10 狂戦士、大型魔獣を狩る。
新人転送者六人が見守る中、私は背中の鞘から剣を抜いた。そこに付与された〈プラスソード〉の魔法を発動し、刃渡り二メートルの魔力の大剣を作る。
相対するウルガルダ。
一度は私の殺気に怯んだものの、その戦意は全く衰えていない。こちらに向かって激しく吠え、地面をダン! と踏み鳴らした。
こんな風にお前を踏み潰してやる! といった感じか。
私は改めて、体長十メートルの竜の巨体を眺めた。
これはなかなか人間の勝てるサイズではない。まして、それまで対人の木剣訓練しかやってこなかった奴に、いきなり戦って倒せなど無茶にもほどがある。
転送者の場合、こいつやモノドラギスのような大型魔獣に遭遇した時点で終わりだな。町に到達できる者が約半数というのも頷ける。
では、私はどうだろうか?
さっきは〈戦闘狂〉で大幅に強化された状態だった。
私がすぐにこの森に戻ってきたのは、魔法を試し撃ちしたいのもあるが、それだけじゃない。普段の力で仕留められると、しっかりと自分に、いや、あの怪物みたいな固有魔法に見せつけてやりたかったからだ。
懐かしいな、前世でもこうやって〈戦闘狂〉を従えさせようと必死になっていた(そして、気付いたら最凶の狂戦士と呼ばれるようになっていた)。
ふふ、久々に……、血が騒ぐ!
大地を強く蹴った私は、一気にウルガルダとの距離を詰めた。
これに、狼竜は予告通り前脚を大きく振り上げて踏み潰そうと。
回避した私はその脚を剣で斬りつける。鈍い手ごたえ。
……硬い、やはり頭以外の全身ほぼ鱗に覆われているだけあるな。
ウルガルダは今度は竜の尻尾で薙ぎ払おうとしてきた。
ジャンプして避けた私は、次は胴体を斬ってみる。
うーむ、魔法の刃のおかげでどうにか届くが、それにしても硬い。だが、ダメージがないわけではないし、とにかく攻撃しまくればいいだろ。
そろそろ使わせてもらうぞ!
〈サンダーボルト〉!
狼竜に向けて一直線に雷撃を放った。
これは雷属性の下位魔法なだけあって、こんな巨大な相手を倒し切れるものではない。しかし、感電によってわずかの間、その動きを停止させることならできる。
狙い通り、ウルガルダは活動を止めて硬直した。
さて、お前の攻撃の合間にさえ反撃できた私に、そんな大きな隙を見せればどうなるか、分かっているな?
魔力の大剣を天高く振り上げた。
ザン! ザン! ザン! ザン! ザザザザザンッ!
私は身動きのとれない巨獣を斬って斬って斬りまくる。
……相変わらず、本当に硬い。だが、前世の時代にはこれほど手ごたえのある敵は存在しなかった。
何だか……、……楽しくなってきた!
「くく、くはは、くはははははははは!」
ダメだ、自然と笑いが。止まらん!
と後ろで観戦している六人の話す声が聞こえてきた。
「……す、すごい、まるで狂戦士だ」
「ええ……、あんなに愛くるしい姿をしているのに、まるで狂戦士だわ……」
いかん、前世がバレる。
口元を正して気を引き締めた。
それに楽しんでいる場合でもなかった。
私の怒涛の斬撃は、いずれもウルガルダに致命傷を与えるまでには至ってない。魔法まで使ってこれではこの大型魔獣を仕留める術など……。
ないこともない。
この展開は割と予想通りだ。ちゃんと打つべき手を考えてある。
もう一度ウルガルダに〈サンダーボルト〉を放った。巨獣が停止している間に今度はその体に飛び乗る。
胴の上で大剣をかざし、渾身の力で突き立てた。
むぅ、渾身の力とはいえ、〈戦闘狂〉の強化がない現状ではやはり心臓まで届かないか。
だが、これも予想通りだ!
〈サンダーボルト〉!
私が雷を撃ったのは剣に対してだった。
それを伝ってウルガルダの体内に直接電流を注ぎこむ。
バリバリバリバリバリバリッ!
「グオオオオオオォォォォ!」
断末魔と共に狼竜は大地に崩れた。
たとえ下位魔法でもさすがにゼロ距離、いや、マイナス距離の電撃はかなり効くだろ。
塵に変わっていくウルガルダを眺めながら、私は何とも言えない達成感を覚えた。
うむ、これで〈戦闘狂〉に頼らずに大型魔獣を倒せたな。