3 狂戦士、令嬢を殴り倒す。
今日は一緒に転送されるメンバーとの顔合わせが行われる。
転送先は広大な森の中で、拠点となるレジセネの町まで全員で協力して行かなければならない。これから数日かけて連携強化などの訓練をする。
メンバーは私と同じく、どこかの訓練所から推薦された連中だ。なのでそこそこ腕は立つはずだった。
ドルソニア王国王城の一室にて、私はテーブルに着いた四人の顔を眺めた。
経験と魔力感知で、〈識別〉の魔法を使わなくても大体の実力は分かる。
やっぱり、そこそこだな。年齢は十代から二十代。魔力量は私より少ないし、腕前はレオにも及ばない。おっさんはベテラン戦士として同行するわけだし、そりゃそうか。
そのレオが仕切って私達に自己紹介をさせた。
私の番になると四人共、興味津々といった様子だ。一人だけどう見ても子供だしな。
固有魔法〈戦闘狂〉が珍しいというのもある。
他の奴もここにいるだけあって戦いに適した固有魔法だった。〈筋力強化〉とか、戦闘用としてはまあ一般的な感じだな。
にしても、変なのが一人まざってないか?
ミッシェルという奴、格好も雰囲気も普通じゃない。
……こいつ、どう見ても貴族のお嬢様だ。そして、一人だけ明らかに実力が足りていない。〈識別〉で確認すると他の三人はレベル2、彼女だけレベル1だった。あと、お前の固有魔法、〈二度寝〉って何だ?
ミッシェルの方も私をじっと見つめていた。カクンと首を傾げる。
「こんな子供も戦場に行くのですか?」
すると、テーブルの横に立っていたレオが私の肩に手を。
「こいつは俺が直接稽古をつけていた。クソガキだが才能のある奴でな、二か月でレベルは4になった」
これを聞いた四人は信じられないといった目で私を見てくる。どいつもこいつも失礼だな。世間の常識から言えば仕方ないか。
こういう時のやり方は前世から変わらない。
腕力で分からせるのが一番だ。
「だったら、今から全員で手合わせしよう。勝ち残った奴がリーダーだ」
私がそう提案すると、レオが呆れたような視線をよこしてきた。
てっとり早くていいだろ?
「いいですよ! 受けて立ちましょう!」
こう言って真っ先に席を立ったのはミッシェルだった。
このお嬢、どうしてそんなに自信満々なんだ……。お前が一番弱いんだぞ。いや、最弱ゆえに分からないか。
皆で城の中にある訓練場に移動した。
さっきは総当たり戦みたいに言ったが、そんな必要はない。
私はミッシェル以外の三人を順番にボコボコに、はできないので、いずれも適当にあしらった。
そしていよいよ、ミッシェルが私の前に。
……おい、なんだその装備。
いかにも上等そうなあつらえ立てピカピカの武具。しかも、剣と鎧からはなんか魔力感じるぞ。
なるほど……、あれが自信満々にしていた理由か。
「ふふふふ、この剣と鎧には魔法が宿っています」
聞いてもいないのに、ミッシェルは自分から解説を始めた。
「鎧には全身を守ってくれる防御の魔法が。一方、剣には切れ味を増す魔法に加え、魔力の刃を作り出す〈プラスソード〉が込められています。どちらも名のある職人にお願いした特注品ですよ!」
つまり、金にものを言わせて揃えた武具ってことだな。
彼女が剣をかざすと、その剣先に十センチほどの魔法の刃がぴょこんと伸びた。
……短い。おそらく〈プラスソード〉の源は本人の魔力か。
ここで、審判をしていたレオが遠慮がちに出てきた。
「これは訓練だから本物の武器は禁止だ、……ですよ」
おっさん、権力には弱いタイプなのか?
「その装備で構わない。私もこのままでいい」
と私は木剣を構える。
なお、身につけている防具も訓練用の最低限のものだけだ。
途端にミッシェルは慌て出した。
「いけません! あなたを殺してしまいますよ!」
「だったらフル装備で出てくるな。大丈夫だから、早くかかってこい」
「もうどうなっても知りませんからー!」
ミッシェルは魔法の剣を大きく振り上げて突っこんできた。
訓練期間はたぶん一週間ってところか。全く形になってない。
振り下ろされた剣を、私は木剣で受け止めた。
「え……? 嘘……」
戸惑いを隠せないミッシェル。
戦闘中に隙を見せるとは、やっぱりまだまだだな。
私は剣を持っているのとは逆の左手で彼女の腹を突く。殴る直前に防御魔法の抵抗。それを突き破ってみぞおちに拳を埋めた。
ミッシェルが膝をつき、開始二秒で決着だ。
「……そんな、どうして……」
私は木剣にも左拳にもかなりの魔力を込めていた。
それは木が金属より硬くなるほどだし、素手で魔法防壁を貫通できるほどだ。
「間違いなくその剣も鎧もいい物だ。ダメだったのは扱う奴だな」
「わ、私……、ですか……」
バタンと倒れた彼女はそのまま意識を失った。