6 狂戦士、固有魔法を発動させる。
過去数十年に及ぶドルソニアの転送記録の中で、デッドゾーンに飛ばされて無事町に辿り着けたのはたった二例。たまたま同行者が英雄クラスの戦士だった時だけ。
通常は生存率0パーセントと言われている。師範のおっさんが同行者じゃ切り抜けるのはまず不可能だ……。
そのレオが早々に諦めの言葉を吐いたせいもあり、他の皆は顔面蒼白になっていた。
ミッシェルは何かを悟ったように微笑みを浮かべている。
おい、大丈夫か。
「私です……。私が安易に、英雄になろうなんて考えたから、きっと天罰が下ったんです……」
だとしたら、巻きこんだ私達にまず言うことがあるだろ。
とにかくもう全員が諦めの境地に至りつつある。私だって……。
……いや、私はごめんだな。
せっかく得た二度目の人生。失うにしても全力で抗ってからだ。
……あれを使うしかないか。
「師匠、私の〈戦闘狂〉を使おう」
「お前……、まだ一度だって試したこともないだろ」
「やってみるしかない。私ができるだけ仕留めるから、皆も死ぬ気で戦え」
全員の顔を順番に見る。
「諦めるのは全てを出し切ってからだ」
主に一番諦めの早かったおっさんに向けて言ったのだが、その言葉は意外な奴に届いた。
ミッシェルがつけていた鎧を外す。剣と一緒に私によこした。
「使ってください、リムマイアさん。私にできるのはこれくらい。全てを出し切りました」
「装備がお嬢の全てか……。でもありがとう、助かる」
礼を言いながら、私は鎧を着替えて剣を持ち替える。
それから、自分の中にある〈戦闘狂〉と向かい合った。
私はクラスを授かって以来この固有魔法を避けてきたし、できるならまだ使いたくはないと思っていた。制御できる自信がなかったからだ。
前世では初めて使用した際、急激な肉体の変化と魔力の上昇に耐えきれず、私は意識を失った。
あの負荷に、今の体がもつか?
悩んでいる状況ではないし、もう選択の余地もない!
絶対に使いこなしてみせる!
いくぞ……、〈戦闘狂〉発動!
ズオオオオオオオオ!
くっ、体が熱い……!
この魔力量、やはりこの魔法は怪物だ……!
暴発しそうだ……。抑えろ……、抑えろ……。
こちらに向かってくるレギドランの群れが目に入った。
とっさに剣に付与された〈プラスソード〉の魔法を使う。剣先が伸びて広がり、刃渡り二メートルほどの魔力の大剣に。
迎撃を、と思った瞬間。
シュザザザン!
気付いたら、もう私は群れの後方にいた。レギドラン達が一斉に崩れる。
……以前と一緒だ、自分が斬ったのかも分からないほどの自然な反応……。まるで息をするように敵を……。
ゆっくり考える間もなく、体はすぐに次の行動に移る。
タンッ! と地面を蹴って空中へ。
眼下にモノドラギスの巨体を捉え、その首筋に剣を振り抜いた。
沈めた大型魔獣の体に着地するや、また即座に次の標的を探す。
……やはり、戦鬼が取り憑いたみたいに体が勝手に動く。
本能に、呑まれる……。
そう思ったのを最後に、私の意識は戦い一色に染まった。
――――。
気付けば私は草地に寝転び、空を見上げていた。
体に全く力が入らない……。
どうにか意識は失わずに済んだが。魔力も空に近いし、〈戦闘狂〉、相変わらず反動が半端ないな……。
もう周囲に魔獣の姿は見当たらない。日に照らされて輝く魔石が点々と落ちているだけだった。
レオが皆を引き連れて私の所に。
「まるで戦鬼だったぞ……。死ぬ気で戦うも何も、俺達は全然何もしていない」
「それは悪かった。まあ、こういうやばい固有魔法なんだ」
「やばいのはお前自身だ。リムマイア本来の能力と〈戦闘狂〉がぴったりはまった感じがしたな」
この魔法とは前世からの腐れ縁だからな。
ため息をつきながらレオは私の体を起こし、自分の背中に背負う。
「お前はレベルでも俺なんてすぐに追い抜くだろうさ」
「ああ、今の戦闘で一気に上がったからな。【ベルセレス】レベル10になった。おそらく来月中には抜くだろう」
「そんなにすぐか……」
「だが、おっさんはずっと私の師匠だ。何一つ私に勝てるものがなくなってもな」
「お前……、絶対に俺のこと師匠と思ってないだろ……」
何だ、喜ぶと思って言ってやったのに。
しかし、これからまたこの固有魔法と付き合っていくのか……。
人の気も知らないで、ミッシェルがにこやかな表情で私の横に並んできた。
「おかげさまで生きて帰還できそうです。その剣と鎧は差し上げますね。きっとリムマイアさんは、本当に国の英雄になると思います」
英雄か、確かに私もそこを目指していた。金のために。
だが、なったらなったで、また面倒なことに巻きこまれそうな気がする……。