第85話人造幻獣魂塊リヴァイアサン
コトナラが今回、様々な興味深い要素を持っているアクフに加勢するため、ユニコーンを使って既にアクフのいるであろう場所である最最前線の戦場に向かっていた。
(さて、ここからの戦場はかつて世話になった護神教に背く戦いとなってしまう。けれど、アクフ少年という近年稀にみる研究のしがいの塊のような存在をみすみす殺すわけにも行かないね。まあ、前に見た時の気配から、魂塊の扱いにしか優れない僕の助力なんて大したことはないかもしれないが。それでも、完全な無力と言ったものでもないだろう。)
コトナラは思考を続けながらひたすらに前に前進していると、かつて眼の前に立ちふさがったセブンエンジェル、重力を操る天使魂塊を持っているヌケエルだった。
「何!?コトナラ、貴様!前までの王暴だと確定していない者なんて言っていたにも関わらず、完全に王暴と確定しているものにつくなど言語道断!恥というものを何処かに落としているようだな!」
「いや、その王暴と会って、君たちが語っている存在としてはあまりにも無害すぎたから、君たちのほうが間違っていると僕は思っている。それに、王暴を殺すために他の人間を大勢殺して、多くの魂塊を略奪しているという噂を聞いているよ。あの教皇が、そんなことを指示できる様な人間性じゃなかったから、セブンエンジェルの誰かが裏で指示しているんだろうけど。これだから、駄目な狂信者は。」
「そんなことを言っても私たちは止まらんぞ!それに無駄口を叩くなど、随分自分の腕に自信がないと見た。これはこれからの戦いの結末が予見できるというもの。」
「それを言ってしまえば、その理論は自分にも飛んできてしまうと言ったことも考えていないのかね?やはり、君は一回護神教との距離を見つめ直した方がいいんじゃないか?」
「なら、もういいだろう!」
そう言って、ヌケエルはトリュヴースを具現化して『天使の威圧』を放って強い重力によって押しつぶすような重力を発生させる。
(この狂信者は変わらないね。この感じだと、まだセブンエンジェル最弱の称号を恣にしている可能性が大分高いね。それにしても、ヨウラの溶解液を受けてもあんなに後遺症もなしにピンピンしているのは大分驚きだね。まあ、今のは出し惜しみしないから、かのセブンエンジェル相手でも渡り合えるだろう。流石に教皇と戦ってしまえば死んでしまうかもしれないが。)
そう考えながら、コトナラは何らかのはずみによって空いてしまわないように厳重にしまっておいた瓶を取り出す。
「だったら、僕も本気ってやつを少しだけ、微力ながら、見せてあげようじゃないか。」
コトナラは自らと瓶に重力がどんどんかかっている状態で、力を入れて、蓋を開ける。
そうすると、中に仕舞われていた大きな魂塊が質量保存の法則を無視したような、超巨大サイズになって顕現する。
『…………ッッッガァアアアアアアア!』
中から現れた魂塊は、その巨体を仰け反らせて大きな雄叫びを上げ、大きな霧をまとって周囲にいる全ての生物に威嚇を行う。
その咆哮のあまりの威力によって、出てきた魂塊に纏っていた霧が吹き飛ばされ、姿が目視できるようなる。
その魂塊は、体の全てが近寄ってくるものを切り裂くような鱗によって覆われている。蜥蜴と鮫を混ぜたような凶悪な顔をしており、各所に鋭く尖っている角を生やしている。現実に存在したとなれば、必ずこの世を征服してしまうだと確信を持ってしまう存在感を持っている、ヒレをひらひらと泳がせて、空中に浮いていた。
ここまでの姿から想像の出来ないほどの力を内包したこの魂塊は、ファラオのソフィーナトシャンシンに次ぐ力を有している。
「紹介しよう。ヌケエルくん。これは僕の秘蔵の最高傑作、人造幻獣魂塊リヴァイアサンだ。前の時には優先度の問題で出さなかったけど、今回は優先度が高い事項だからね。僕も全部を出させてもらった。」
そう言いつつ、コトナラはリヴァイアサンにつけていた搭乗能力を使って、背中に急いで乗り込んだ。
「ふん。貴様の発明によってかなり助けられた側面はあるが、その最高傑作と言うものが、こんなただ大きいだけの怪物だとは、肩透かしもいいところだ!」
そう言って、ヌケエルは鍛錬の結果によって会得した『天使の威圧』の進化系の『天使による激怒』を使って、広範囲に超強力な重力による圧を生み出す。
コトナラは搭乗能力によって、リヴァイアサンの中に入っているため、圧による影響を受けなかったが、それでも具現化しているがゆえに、リヴァイアサン自体には攻撃が通っている。
(成る程、前のままではなかったわけだ。リヴァイアサンですら、ミシミシと圧に寄る影響を受けているなんてね。結構想定範囲外だな。)
そう思いながら、コトナラは心呼吸をして攻撃の準備に入る。
(ここで最も問題なのは、ヌケエルくんの成長がどれほどのものなのかといったところだろう。下手に出し渋って死んでしまっては意味がないが、使いすぎてもリヴァイアサンの防御が薄くなり、死んでしまう。)
既にヌケエルからの『天使による激怒』の攻撃を受けていて、ここから攻撃するのは大分困難なことであると思われたが、リヴァイアサンはそんなことで止まらなかった。
リヴァイアサンは、コトナラからの指示を受けて再び、この戦場に存在する全てに自らを誇示する様な咆哮と上げる。
「どうしたコトナラ!?お前はこんなものでないだろう?もうリヴァイアサンとやらが、うめき声を上げているように見えるが!」
そうやって、挑発してくるヌケエルの話術の拙さに、少し残念さを感じながらコトナラは、リヴァイアサンの能力を使って中にいながらも、咆哮によって外に声を伝える。
「そうかも知れないね。でも、僕はここで終わるつもりなんてないんだけどね」
そう言って、リヴァイアサンの出力を上昇させて、超広範囲の攻撃であるために威力が分散しており、そこまでの重力がかかっていない状態から抜け出す。
そして、続けざまに、ヌケエルに向かってリ、ヴァイアサンで巨大な渦とも呼べる勢いで回転している生成した水を噴射する。
しかし、それは『天使による激怒』によって集中して生み出された重力によって、明後日の方向に進行方向が曲がって不発に終わってしまう。
(成る程、僕の得意分野である射撃系は、全然有効ではないようだね。しかし、あの時見た時の検査した時の感じでは、前の頃からそこまで成長しないような構造はしていなかったはずだったんだがね。まあ、今事を考えていても意味はないし、ここはリヴァイアサンの得意分野する遠くからの圧倒的火力攻撃寄りも、噛みつくだけの見た目通りのことしか出来ないね。)
そう思いつつ、コトナラはさっきまでしていた水を連打する準備をやめて、ヌケエルに向かってリヴァイアサンを前進させて噛みつこうとする。
しかし、当然そんなことヌケエルが想定していないわけはなく、自身の周りに障壁を作るように重力の膜を作ってリヴァイアサンの行動を制限する。
(防御壁のようなものか。範囲内の土から見てみるに、あの中に入ってしまえばぺしゃんこになってしまうこと請け合いだね。ここは、僕が丹精込めて作ったリヴァイアサンの個別能力、『魂喰らいの利用者』を使うとしよう。)
そう考えて、コトナラは自身が持っていた幻獣魂塊が入った瓶を内側からリヴァイアサンに吸収させる。
『魂喰らいの利用者』。それは、コトナラが本来ここまで意図的に作れない個別能力を、完全に意図的に操作して細く設定した特別なもの。それは、生力の消費を限り無く減らすために、魂塊を原料として作用して、食らった魂塊の力を増幅させて一時的にリヴァイアサンの牙に宿らせるものである。
最初に食べさせたのは、前回交戦した時に大活躍をしたヨウラと、体が鋼鉄のように硬いゴリラの幻獣魂塊ゴレイムだ。
これによって、強酸の特性を持ったちょっとやそっとでは壊れない強固な刃になる。
(これだけだったら、ヌケエルの領域に入ってしまえば、リヴァイアサンの頭部は潰れてしまう。しかし、この一瞬に全てをかけるのが最善だ。下手に長引かせて警戒の末に全力を出されて一気に倒されてしまっては打つ手がない。僕はしがない研究者風情だから、こんな覚悟は柄ではないんだけど、ここからは一歩も引けない。)
決めてからは一瞬。ここから一分も立たない内に決着をつけると言った様な意気込みを持って、リヴァイアサンをヌケエルに向かって突進する。
その勢いは、今までの動きとは違い、生力をふんだんに使用している影響もあって比較にならないほど早く、音速を超えるほどの速さだ。
ヌケエルもただ死ぬというわけにはいかないので、これまでに行ってきた筋力増強の訓練の成果も十分に使って、生力を使い、直線的に突進するリヴァイアサンが決して攻撃できないところまで上がる。
(成る程、これなら今まで横方向に直線的な動きしか出来ないと踏んでの行動か。しかし、ただ直線的に上がるだけなんて、大分滑られ係数が高いようだ。僕としてはその方が断然嬉しんだけどね。)
コトナラはそう考えつつ、更に、改良を加えた幻獣魂塊であるワイバーンをリヴァイアサンに食らわせる。
それによって、一時的にリヴァイアサンの牙に上昇気流を生み出す力を与え、そのままヌケエルの方向に向かって滝登りのように接近する。
「なに?上にも登ることが出来たのか。」
そういいつつも、ヌケエルは『天使による激怒』を使ってリヴァイアサンを今にも落とそうとするが、それでも勢いが落ちることは一切無く、腕に喰らいついた。
瞬間、具現化していたトリュヴースが発光して姿を変える。
それは、アクフなどが使っている魂塊術の具錬式魂塊術に酷似しているが、性質としては全く持って異なった経緯で生まれた存在『神の金槌』である。
『神の金槌』を打ち付けて、自らの腕に噛みついてきたリヴァイアサンを振り落とし、更に吹き飛ばす。
その勢いはかなりのもので、他の信徒が戦っている場所にまで届き、リヴァイアサンの体で信徒を下敷きにすることによって大きな損傷は免れた。
(やってしまったようだね。これは、使わせなかったほうがいい本気って奴だね。)
そう思いつつ、コトナラはリヴァイアサン越しに、『天使による激怒』を使用し、こちらに落下するような姿勢で突進して来る。
(成る程、ここからは僕に一切余計なことをさせないように、一瞬で倒すきだね。しかし、ことこのリヴァイアサンと対峙するに当たっては、それは悪手だ。)
コトナラは加速する戦闘速度に適応するように、他の幻獣魂塊を構成する生力をリヴァイアサンの形を変えるのに回す。
リヴァイアサンは一時的にしか顕現できず、一日経ってしまえば分解されてなくなってしまうほどの不安定な形態の代わりに絶大な力を得ている魂塊。当然、主力になるような個別能力も一つではない。
不安定な構造にさらなる魂塊を加えることによって構造をより不完全にしつつも、瞬間的な性能を底上げする。
見た目はもはや、仮にも海のドラゴンの様な姿を保っていた以前から変わって、様々なものの足や顔が纏わっている化け物としか形容できない形になる。
「ついに正体を表したか!やはり、貴様は生きとし生けるものを冒涜するような魂塊を作っていると思っておったが、ここまでの怪物を生み出してしまうとはな!今ここで始末してくれる。」
(ヌケエルくんの速度から考えると、ここに到着するまで後数秒と言ったところか。この状態であればトリュヴースでも一回は耐えられる!)
そして、ヌケエルを迎えるためにその大きな顎を開けて、先程やってみせた水を噴射する様な素振りをする。
それによって、ヌケエルの思考を少し遅らせる。
コトナラはその隙を狙ってリヴァイアサンの『魂喰らいの利用者』を使う。
しかし、それを見越していたヌケエルも攻勢に入って、仮に死んでしまったとしても攻撃が届いてしまう位置に移動して最後の一撃を加えようとする。
当然、リヴァイアサンはハッタリによってこれ以上進行方向を変えられる余力はない。
お互いに勝負を決してしまうほどの一撃が決まる。
『天使による激怒』が更に乗っている『神の金槌』によって、リヴァイアサンはその具現化した体に罅が入り、中に入っているコトナラにも少なくない損傷を与えた。
予想通りに、リヴァイアサンとコトナラ自身には致命的な損傷とならなかった。
だが、リヴァイアサンの一撃によって、ヌケエルの身体は脊髄に至るまで粉々になる。
いくら信仰心の力によって通常の損傷程度では蘇ってくるような耐久力を有する信徒たちでも、体の構造上、脊髄が機能しなくなってしまえば何も出来ない。
最後に立っていたものは、コトナラだった。




