第66話エジプトに帰還する道
「本当に行っちゃうの?」
「ああ、もうここには俺の望む武器もないし、何よりナルを無事に親の元まで戻さないといけないからな。」
早朝、小鳥がさえずる時間にアクフ達と、村の住民は空中海を降りていた。アクフ達は今にでも旅立てそうな荷物を持っている。
「そうですよね…………ここはそんなに栄えてなくて外交とかほとんどしていませんから、そういった物はあんまり入ってこないですからなね。」
「なんだか申し訳ないな。ここまで村の皆には結構良くしてもらったのに。」
「いいや、問題ない。別れと、出会いを繰り返していくの人生って伝承に書いてあった。そんなこともある。私達のことは気にしないで頑張ってね。あと、まだ皆への恩が返しきれていないから今後、なにかあったら言ってね。役に立つから。」
「ここの料理は私が食べた食べ物の中でも特に美味しかったよ。また、時間があったら食べに来るね!」
「はい!そのようなことを言っていただけて光栄です。その時は村中全体で盛大に歓迎させてもらいます!」
「……アクフ、もうそろそろいかないと今日は野宿することになるぞ。」
「そうですよ。野宿は健康に良くないので宿で寝たほうがいいですよ。」
「分かりましたスドさん、ラミ。皆今までありがとう、また来る!」
声色高く言って、アクフは見送りにきてくれていた人間に背を向ける。
そして、アクフ達は歩みを進める。
――
エジプト大王国。ファラオと軍部の最高位である御仁達は会議をしていた。
「今回、ここに集まってもらったのは他でもない、隣国であるスパルタに本拠点を置く護神教がまた怪しくなっているからだ。おそらく今後、スパルタと結託し数年前の様に進行してきかねない。その時の為に御仁の人数を増やして戦力拡大に尽くしていたが、相手は狂信者だ。泥沼のような戦いになるだろう。私の寿命もそこまで多くはない、後継者はいるがもう私が治世できるのは今年が限界だ。そこで、次世代を担う諸君に意見を仰ぎたい。」
ファラオの声を聞いて一番に発言をしたのは御仁で一番の古株のシラモだった。
「今代のファラオ様ももうそんな時期になられましたか…………前のファラオから三十年。歴代の中でも長かったですね。お勤めご苦労さまです。作戦としましては現状維持で問題ないと考えております。」
シラモの提案に異議があったのか、もう一人の古株のスレトラルが口を開く。
「シラモ、あなた前に護神教が攻めてきた時にも参戦していたでしょ。私達が行ったから侵攻は止められたけど、あの多くの戦死者を見てなかった?私はあんな光景をもう見たくないわよ。ここは無理にでも神を模した魂塊使いのアクフを連れ戻すなり、他国から適正のある人材もらってきたりしないといけないの。」
「そうおっしゃるのでしたら、あの場に誰よりも先にいたソルバとローガ聞いて下さい。」
「それもそうね。あの時現場はどんな感じだったのよ。今より増強すべきと思う?」
スレトラルが質問すると、自分は新人だからと発言を控えて縮こまり空気になっていたソルバが少し慌てて回答する。
「あの頃の俺は今に比べてあんまり強くありませんでしたが、ローガ以外には一応対処できていました。今では兵全体の強化も行っているからそこまで急に力がいるんなんてことは無いと思います。」
「という事です。つまり今の戦力状況であれば急いで戦力拡大を施す必要性はないのです。」
と、シラモが締め括ろうとすると、今まで黙っていたローガが口を挟む。
「あ、あの。護神教にはセブンエンジェルなる存在もいます。彼らは強力な魂塊である天使魂塊を使います。その強さは|ソフィーナトシャンシン《太陽の船》には及びませんが、それでも強力です。それに王暴は長年探しているに見つからないとなると、教皇もでてくることになるでしょう。能力の詳細はわかりませんがセブンエンジェルよりも強力な魂塊を持っていると噂されていました。」
「そんなことはありえません。だいたい権力の象徴である人間がそう簡単にでてくるとは思えませんし、天使魂塊というものがどれほどの強さなのかは存じ上げませんが、我々はそんな連中に負けるなんて醜態はさらさない程度の強さは身につけているはずです。」
シラモがそうやって反論するが、ローガの話を聞いてファラオは熟考して考える。
「いや、確かに、あの集団であれば次の戦争で総力戦を仕掛けてくることもありうる。私が残り少ない寿命を使って特攻を仕掛けることによってどうにかはできるやもしれなが、もし劣勢の時に寿命が尽きてしまえばソフィーナトシャンシンは奪われる。」
「そうですね。ソフィーナトシャンシンが奪われれば、国力の低下に大きくつながります。それだけは避けなくてはいけませんね。であれば私も戦力強化を急ぐことに賛成です。」
「そうか、他に意見や意義があるものはいるか?」
そうファラオが言うと、底にいるもの全員は全く持って今の方針で問題ないと言わんばかりに黙る。
「よし、では明日からもう全員調査をしたとは思うが国中の実力者や、国外の魂塊使いを集めると言う方針でやっていく。アクフの捜索に関してはソルバの隊に任せる。また、アクフを捜索している最中に護神教の連中と衝突する危険性があるため、ローガもつれていくこと。しかし、なんの成果も得られなくても案ずるな。あれは私の魂塊でも場所を特定するのが不可能だった、片手間程度に思ってくれ。最後にこの命を果たすために必要だと感じた場合は私の命令の一部を無視しても良い。」
ファラオの言葉を聞くと二人は「了解しました。全力で任務に当たらせてもらいます。」と言ってすぐにでもこの気まずい空気から逃れるためにそそくさと旅立ちの準備をするためその場から退散した。
「ど、どうしましょう?ファラオ様はああ言っていましたが、アクフがどこにいるかなんて検討もつきませんよ」
「そうだな。俺も正確なことは一切わからない。探しものだったらアクフが得意だったから頼りたかったが、そのアクフを探すのだから難しい。ともあれ、あいつがいるような場所の検討はついているが。」
「えっ、どういったところなんですか?」
「あいつは自分の武器に名前をつけるくらい武器が大好きだったんだ。だから、強い武器と珍しい武器があるところに行けば自ずと会えると思う。」
「そ、そうなんですね。では早速部隊全員を集めて向かいましょうか?」
「いや、大多数は残して行く。」
ソルバが放った言葉にローガは驚いて少し声を大きくして問う。
「何でですか!?ファラオ様は俺達の部隊に任せると言っていました。それは全体で行動しろ、ということだと受け取っていましたが…………。」
「それを言うならついでにこうとも言っていたはずだ。俺がこの命を果たすために必要だと感じたのであれば命の一部を無視しても良いってな。」
「確かに言っていましたが、それでも人間を捜索するのでしたら大人数で探したほうが効率的なのではないですか?」
その言葉を聞いてソルバはニヤリと笑いながら返答を言う。
「いや、これまでのアクフ捜索は必ずといっていいほど大人数で行われていた。なにの一切の足跡を掴めなかった。これは何だと思う?そうだ大人数故に大規模な移動に支障をきたしたからだ。」
「……なるほど、文献にはいずれもスパルタまでしか調査することができなかったと書いていましたが、そういうことだったんですね。」
「ああ、だからこそ少数精鋭で行動することによって、素早くアクフを見つける。そういえばだが、これはアクフを捜索するにあたって言っておかなければいけないことだが、”アクフは一回エジプトに帰還している”。」
その重大な言葉に、ローガはまるで天地がひっくり返ったとでも言わんばかりに驚いた表情を見せる。
「えっ!重要情報じゃないですか?何で報告していないんですか!?」
「いや、俺以外の人間が捜索の担当になったときに言おうと思っていたんだ。下手にファラオ様に伝えて無駄にソフィーナトシャンシンを使わせるわけにはいかないからな。」
「それにしても、どこでそんな重要情報を?」
「これは俺が騎士をやっていた時の後輩から教えてもらったことだ。それによると、アクフは奴隷としてスパルタに渡った後に旅をして帰って来たそうだ。しかし、その後後輩がアクフの元に昔話でもとアクフを捜索したらしいが、その時にはすでにいなくなっていたとのことだ。」
「そうですか、確かにそこまでの情報ではありませんでしたね…………状況は変わっていませんし。」
「だな。これからは頑張って聞き込み調査かつ国外に出てアクフを捜索するぞ!」
「はい!」
二人は決意が固まった目をして空を見上げた。
――
ここはナルの両親が暮らす家、そこでは愛娘の帰還を願いつつも考え事している一人の父親の姿があった。
(ナルはアクフ君の捜索にでてから帰ってきていない。聖樹様が言う限りでは生きているようだが、心配だ。それに早く、アクフ君に戻ってきてもらわないとあと数年で執行日になってしまう。そうなってしまってはナルは樹護り族の恥以前の問題で不幸なことになってしまう。何としてでもアクフ君…………を殺すなんてしたらナルが悲しむし、記憶をなくすか結婚させる方針にしたいがどうしたものか。まあ、どっちにしても今ここにナルがいない以上、父親が出来ることなんて限られているが。とはいえできないことがないわけではない。愛する娘の為にやれることをしよう。)
そう考えながら、ナルの父親は蛇の魂塊に話しかけて目を閉じる。
次にナルの父親が目を覚ましたのは夢の中だった。いや、明確に言えば夢の中とは少々ロジックが異なるものなのだが。
そこには、まるで一つの大きな山のような大きさを誇っている大きな木がいた。その木はナルの父親を見るなりに思念で話しかける。
『来ましたか、待っていましたよ今代の代弁者、ルナト。要件については分かっています。次の代の代弁者、ナルフリックについてですよね?』
代弁者とは、樹護り族の根幹とも言える聖樹からもっとも力を得て、その名の通り聖樹の言葉を代弁して種族の全員に伝える立場である。樹護り族において、他の部族で言うところの族長と同等、もしくはそれ以上の権威を持つ。
「はい。その通りでございます。」
『そうですか、では結論から言いますがいくら樹護り族で、最強といえる力を持っていたとしても掟は掟です。このままアクフを放置するというのでしたら、こちらにもどうしようもありません。私は目立ちたくないのです』
「そうですか…………では何としてでもアクフとナルを見つけなければいけませんね。」
『はい、ですが彼女は樹護り族の力と、とても相性のいい魂塊を得ることによって、歴代の代弁者の誰よりも強い力を得ています。あなた達の役目は私を護ることですからね。その点において彼女は抹消する対象にはしたくないのです。そうですね、たしかアクフ以外の目撃者の記憶は消しているみたいですし、残っている人間も他言するようには思えません。ここは試練を与えて期間を延長することにしましょう。』
「本当ですか!?ありがとうございます。ところで試練とはどのようなものでしょうか?」
『簡単です。彼女は今後近い内に私の近くに行くことになります。そこで私の中に眠る禁断の果実に巣食う蛇を任せられる人間かどうか見極めるものです。この試練を乗り越えることができれば、ナルフリックは特別存在として一旦は抹消しません。』
「わかりました。それでは私はこのあたりで失礼させてもらいます。」
『少し待ってください。まだ言わなくてはいけないことがあります。』
「えっ、それってなんのことですか?」
『あなたと私の中であれば把握できていてもおかしくはないと思ったのですが、どうやら見当違いだったようでしたね。ではもう時間がないようですから単刀直入に言いますが、なぜ部族が危機になったからと言って私の元から遠く離れたエジプトなどに行ってしまったのですか?』
「問題ありません、それには理由があります。まずエジプトと言う土地の地下には多くの神語り族の遺物が残っており、その中に距離を超越する回廊というものがありまして、それを使用すれば聖樹さまの元にすぐに向えるからです。」
『そうですか、神語り族の遺跡ですか。あの連中の遺跡を利用するのは少し嫌悪感を覚えますが、まあ背に腹は変えられませんからね。仕方ありません。ですが、気をつけてください。神語り族は私達とは違って至るとことに存在しています。当然エジプトにもいるでしょう。諍いには注意を払ってください。』
「わかりました。善処いたします。」
そう言ってナルの父親は聖樹の元から去っていった。




