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16 狂戦士、バージョンアップを明かす。

 私から手紙を受け取ったハロルドは仲間達と覗きこむ。彼らの顔が一斉に輝いた。

 それから、ハロルドは一緒に転送されてきた五人と共に横一列に並び、私に向かって頭を下げる。


「リムマイア様、本当に感謝してもしきれません。あなたとミッシェル様から受けたご恩は決して忘れることなく、これからドルソニア王国のために尽くします」

「そんなにかしこまらなくていいし、そこまで恩に感じる必要もない。自由に生きろ」


 ミッシェルがこっちにいた時から、私はハロルド達のことを相談していた。

 彼ら六人は世界最大の国土を誇るゼファリオン帝国の生まれだ。

 あの国は一か月に何組ものチームを戦場に転送している。方針ははっきりしており、数撃てば当たる、というもの。同行者など付けず、訓練が済んだ者達を次から次に送りこむ。ゆえに、戦死率でも世界のトップだ。

 だが、社会の下にいる者はこの危険なチャンスにすがりつくしかない。

 同じ孤児院で育ったハロルド達六人もそうだった。


 私が彼らを放っておけなかったのは、自分と同じ境遇だったからかもしれない。

 このまま帝国に属していては、何度も転送初日のような危機が訪れる。そこで、ハロルド達を引き抜く交渉をしてくれるように、私はミッシェルに頼んでおいた。

 それなりに金もかかっただろうが、うまくまとめてくれたらしい(おそらくデュランが)。


 ナタリー達、私と一緒に来た三人も仲間達を祝福していた。


「よかったですね、ハロルド。これで私達は名実共にドルソニア所属のチームです」

「ナタリー、今まで中途半端な状態ですまなかった。改めて、これからもよろしく頼む」


 うむ、本当によかった。

 今日は初めて大型を仕留めたし、めでたいことづくしだ。

 よし、ここは私が指導する先輩として……、いや、完全なる同期だったな。ここは私が指導する同期として、肉をごちそうしてやろう。

 魔石の換金はまだか、コレット。


「お待たせしました、リムマイアさん。魔石の換金、終わりましたよ」


 コレットはカウンターにまず札束四つを積み上げた。

 見ていたナタリーがくいっと眼鏡の位置を修正する。お、なかなかさまになってきたな。


「リムマイア様、相変わらず凄まじい稼ぎっぷりですね。私達九人の九倍くらいでしょうか。同期にここまでの差をつけられると、いっそすがすがしいですよ」

「毎日、私は大型を十頭前後狩るからな。今日はこの金で、お前らに好きなだけ肉を食わせてやる」


 私の言葉を聞いたハロルド達は一斉に歓声を上げた。この町で肉は本当に高級品だから気持ちは分かる。


 すると、様子を窺っていたコレットが遠慮がちに。


「……私も、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「コレットも肉を食いたいのか?」

「もちろん! 食いたいです!」


 彼女との世間話で知ったが、ここの職員の給料は外の部署で働く者と全く同じらしい。必要な食事や日用品は支給されるので生活には困らないそうだが、やはりあの物価だから買い物はしづらいだろう。

 コレットは思いの限りをぶつけてきた。


「この前線基地に配属されて約半年! ずっと一度でいいからお肉をお腹いっぱい食べたいと願ってきました! 何度も夢で見るほどに! 今は仕事終わりに肉まんを一つ買うのが唯一の楽しみなんです!」


 ……必死だ。絶対にこのチャンスを逃すまいと必死だ……。


「分かった……。コレットも来ていい……」

「ありがとうございます!」


 こうして、私達はドルソニア王国拠点の屋上で焼肉パーティーをすることになった。

 せっせと皆の分まで肉を焼くハロルド。固有魔法で肉の焼け具合を分析し、食べるタイミングを指示するナタリー。何かに取り憑かれたようにひたすら肉を貪り食うコレット。

 皆、楽しそうで何よりだ。


 平和な光景を眺めながら、私は以前デュランが言っていたことを思い出していた。

 人類が危機に立たされている、という言葉。

 それはこの前線にいるとはっきりと感じることができる。

 現在、戦士が活動している台地は、レジセネの町を挟む二つだけだ。その他は全て魔獣の支配下にある。この二つも占拠されたらどうなるのか分からないが、人類が追い詰められているのは確かだろう。

 私がこの時代に再び生を受けたことに意味があるとすれば、やはりそういうことなのか?

 現状を打開し、人類の滅亡を阻止しろと。

 いずれにしろ、一刻も早くもっと力をつけるべきだな。


 ――――。



 翌日、いつもより早く、日が上るとすぐに私は森に入った。

 朝靄の中を駆けていると、進行方向に早速モノドラギスがいるのを感知。

 一跳びで手前の木の枝に乗る。

 そこから大型の角竜に向かってもう一度ジャンプ。

 真上に来ると、体を回転させながら背中の剣を抜いた。


 ザッシュッ!


 角竜の首筋に魔力の刃を一閃。即座にその巨体を蹴ってまた別の木の枝へ。

 振り返ると同時に、モノドラギスは大地に崩れた。


 今の私なら、もう特別な魔法を使わなくても一撃で大型魔獣を倒せる。

 すでに私は【ベルセレス】レベル27。レベルでも魔力量でも台地の上で活動している戦士達に追いついたと思う。

 それだけじゃなく、私は自分に結構な額をつぎこんでいた。


 先ほどの角竜が塵に変わり、魔石が出現していたのでそちらに向けて手を伸ばす。

 すると、掌から発射された細長い魔力が一直線に飛んでいった。

 魔石に到達するやピタッと接着。瞬時に縮んで私の手の中に魔石を届けた。


 これは〈マジックロープ〉という魔法だ。伸縮も接着も自由自在で、色々と使い勝手のいい魔法になる。

 これ以外にも、ここに来てからの二か月で結構な数の魔法を習得した。あと、〈サンダーボルト〉も中級の〈サンダーボルトⅡ〉に強化したな。それに伴って、〈サンダーウエポン〉や〈サンダースラッシュ〉も〈Ⅱ〉にバージョンアップ。


 それから、金をかけたのは装備類か。身体能力を上げたり、特殊な効果が付与される腕輪やら指輪を身につけている。

 このように、魔法、装備面でも熟練の戦士達に負けていないはずだ。

 ただ一つ課題があるとすれば……。


 私は立っている枝から枝へと跳び、木を登っていく。

 一番高い所まで来ると、そこから台地の岸壁を眺めた。


 ……私には仲間がいないということだろうか。もうこのサフィドナの森での狩りは限界を迎えつつある。宣言通り何とかレオのレベルは超えたものの、ここ一週間ほどは上がってない。

 そろそろ次のフィールドに行きたいのだが、いざという時の〈戦闘狂〉、その反動を考えるとやはり一人では……。


 その時、遥か上空に膨大な魔力を感知した。


 まっすぐこっちに下りてくる……!

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