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5 狂戦士、地獄の戦場に立つ。

 とりあえず、あのモノドラギスはレオに任せておいて大丈夫だろう。

 おっさんだが師範を務めているだけあって、彼はそれなりに戦闘経験がある。レベルも26だ。こんな時のための同行者でもあるしな。そのクラスは【ウォリアー】で固有魔法は〈高速移動〉らしい。使用時、魔力と筋力がそれに適した形で強化される。

 レオは素早く動き回って巨竜を翻弄していた。剣で斬りつけ、あるいは魔法を飛ばし、徐々にその体力を削っていく。

 やっぱり問題ないな。

 あとは隙が生まれたら急所を突いて仕留めるはずだ。


「皆(ミッシェル以外)、あれはお手本みたいな戦い方だからしっかり見とけよ。……待った、それより武器を抜け」


 呼びかけつつ、私も背中の大剣を抜いた。

 こっちに近付いてくる複数の魔力を感じる。足音も聞こえてきたな。

 現れたのは体長二メートルくらいの竜、五頭。こいつらは確か、走竜種のレギドランか。

 一応尋ねておくかな。


「師匠、どうする?」

「そっちで何とかしてくれ!」

「だろうな。全員、フォーメーションだ」


 戦闘時の陣形は考えてあった。

 私は自由に動ける遊撃。残りはミッシェルを守って壁を作る。

 じゃ早速、遊撃手として先手を取らせてもらうぞ。


 地面を強く蹴り、素早く一頭の懐に入った。大剣を一閃。


 ザンッ!


 レギドランを斜めに斬り裂き、その命を奪った。

 休まずすぐに次の竜へ。

 振り下ろされた鉤爪を避け、ギュン! と横に回りこむ。

 喉元を突いてこちらも一撃で仕留めた。


 自分で言うのも何だが、小さくて重い攻撃を出せる私は、敵からすれば怖い相手だと思う。小柄なこの体格も役に立ってるってことになるが、もう少し身長はほしいかな。実力を示すのにいちいちボコボコにしてられん。

 と仲間達の方に目をやると、あちらにもレギドランが一頭行ってしまっていた。

 奴らも各訓練所から選ばれてきてるわけだから大丈夫なはずなんだが、どうも緊張してるみたいだな。


 私自身、ある程度は気圧されるのを覚悟していた。

 しかし、実際に魔獣を前にしても想像を超えるものではなかったし、体もしっかり動く。やはり前世の経験が大きいのだろうか。だとしたら、こいつらに同じことを求めるのは酷かもしれない。

 仕方ない、応援してやろう。


「それくらい倒せないと戦士としてやっていくのは厳しいな。公爵令嬢と一緒に帰ることになるぞ」

「一緒に帰りますか!」


 いや、ミッシェルは守ってもらってるんだから。

 しかし、三人の闘志に火をつける助けになったらしく、格段に動きがよくなった。

 彼らが協力して初めての魔獣を討伐している間に、私も残りの二頭を片付けた。


 地面に転がっている煌く宝石、魔石を拾い上げる。

 魔獣は命が尽きると肉体は塵と化し、魔力の一部がこうやって結晶化するそうだ。結構な高値で売れるらしい。

 私は集めた四つの魔石をミッシェルに手渡した。


「私達の初めての稼ぎだ。しっかり持っててくれ」

「私達の、初めての……!」


 お嬢は何もしてないけどな。


 ちなみに、魔獣を倒した者には経験値が入る。私にもレギドラン四頭から流れこんできていた。

 ……これはいい。

 自分で鍛えるより断然増えるじゃないか。もうレベル5が目前にまで。この調子で魔獣を狩っていけば、今の小さな体でものし上がれそうだ。

 現代には素晴らしい獲物がいた!


「リ、リムマイアさん、どうしたんですか? すごく邪悪な笑い方して」


 ミッシェルに指摘されて口元を正した。

 いかん、つい前世の名残が……。


 それにしても、こんなに続けて魔獣と遭遇するとは。

 事前の話では、魔獣が一番大人しくなる真昼を狙って転送されるので、運がよければ全く戦わずに町まで行けるかも、ということだった。

 まさか、この場所は……。


「来て早々、レギドランの群れを叩くとは、お前達なかなか見込みがあるぞ(やったのは大体リムマイアだが)」


 レオもモノドラギスを倒して戻ってきていた。おっさんもなかなか頑張ったぞ。


「待て師匠、まだ仕留めてないだろ」

「何を言ってるんだ? 確かに魔石がここに……」


 私とレオの視線の先には、元気な角竜の姿が。

 よく見るとあいつは無傷だな。じゃあ、新しく来た奴だ。

 師匠、悪いがもう一頭……、と言おうとした瞬間、その隣に体長十メートルほどある狼頭のドラゴンが現れた。

 あれは獣竜種のウルガルダといって、モノドラギスと並ぶ一帯の最強魔獣になる。

 さらに別々の方角からモノドラギスとウルガルダがそれぞれ一頭ずつ。そして、四頭の大型魔獣に誘われるように、レギドランなど体長五メートル以下の魔獣達も続々と集まってきた。数にして数十頭はいるだろうか。

 私達六人は完全に囲まれてしまった。

 間違いない、この場所は……。


「デッドゾーンに転送されたみたいだな、私達」

「ああ、終わった……」


 レオが棒立ちで力ない返事を。

 無理もないが。


 魔獣は戦場の不特定の所で、自然発生的に誕生する。

 ただ一箇所だけ生成の集中するエリアがあった。

 デッドゾーンと呼ばれる地獄の戦場。無数の魔獣が活動する超危険地帯だ。

 もし初心者ばかりのチームがこんな場所に転送されたらどうなるか、結果は火を見るより明らかだろう。

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