8 狂戦士、はしゃぐ。
関所を出た私達は、その足で魔法を買いに専門店へと向かった。
店内に入ると、小瓶に収納された半透明の結晶がずらりと並んでいる。
あれらは魔法結晶と呼ばれ、体内に取りこむことですぐにその魔法を使えるようになるという便利なものだ。ただし、相当値が張る。
習得できる魔法やその数は、レベル、魔力の熟練度などで決まるが、今のチームメンバー達でも初歩魔法二つくらいならいけるだろう。
「よし、ゲイン系はどれも一つ百万だな。お前達、〈アタックゲイン〉〈ガードゲイン〉〈スピードゲイン〉のどれか一つ好きなの買って習得しろ」
それぞれ、攻撃、防御、速さ、を強化する基本魔法になる。
本来なら全部まとめて習得したいところだが、まあ一つあるだけでも生存率は変わってくるはず。
さて、二百万ある私も強化魔法を二つ覚えてもいいのだが。
と並んでいる結晶を順番に見ていく。
前世の時代からずいぶん経っているので、新しい魔法もかなり増えてるな。
かつて溢れていた粗悪な魔法は、やはりほぼ淘汰されたようだ。逆を言えば、現在でも残っている魔法は選び抜かれた質のいいものということになる。
前世で使い勝手がよかったのは雷属性だったか。おそらく魔獣に対しても有効に違いない。
最もランクの低い〈サンダーボルト〉なら二百万で何とか買えるだろ。
しかし、その値札を見て私は固まった。
に、二百五十万、だと……!
「なあ、誰か一人、金返して……」
振り返ると、もう全員が各自ゲインを選んで会計を済ませていた。ほくほくした顔で魔法結晶を眺めている。
言えん……。前の私なら返品させた上で奪い返していたが、今の私にはできん……。
皆、あんなに嬉しそうにしてるし……。
だが、〈サンダーボルト〉は何としても今すぐほしいところだ。
「リムマイアさん、その魔法がほしいんですか?」
横でミッシェルが首を傾げていた。
……そんなこと、気前よく百万を配った今、口が裂けても言えんっ!
黙っていると彼女は背中のリュックから札束を取り出した。
「足りない分は私が出します。買ってください、それ」
ミッシェル……、剣も鎧もくれるし、魔法まで。なんていい奴だ。
彼女に五十万ゼアを補ってもらい、私は〈サンダーボルト〉を入手することができた。
小瓶に入った結晶を眺めているとレオが。
「ほくほくした顔してずいぶん嬉しそうだな。まるで本当の子供みたいだぞ」
……紛れもなく私は本当の子供だぞ(外側は)。
魔法店での買い物を終えた私達は、ようやくドルソニア王国の拠点に向かうことになった。森の中とは打って変わって、揚々と先頭を歩くミッシェル。その足がピタリと止まった。
「その前に帰還用の転送を予約してきます」
「なら、俺もやっておくか」
レオも思い出したように呟いた。
転送の光を構築するのには時間が掛かる。専門の訓練を積んだ魔法技師が数人がかりで一か月ほどだ。なので、ミッシェルもレオも帰るのは早くて一か月後になる。
金の方も結構かかるようだから順番待ちとかはないらしいが、早めに予約するに越したことはないな。
そして、訪れた転送所にて。
ミッシェルはカウンターにすがりつくように泣き崩れていた。
料金表を見ると転送は一人四百万ゼアと書いてある。
カウンターの上には札束が四つ。ただし、その内の一つは高さが半分しかない。
……そうか、五十万、足りなかったか。
どうして料金きっかりしか持ってこなかったんだ……。
「実は……、特注の装備を作るのに私が動かせるお金は全て使ってしまい……、これは執事から借りてきたんです……」
めそめそとミッシェルはそう述べた。
使用人から金を借りるお嬢って何なんだ……。
だが、足りなくなったのは私のせいだし、用立ててやるか。
「ちょっと待ってろ。今から魔獣を狩って五十万作ってきてやる」
「それは助かりますが別に今からじゃなくても!」
「いいや、今から行く」
譲らないでいるとレオが私の顔を覗きこんできた。
「……お前、今すぐ〈サンダーボルト〉を使いたくて仕方ないだろ? ウズウズが顔に出てるぞ。子供らしいといえばらしいが、戦場に来てから急にはしゃぎ出すってどうなんだ?」
別にはしゃいでなんか、いや、少しうかれてる感じはするな。雰囲気が懐かしいというか。
「とにかく、今からさっと行ってくる。魔力もそこそこ戻ってるから心配するな。皆は先に拠点に向かってくれ」