第70話禁断の林檎蛇
第二の試練に合格したというベリープルの思念を受け取ったナルは、いつの間にか元の空間に戻っていた。
『さて、ここに戻ってきたということは、第二の試練を突破する精神性に至ったんだな。』
そう言われたナルは、自信を持った顔になって顔を縦に振って肯定する。
『そうか、ならば残る試練はあと2つだが、お前には必要ないものだから今回は省略することにする。』
「それでは、もうこの試練は終わりなんですか?」
『ああ、お前には我を扱うのに必要な最低限の力、精神性、魂塊を扱うだけの才能、知性が備わっている。もうこの試練にて問う必要はないだろう。だが、最後に我の力をどれだけ貸すかをこれからする質問で判断する。』
「わかりました。」
『では行くぞ。お前はなんで俺のような強力な力を欲する?』
「昔助けてもらって恩のある友人に、その恩を返して対等な立場に立って一緒にいたいから。」
ナルの回答に、ガイネークは『ほう。』なにか見透かしているような声を出して、次の問い繰り出す。
『次に我はお前らが護るべき存在に巣食う厄介な存在だが、そんな我に力を求めるのは何故か。』
「聖樹様が、あなたの試練を受けて力を手に入れてこいって言ったから、あなたがどんな立場にあっても力を借りても大丈夫だと思う。」
その言葉を聞いたガイネークは『ふっ、ふははははははは。』といって笑った。
『な、なる程、あの木がそんな事言うとはもう世も末らしい。分かったもう良い。我はお前にすべての力を貸そう。魂塊を出せ。』
そう言われたナルは素直にベリープルを差し出した。
それを確認したガイネークは自らの身体を小さくして、ベリープルと同等の大きさにした。
そして、ベリープルの中に入っていって混ざり合う。
混ざりあった2つはお互いを潰してしまわないように纏わって、一つの魂塊として成立する。
『さて、これで終わりだ。これでベリープルの『果実生成』を使って我の能力である禁断の林檎を生み出すことが可能となった。我の能力はこれだけではないが、他の能力もじきに使えるようになる。』
「わかりました!取り敢えず聖樹様に試練を終えたことを伝えに行きます!」
そう言うと、ベリープルのガイネークの部分が抗議でもするかのような表情になるが、すぐに、
『いや、それは、まあ良い。』
となって諦めた。
ナルは地の底の空間から出るために歩き出した。
――
ナルが試練を突破した頃。ナルの父親は聖樹の元についていた。
「こうして近くてお会いするのは久しぶりですね。聖樹様、ご機嫌はいかがですか?」
『まあ、一度離れた今代の代弁者が帰ってきたので少し機嫌は良いですが…………、あなたがここに来た目的は私手ではなく、愛する一人娘ですよね?私なんて娘を家に連れ戻す道中の途中にいたからよっていくか、の存在なんですか?そう思っているのでしたら誠に残念ですが。』
「そんなわけないじゃないですか。私は代弁者なんですから娘と同じくらいの優先度に決まっています。」
『今回使った遺跡も前から発見していたんでしょう?だったら前から、私に会いに来ることもできましたよね?それに、たまにあなたに預けている蛇の一匹を使ってくるように催促していましたよ。』
「それは、私達の娘が奴隷商人の手先に攫われて全然会えず、奴隷なったということで生きているかもわからない状態でしたので、妻とともに心配で会いにこれませんでした。話は変わりますが、今ナルは試練を受けているんですか?そうでしたら終わり次第連れ戻したいのですが。」
『昨今の代弁者は結構私情を挟んできますね。まあ、私を護る為に他の樹護り族に私の意向を伝えるという役目に師匠がなければ、問題はありません。ナルフリックに関してですが、彼女は早くも蛇の試練を終えたそうです。今はここの近くにある樹護り族の少ない残党が作った集落に向かっています。ナルの前に、樹護り族を統治する存在として彼らに会いに行くのが最適だと思いますが?』
「ッ!わかりました。確かに、あんなことがあって村がバラバラになっても生きていた同族がいたんですね。そうであれば代弁者として見過ごすわけには行きませんでした。ありがとうございます、聖樹様。」
そう言って、ナルの父親は聖樹の下から去った。
その後、入れ違いになるようにナルが入ってきた。
「聖樹様の言う通りに試練をきちんと終えました。」
『よう、数年ぶりに我を呼んだ木、ご機嫌はよろしいか?』
『待っていましたよ、ナル。これであなたはとんでもない力を手に入れることができました。これで私を護ることも十分にできるようになるでしょう。そんなあなたに朗報があります。聞きたいですか?』
聖樹の言葉の後に、ガイネークが『なるほど、無視か。なるほどなるほど、この木らしいな。だから会いたくなかった。』とぼやいた。
「はい。朗報って何なんですか?」
『それはですね。あなたの父親がこの集落にあなたを連れ戻しにやってきているのです。』
「えっ、それは本当なんですか!?」
『ええ、本当です。神語り族の遺跡…………まあ、あなたに言っても仕方ないかもしれませんが、取り敢えず空間と空間をつなぐ通路があるのです。それを使ってあなたの父親がここまで来たのです。』
(それって私やアクフ竹戸に行くのに使ったあの通路のことかな。そうだったとしたら、あれって結構便利なものだったんだ。だとしたら、聖樹様の言う感じだったら結構色んなところにつながっていそうな感じだったし、もうこのまま父さんの来た道から帰ればすぐに帰れる。アクフに伝えないと………………。)
『確かに、摩訶不思議で有用なものには好奇心が唆られるものですが、今は私の話を聞いて下さい。あなたはガイナークの力を手に入れました。ですがそこで止まってはそれまでです。確かに最強には違いがありませんが、それは相対的な最強です。私はあなたに無類の強さを持った最強になってほしいのです。といってもそこまで急いでもらわなくても結構ですが。まあ、ということで試練は終わりです。お疲れ様でした。』
そう言って、聖樹はナルを現実の世界に戻す。
――
ナルが試練を終えた頃、アクフはスドに具錬式魂塊術武器を使えるようにするため訓練していた。
「……なるほど、名前の通りに纏って、その状態で具現化を使って形を変えるのか。確かにこれはかなり使い手の技量が求められるな。」
そう言いつつも、スドは既に具錬魂塊術武器にあと一歩の所まで来ていた。
「凄いです!こんな短時間でここまで行けるなんて!やっぱり普段から武器を作っていると、俺とは感覚が違ってくるんですかね。」
「……いや、そういったものは一切感じていないな。単純にアクフの教え方が上手いからじゃないか?」
「スドさんもお世辞を言うようになったんですね。でも別に良いですよ?俺なんかの教えなんて特段良いものでもないと思いますし。」
「……しかし、アクフは間違いなく、落ちぶれかけていた王を救ったじゃないか。そこまで卑下することでもないような気がするが。」
「あの時は義刀が頑張ってたのと、たまたまうまくいっただけで、そもそもまだまだ道半ばな人間が、他人を教えるのが得意なんて口が裂けても言えませんよ。」
「……まあ、確かにそれにも一理あるかもしれないな。だが、アクフ。俺は一応これでも一つの剣術を収めた人間だから言うが、アクフは確かに頂きや、それに類するものだったり、最も近いものでもないがそれでも、実力がないわけではない。おそらく、俺が知っているときより大幅な飛躍を遂げていなければ、アクフが傭兵をやっていたという騎士団の誰にでも勝てるくらいには実力があると思う。」
「はは、最近。そういった類の言葉をよく言われる気がします。確かにスドさんが言うならそうなのかもしれませんね。」
そう言いつつ、アクフは今もなお己の実力に疑問を抱いていた。
「でも、俺はスドさんと違って、圧倒的な力を持つ奥義とかありませんから。」
「……『銃音風駕』はどうした?それに『轟放奏剣』、『静虚双劇』も。」
「『銃音風駕』は、確かに高い威力を誇りますが、結構生力消費が激しいですし、個人的に強敵相手にあんまり通じた例がありません。『轟放奏剣』も同じ理由ですね。『静虚双劇』はどちらかといえば、あれは防御技で、しかも結構な溜めが必要で、強敵相手では不完全な状態でしか使えませんし。そんな訳で手軽に使える剣技の奥義がほしいんですよ。」
アクフがそういうと、スドが確かにといった感じに悩み始めた。
「……言われてみれば、そうだな。純粋な剣技であればアクフには『暴剣』があるが、あれはそこまでの攻撃力を有さないものだったな。それだったら、純粋な剣技ではないがそれこそ『暴剣』を軸にして新しい技を作るとかだな。前に作った〘銃斬打旋棍〙は『暴剣』の暴力的とまで言えるほど、自由自在に動き回る戦法にはあっていると思うが。なんなら、『川剣』を教えるが、この剣術の奥義は流石に、すぐに習得できるものでもないが、系統としてはアクフが使っている剣術と近いものがあるからな。何かを思いつくきっかけになるかもしれない。」
「たしかにそうですね。今の自分を考える前に、今より強い自分について考えるべきでした!『川剣』に関してはありがたいです。今度喜んで学ばせていただきます。」
スドがアクフに自分の意見を述べていると、いつの間にかスドの具錬式魂塊術武器ができた。
その見た目は一見巨大な金槌だが、よく見るとひっくり返したときに剣のような見た目だ。
とても、そこら辺の人間が持てるものでなく。少しスドの趣味が出てしまった姿となっている。
「……結構いびつになってしまったな。これは実戦では使えないかもな。しかし、せっかく作った武器だからな。名前は『槌剣』とかで良いか。安直ではあるが。」
「えっ!気づかないうちに、もう作っていたんですか。しかも、ちゃんと固定できてますし。」
「……まあ、これでも伊達に長く生きてはいないからな。魂塊を実践して使ってきたのはアクフよりも断然長い。ただそれだけだ気にするな。」
そんな会話をしていると、遠くから少女の声が聞こえてきた。
ナルのものである。
ナルは走って、アクフたちの元にたどり着いた。
「ふう、アクフ。試練終わったよ!」
その顔はいつぞやの笑顔よりも輝かしいものだった。




