4 狂戦士、転送される。
倒れたミッシェルにレオが急いで駆け寄る。
「ミミミミミッシェル様ー!」
「師匠、この人いったい何なんだ?」
「公爵家のご令嬢だ……。ゆえあって今回、参加なさっている……」
面倒なのが入ってきたな。公爵家といえばトップ貴族だろ。
気にもなるし、チームのリーダー(全勝したので当然そうなる)として放ってもおけないので、私はミッシェルから事情を聞くことにした。目が覚めた彼女に。
「飯でも行こう。おごってやる」
公爵令嬢に人生初の下町グルメをごちそうしつつ話を伺った。
彼女の家は権力争いに敗れ、現在、没落の危機にあるらしい。状況を打開するために思いついたのが、自らが国の英雄となって家を盛り立てるという秘策。
いや、完全に失策だろ……。
ミッシェル本人も私との手合わせでそれを痛感したようだ。
それでもまだ諦め切れない様子。
大金を注ぎこんで装備も作ってしまっているしな。理由はそれだけじゃないか。好奇心旺盛の困ったお嬢だ。
「足手まといになるのは分かっています。一度戦場を見てみたいのです。……お願いします、リムマイアさん」
……しょうがないか。
面倒事を引き受けてしまう私の悪い癖が出た。
「ところで、お嬢の固有魔法〈二度寝〉って何だ?」
「これは二度寝する前に使っておくと、起きた時には肉体的疲労、精神的疲労、あと魔力も、完全回復するという魔法です」
……結構すごいな。発動させるのに二回寝ないといけないが。
とりあえず、戦場では到底使えるものじゃないと分かった。
転送の日まであまり日数もないが、私とレオはできる限りメンバーを鍛えることにした。
なかなかハードな訓練になったものの、ミッシェルだけは毎日はつらつとやって来ていた。たぶん〈二度寝〉の効果だろう。しかし、案の定と言うべきか、その腕前はさほど変わり映えしなかったが……。
――――。
新暦四六一年四月上旬。
いよいよ転送の日がやって来た。
構築された転送の光の前で、レオが私達に注意を促す。
「いいか、俺達は森のどこに飛ばされるか分からない。すぐ目の前に魔獣がいてもおかしくないんだ。全員、心の準備だけはしっかりしてろ」
全員で手をつなぎ、転送の光に近付く。誰ともなく光が体に移り、気付けば六人共に全身が輝いていた。
直後に周囲の景色が一変する。
王城にいたはずの私達は、薄暗い森の中に立っていた。
ざわざわと風に揺れる木々。
すぐ目の前には鼻息荒く睨みつけてくる竜。
…………。
……本当にいた。
おっさんが余計なことを言うからだぞ!
頭部から一角を生やした、体長十五メートルほどのドラゴンが私達からわずかな距離の所に。
この魔獣の名前は全員が頭に叩きこんでいるだろう。
角竜種モノドラギス。一帯の森では最大にして最強の魔獣になる。しょっぱなから大変な奴を引き当てたものだ。
「全員下がれ! 俺が相手をする!」
レオの声で、呆然と巨竜を見つめていた四人が我に返る。
「こっちだ! 急げ! 巻きこまれたら死ぬぞ!」
私の誘導で即座にその場から離れた。
いきなりこんな大型魔獣との戦闘は想定していない。皆が呆然としていたように、情報では知っていてもいざ前にすると迫力に圧倒される。
四人に目を向けると、その思考が手に取るように分かった。
……こんな巨大なものと戦って、勝てるのか……?
といった感じだな、たぶん。一人は思考を読むまでもないが。
ミッシェルが装備をカタカタと鳴らして震えていた。
「む、無理です……。やっぱり、え、英雄になろうなんて、愚かな夢でした……」
そうか、結構すぐに答が出てよかったな。だが……。
彼女は泣きながら私にすがりつく。
「……い、今すぐ帰らせてください!」
もう遅い。
町に着くまで頑張れ。