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7 狂戦士、愛でられる。

 デッドゾーンを突破した私達は、その後は一度も魔獣に遭遇することなく、レジセネの町に無事到着した。

 この町は世界各国が資金を出し合って築いた、前線最大の拠点だ。それだけに東西南北に数キロと相当な広さがある。

 そして、町を挟むように東側と西側には巨大な台地が。

 遥か上空にあるあの台地の天辺にもかなりの面積の地面が広がっていて、そこも魔獣との戦場になっているらしい。むしろそっちが主戦場と言っていい。


 魔獣が支配する世界との境界であるこの地域には、こんな台地がいくつも存在する。まるで砦を奪い合うように、台地を巡って繰り広げられているのが人類の戦争だった。


 名声を得るにはまず台地の上まで行かなければならないが、そこに辿り着けるのは一握りの戦士だけだ。

 ちなみに、町の南側に広がる私達が転送された森林地帯はサフィドナの森という。

 ほとんどの戦士はこの初心者の森か、上に行くための通路である台地内部の洞窟で脱落するそうだな。それ以前に、レジセネの町に辿り着けるのは転送された者の半分ほどというデータもある。

 まあ、私達も危うく全滅するところだったんだが……。

 一言で表すなら、やはりここは地獄の戦場ということだ。


 町の入口になっている大きな門の前まで行くと、他にも大勢の戦士の姿があった。

 おっと、いかん。


「師匠、下ろしてくれ。もう歩けるくらいには魔力は回復した」


 私はレオに背負われたままだった。

 ただでさえ私だけ子供なのに、おんぶされたまま入場してなるものか。

 地面に下りながら周囲を見回す。

 誰も彼も、大なり小なりほっとした表情に見えるな。この町は結界で覆われているからやはり安心するんだろう。(そのせいで町に直接転送できないわけだが)


「まずは関所で登録するぞ」


 私達を先導するレオがゲートの横にある建物を指差した。

 あれは世界戦線協会の前線基地で、簡略的に関所と呼ばれている。

 レオに続いて中に入り、名簿に所属国と名前を記載してもらうと、本当に無事到着したという実感が湧いてきた。


 また、この関所では魔石の換金もしてくれる。

 私が袋からジャラジャラと魔石を出すと、受付の女性職員は目を丸くした。


「あの……、あなた方、たった今着いたばかりですよね……?」

「ああ、あんたがさっき登録してくれただろ」

「では、この大量の魔石は……?」

「私達、デッドゾーンに転送されたんだ。大変だったんだぞ」

「デッドゾーンを生き抜いたんですか!」


 受付の彼女が叫ぶと部屋は騒然となった。

 そうか、普通は生存率0パーセントだったな。しかし、うるさい。

 居合わせた戦士達や職員達は口々に「信じられない!」とか「ありえない!」と。

 これにムッとしたミッシェルがずずいと私を押し出した。


「嘘じゃありません! このリムマイアさんが! たった一人で! デッドゾーンの魔獣を殲滅したんですよ!」


 おい、ミッシェル……。

 案の定、私に視線が集中する。

 受付の女性が再び遠慮がちに尋ねてきた。


「失礼ですが、リムマイアさんはまだ子供のように見えるのですが……」

「……その通りだ。十歳だから世間一般的には、子供に当たる」

「十歳ですか!」


 再び彼女が叫ぶと周囲はもう収集がつかない状態に。

 レオがさも楽しげに笑みを浮かべながら私の肩に手を乗せる。


「よかったな、リムマイア。大型ルーキー誕生だ。いや、小型か。お前、意外と美少女だからきっと人気出るぞ」


 そう、惰弱なこの体の唯一とも言える取り柄が容姿の愛らしさだ。

 柔らかな栗色の髪に、緑色がかった瞳。

 私は結構な美少女だった。


 ……確かに名声を得たいと思ったが、こんな形で注目されるのは違う気がする。

 見ろ、皆まるで小動物を愛でるような目で私を……。

 あいつら、絶対に私がデッドゾーンを突破したとか信じてないだろ。今は魔力も消耗しているしな。

 そんな周囲の反応にレオはもう一度笑みをこぼした。


「愛でていられるのも今だけだ。お前が活動を始めたら、嫌でも実力を知ることになるだろうさ」

「……はぁ、もういい。早く魔石を換金してくれ」


 受付の職員を急かして本来の仕事をさせた。

 程なく、カウンターに札束が五つ並ぶ。

 五百万ゼアか、こんなもんだろ。

 なお、ゼアは世界の共通通貨になる。町角で売っている肉まんが大体一個百ゼアくらいだな。


 私はカウンターの金に手を伸ばす。


「じゃあ、この金は」


 ミッシェル以外のチームメンバー三人に札束を一つずつ渡した。

 残り二つを懐にしまう私を、全員がきょとんとした顔で見てくる。


「ほとんど私が倒したんだから、ちょっとくらい取り分多くてもいいだろ? ミッシェルはもう帰るし、師匠は同行者なんだから我慢してくれ」


 すると、レオが「そうじゃなくて」と言った。


「ほとんどお前が倒したから、全部持っていくと思ったんだが……」


 うむ、前世の私なら迷いなくそうしていた。

 今世でもそうしたい気持ちは山々だ、が。


「この戦場は思っていたよりやばい。三人はその金で強化魔法を買え」


 とりあえず、王国の拠点より先に、魔法店に行くか。

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