第55話和解
ラミを撃退したアクフ達に穏やかに時間が過ぎていく。
そして、時が経ちショランとコアノが設置した天幕に光が差し、一人の少女を暖かく包んでいた。
そばにはしばらく横になったことによって生力が回復して普通に動けるようになったアクフがいる。
しばらくすると、そこそこ疲れが取れたのかラミが瞼を動かした。
ゆっくりと動かされる瞼によって純朴な目が姿を見せる。
「………………ぅん、………!?王暴!?なぜ私の目の前に……?」
ラミは焦り、急いでハノエルを出してアクフに向かって攻撃しようとする。
しかし、流石に面倒になったアクフがエネアーゼの形を変えてラミを包み拘束する。
「あのな……、そんなに人のことを害虫みたいに言うのやめた方がいいと思うぞ。あと、そもそも俺は王暴じゃないし、仮にそうだったら今お前は生きていないと思うが?」
「では、何故あなたは何も関係ないのに私を拘束しているのですか?」
「いや、普通にお前が殺そうとしたからに決まってるだろ。」
「うぅ…………………………。」
「それで、聞きたいんだが俺を王暴だとかに決めつけて狙っている宗教はなんなんだ?」
「あなたなんかに言う筋合いはありません。」
「そうか、ならどうする?このまま俺を王暴扱いして俺を殺そうとするのか?俺はそんなことして欲しくないが、お前がそうするなら抵抗として何をするかはわからないが。」
「何を言っているんですか。あなた私との戦いでかなり生力がギリギリだったじゃないですか、もう一度戦えば確実に私が勝ちますよ?そもそも神聖な魂塊天使のハノエルの『罪を裁く羽根』より、あなたが持っている神を模した魂塊とその他2が強い理由ありませんし。」
「実際そうだな、だからこそそんな弱いやつが、お前らの言う不利益とやらを起こせると思うのか?」
「それは、………………確かにそうかも知れませんが…………。」
(会話できる感じで助かった〜!流石に節々から覚悟が決まってない感じの少女とやり合うのは俺の信条的に嫌だからな。これでもう戦う必要はなさそうだな。)
アクフが内心喜んでいると、ラミが考え出した。
しばらくアクフが見ていると、決心したのか口を開く。
「教皇さまの言ったことは間違いではないと思いますが、確かにあなた程度では教皇様の力で一撃で倒せます。確かに、教皇様は王暴は強いと聞きましたし、あなたを裁くのは少し様子を見てからにします。」
「それはよかった。」
「……………………あっ、でもあなたが使っていた技、憎き王暴が残した置き土産に伝わっている技に似た技を使いましたよね?」
「ん?何のことだ?」
「あの剣の軌道がとても不規則にジグザグ曲って独特ななリズム感で相手を翻弄し、最後に大きな一撃を放つ『暴剣』ですよ。もしあなたが王暴でなかったとしても、暴族だったりしたら私はあなたを殺すまでは行きませんが、排除はしないといけなくなります。」
「『暴剣』のことか、正直、俺も知らないうちに原型が出来るようになっていたからよく分からないんだが、ただ暴族はお前らの言う何かを起こす王暴に関係あるのか?なかったら罪のない人には何もしないようにしろ。」
「罪のない人は私も傷つけませんよ、そんなことは神は望んでいないでしょう。」
「そういうことじゃなくて、悪人の特徴を持っているだけの人を傷つけるのはだめじゃないのかってことだよ。」
「いや、それは…………」
ラミが言い訳をする前にアクフが遮って口を開く。
「ともかくだ。何を信じるかは俺もとやかくは言わないから。お前はまだ若いんだから考えないで意固地になる必要はない。まず、自分で考えてみたらどうだ?」
そう言って、アクフはエネアーゼで作った拘束具を取って天幕から出た。
アクフが天幕から出ると、待ち構えていたのかショランとコアノが話しかけてきた。
「アクフ、どうだった?」
「うん、話ができたから、多分もう何もしていないのにいきなり襲ってはこないとは思うが、一応警戒しておいてくれ。」
「凄いですね、あんな人と話せるなんて。」
「本当は弱ったところを『械彗狂飆』なりで襲えばよかったんだろうが、話せるなら人は分かり合えるはずだからな。何も言わずに襲うなんてことは駄目だと思ったからしなかったが。」
「そうなんですか、いやー、それにしても、そうなるといよいよ私達の存在価値が、道案内と伝承を伝えるだけですね。」
「そう言えば、結構豪華な装飾な多分、神を模した魂塊を連れているが、それを使ったら普通に強いと思うんだが。」
「いや、残念ながらこの子は私の親から引き継いだだけのもので、あんまり使えないんです。」
「私も、でも、後々お父さんの地位を継いで村をひきいていかないと、いけなくなるけど、それには先代から受け継がれた魂塊を使えないと村の皆から認めてもらえないから、何とかしないといけない。」
「そうか。それじゃ、この件が終わったら、俺が見てやるから少し使えるように練習してみるか?まあ、俺はまだ未熟だから、絶対使えるようになるとは言えないのでよければ。」
「はい!よろしくお願いします。」
「その時は、よろしく。」
「それじゃ、薬の材料はここからどこに向かったところにあるんだ?」
「それは――――――」
――
闇は暗く狭かった。何時までも終わらないようなぼんやりとした、脱力感に似た感情が心を襲って、飲み込んでこようとしてくる。
それから逃れようとしてみても、全然逃れらなくて。
闇にはほとんどまともな資源はなく貧しかった。食べたい、生きたい、満足に安心して眠りにつきたい、と喚いてくる己の中にある感情を制御する為に必死だった。
その闇には誰一人として人はいなかった。親はいなかった。指標がなかった、道標がなかった、愛がなかった。
それがとある日を境にして、とある者によって雲が避けられた。光が差すようになった。
光は眩しかった。欲しいと思ったものの中で無いものはほとんどなかった。
親はいなかったが、代わりになってくれたような存在がいた。その人は愛も注いでくれた。神は指標も道標も与えてくれた。
他にも他人を愛し寄り添ってあげられる人になろうという目的も。
そして、一人のラミと言う名を与えられた少女は神に依存した。
その後は、魂塊天使を上手く使えるようになる為に、世間一般で見たらスパルタだなと言えるくらいの、鍛錬や苦行をおこなったが闇に比べたら全然だった。
だからこそ、盲信してしまった。
他人を愛し、寄り添うということの真意も、他のことをあまり考えなくなるくらい。
それからのラミは様々なところで、教皇や神が敵だと言った存在を魂塊天使のハノエルを使い排除する役割につく。
それから、時は経って現在に至る。
(私は本当に他人を愛して、寄り添って、あげられていたのでしょうか。今もう一度考えてみると、あの人がやったことのほうが他人を愛し寄り添っていたような気がします。)
ラミは自分の信念のために依存から抜け出そうとしていた。
(もしかしたら、教皇は、間違っていたのかもれない。いや、あの人は本物の優しさと愛を持っていた。きっと、勘違いをしているんです。それを言いにいかなくては…………。)
心がそのことよりも、信念を実行するために重要なことがあると囁く。
(いや、今は気づかせてくれたあの人に不義理な真似をするわけにもいきませんね。しばらくはあの人について行って、手伝いをして恩を返すことにしましょう。)
ラミの決意は硬いものだった。
――
数時間後、ラミが暫くの間恩を返すのと、罪滅ぼしの為、アクフに協力する主の意思を伝えて、薬の材料探しに同行することになった。
「良かったよ、取敢えずはお前と鉾を構えなくて良くなって。」
「その節は失礼いたしました。その代わり、これからあまり強くないけど、優しい貴方のために尽力させていただきます!」
そう言って、袖をまくってぺったんこのちからこぶしを見せる。
「そういえば、かなり今更ではあるんだが、あの状況で聞く訳にもいかなかったからな。お前名前なんて言うんだ?」
「名字のないただのラミです。名前と言えば、私もあなたの名前を聞いていませんでしたね。」
「そうか、確かに俺も名乗っていなかったな。じゃ、改めて俺の名前はアクフだ。姓はない。」
「これからどれくらいの付き合いになるかはわかりませんが、よろしくお願いします。アクフ!」
「こちらからもよろしく!」
「さて、じゃあ今から参加するラミの為に、私達がなんでこんなところに来ているか説明する。簡単に言うと、私達の街がとある疫病に侵されてそれを解決する薬の材料を取りに来ている。以上。」
「分かりました。それで、その材料はどちらの方に?」
「それはここを真っすぐ進んだところに、池がある。その池の底にある海藻をいっぱい取って持って帰れればいい。」
「分かりました、では先程行った通り私を頼りにしてくださいね!」
「期待してるよ、ラミ!」
「任せてください!」
そこから先はラミの宣言通りに脅威となりえそうな存在がいたとしても、ラミのハノエルによる圧倒的な殲滅力によって蹴散らしていく。
その姿を見て、(敵対じゃなくて仲間になってくれて本当によかったー)とアクフはつくづく思った。
1時間後、何の問題もなくアクフ達は、目的地の池にたどり着いた。
「ふー、突きました。さて、ここから潜るわけですが、誰が潜りますか?どちらにしても私かお姉ちゃんは入らないといけないので、今は考えないとして。」
「今回も私がします。」
「ちょっと待ってくれ。流石に、俺がラミより弱いとはいえ、ラミ一人だけに任せるのは気が引いてきたから、今度は俺に行かせてくれ。」
「確かにそれもそうですね。」
「あと、これを言っちゃまずいかもしれないが、多分、お前の魂塊の『罪を裁く羽根』の能力の中に羽根を爆破させるってのがあるだろ。あれ水中だと使えなくなると思うんだ。だから、ラミはショランか、コアノを守ってもらうためにも、ここに残ってくれないか?」
「まあ、そうですね。分かりました。私はここに残って残った方を守ることに徹しましょう。」
「任せたぞ。」




