしてもここから逃げる事はできない。」

 

 ナルは考えた。こんな事になっているのはその主人が圧倒的な力を他に有しており、それに反してしまえば自らの守る者が危険にさらされてしまうかのではないか、と。他にも様々なことを考えてその要因を取り除いて解放しようと考えたが、再び目にしたフラペの怯えと戦士が持っている独特の威圧感を持った目を見た時、こう思ってしまったのだ。


 (これは、私なんかには救えない。)

  

 その時点で、ナルの中に存在していた自らと似たような出自の人間を助けようと言った精神はポッキリと折れて、それと同時に体全体が折れるくらいの強い力で締め付けトドメを刺した。

 

 もう動くことのなくなったフラペをナルは、地中に埋めてかつての主人の元に向かった。 


 これまでの全ての因縁を精算するために。

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