第73話修繕された家
ソルバとの模擬試合を終えたアクフは、自分に与えられた部屋にて、突然溢れる力について考える。
(この力についてはよくわからないけど、現れるときには2つの場合がある。それはその場限りで一回使ってしまえばその力はまるで夢だったように消えてなくなってしまう。もう一つはずっとあるもので『暴剣』や『燕回連斬』みたいな技だ。つまり、これまでを考えると力は俺が『暴剣』を使ったときだけに現れるわけだけど。)
アクフは適当な硬い石を持ってきて魂塊も使わずに、握りつぶして粉砕する。
(今俺の中には自分で鍛えたものとは思えないくらいの力がある。まるで、魂塊なんてなくても魂塊使いと渡り合えるくらいの。この力について分かったら、俺は今よりも何倍も強くなれる気がするんだが………………。)
そう考えていると、アクフの思考を遮る存在が部屋に現れた。それはナルである。
「アクフ、ファラオ様がせっかくアクフの為に建てた家があるから見に行ったらどうだって言っているけど、どうする?」
ナルの提案によって、思考のそこに誘われていたアクフの意識は現実に戻る。
「あ、ナル、いたのか。俺に建ててくれた家か。そういえば前にナルが言っていたな。俺も今ある武器を整理して飾りたいし、ファラオ様が提案しているんだったら、外出の許可も出ているだろうし、行くか!」
そう言ってアクフはさっきまで考えていたことを中断して、荷物をまとめて自らの家となる場所に向かった。
――
アクフとナルが再建された家を見に行っている時、ローガとラミは久しぶりの再開をしてなんとも言えないような顔をして思うことがあって話していた。
「お久しぶりです。あの、セブンエンジェルのラミ様がまさか、教皇様のところから離れて個人の旅についているなんて、想像できませんでした。」
「そうですか。私はただ単に間違った人間を王暴と断定して攻撃してしまったことを断定してしまった人を守ることに寄って償う為に同行しているだけです。それにしても、スパルタ軍にいて護神教の中で特例を除いても高い実力があったあなたが、エジプトでこんな立場になっているなんて思いませんでした。もしかして、スパイですか?」
「いえ、俺のような人間がそんなことになる訳ありません。俺に関しては王暴を抹殺する戦争で巻き込んでしまった無辜の人にこの国を守ることで報いる為にここにいます。」
「…………そうでしたか。私達の理由は似ていますね。確かに王暴は邪悪な存在で、いかなる手段でも倒さなければならない敵ですが、手段を選ばないばかりにたくさんの罪のない人が傷ついているこの状況は、見ていられるものでもありませんね。」
「そうですね。私はもう護神教からは離れましたが、早く王暴が見つかってこんな世の中は終わってほしいところです。」
「はい。私も一信徒として様々な人を巻き込んでしまったこの戦いは早く終わってほしいものです。」
ローガの意見に肯定した後、ラミは話している最中に思ったことを口にする。
「それにしても、前にお話をした時と…………随分変わったように見えますが、それはエジプトの軍に入ってからなんですか?」
「あ、はい。今では頑張って会話が全体的にオドオドしいところを殆ど出ないようにしたんですよ。」
「そうなんですか、時間が経てば人間も変わるものですね。」
「ですね。それにしてラミ様は随分体が成長したんではないですか?世間一般ではラミ様くらいの年で体がよく大きくなり始めると聞きます。」
そう言われると、ラミはなにか痛いところでも付かれたような顔になって、恥ずかしそうに答える。
「それは、ですね…………まあ、確かに、伸びていないわけでは、ないんですけど。それでも、少し、しか成長できていないんですよ。お恥ずかしながらですが。」
その回答に、雑談を降ってしまったことに少々後悔したローガは、まだ小さな子どもで繊細なラミに励ましの言葉を送ろうとする。
「そう、だったんですか。でも大丈夫ですよ。心配することありませんって、俺も成長するのは遅かったほうですけど。ちゃんと体は大きくなりましたから。」
しかし、
「いえ、慰めは結構です。もしかしたら私の親は小さかったのかもしれません。仕方ありません、これが神の決めた運命なのですから。別に体が小さくても不便することはありませんし。」
そういって、まるで拗ねるように励ましを振り払った。
「すみません、不愉快なことを言ってしまいましたよね。今度お詫びと言ってはなんですか、なにか甘いものでも贈らせてもらいます。」
「それは本当ですか!!!」
ローガの提案にラミは見事とも言えるくらい食いついた。
「そこまで喜んでいただけるなんて、もしかして甘いものが好きなんですか?」
「はい!甘いものは甘ければ、甘いほど好きです!」
元は自分より年下だと言うのに、立場が上で大人びていた少女が見せる年相応の反応に、ローガは様々な感情が湧いて戸惑いつつも、「では、とびっきり甘いものを送りますね。」と言って会話を終了させた。
――
ラミとローガが話し終えた後から、少し経った頃。アクフとナルはファラオから許可を得て、家の鍵をもって再建された家についていた。
「これが、俺の家?」
アクフが見ていたのは、前の家とは比べ物にないくらい立派になった家であった。
大きさは前の家の十倍にもなるほど大きく。まるでエジプトと諸外国の貴族の家を合わせたような風貌を兼ね備えており、外観だけでも絵になるような見た目をしている。しかも、中庭には巨大なプールがあって部屋もたくさん。エジプトではついていない家も少なくなくない鍵がついている立派な家だった。
そして、これまでかなりの時間家主は帰ってこず留守だったはずなのに、異様にきれいなことから管理人がいることがうかがえる。
「噂でしか聞いたことなかったけど、ここまで大きかったんだね。」
「ああ、俺が思っていた何倍も大きい。俺がこれまで知り合って来た人たちを全員呼んでも大丈夫そうだな。」
「そうだね!これくらい大きいんだったら、一人で管理するのとか結構大変そうだよね。それってどうするか決まっているの?」
「あー、まあ一応ファラオ様からこの家の鍵をもらったときに聞いていたんだけど、この家にはこの家専用の管理人がいるらしいから、俺一人でも大丈夫ではあるらしい。あ、でもファラオ様は「できれば住む人間は、一人から増えてほし良いものだ。」って言っていたからまあ、いずれは誰かと住もうかとは思っている。」
「アクフは、ここでどんな人と一緒に住みたいの?」
ナルから放たれた明らかに含みのある言葉に、アクフは気づかず純粋に考えて回答した。
「そうだな。そういえば、ナルは知っているかどうかはわからないんだが、ミティスって人がいたんだ。その人は旅人で帰る家がなさそうなんだよな、だからこれを機に少し誘ってみようかな。って思っているくらいだ?」
勿論。ナルが言えば、アクフは一切の悪感情などを持たず、寧ろ歓迎してアクフの家にいることはできるのだが、ナルにそんなことを言う勇気はないのだ。しかも、他の人間を上げられたこの状況では、失敗を恐れてしまうのである。
しかし、ガイネークの試練で答えたことを実行するためには、足踏みもできない。これまで、失敗を恐れて進まなかった、見ようとしなかったことだ。これと向き合わずにガイネークの力を使ってしまうのは、ガイネークに対して極めて失礼だと思い、ナルは決心を決めることにした。
「アクフ。ちょっと、聞き逃さないように私の話を聞いてほしいんだけど。」
ここはこれまで、踏破したことがないよう所。トラウマが深い森と言うのなら、これまでの全ての見たくないものの集合体が洞窟というのなら。今、ナルが挑んでいるのは豪火に包まれている断崖絶壁の崖。
進もうとする足は未だに脳からの本能的な忠告にしたがって、震えて止めようとしてくる。
心臓も、溢れ出しそうなものに反応してバクバクと鳴っている。
背筋は今でも最低最悪を考えて、冷たいものが這っている。
眼の前に広がっているあるかもしれない可能性。それは今も未来にもこの崖を抜けるまでナル自身を焼く。
一歩でも間違った方に進んでしまえば、転落してしまう。
不安と言う逆風が吹き荒れている。
今進んでいるその先は辛いかもしれない。ナルにとって望ましくなく、どうしようもなく辛いかもしれない。それによってもう、引き返してこの決意を無為にしたくなる。
いくら振り払おうとしても、頭が決してこの道には進ませないと言わんばかりに可能性を反芻させる。
だが。
しかし。
それでも、決心と以前に決めた覚悟によって、今では進むことができる。
ナルは歩み寄って、今出せる精一杯の言葉をアクフにぶつける。
「アクフ、もし、もしだよ。私が、ここに住んでいいか聞いたら、いいよって言ってくれる?」
この、遠回しではあるが、好意を伝えるような言葉を口から開放に成功したのだ。
勿論、アクフの回答は、
「ああ、ナルが住みたいって言うんだったら、自由に住んでいいぞ。それだったら、少し忙しくなるなナルが王宮においてきたものを、ここに運ばないと。」
と、ナルの言葉に肯定で答えるものであった。
その言葉を聞いて、ナルは一瞬嬉しさとそれまでにかかっていたストレスのあまりに意識を飛ばしてしまうが、強い気持ちで取り戻す。
「ありがとう!」
とナルは感謝の言葉を述べた。
「ああそうだな、それと、俺の家に住むならナルの家からもなにか持ってきたほうが良いか?」
「うん!セネトを持ってきて、後で一緒にやろうよ!」
彼女にとって、これは大きな成長である。




