証明
「では、本題に入らしてもらう。
我は時間が惜しい。故に、単刀直入に言わしてもらう。
───クルシア、エルナ。我が配下に加われ。」
空気が変わる。
ただでさえ呑まれそうだった空気がより強力で重い空気に上書きされる感覚に襲われながら俺は「何故?」と聞き返す。
「我は人間どもを負かす為にあともう一手欲しい。その一手が貴様らだ。────だけでは足りぬか?」
要はラウゼルは魔王2人という強力な戦力が欲しいのだ。
人間側の勢力を捻り潰す、強力な戦力が。
───そんなのはお断りだ。
「俺は戦争に興味ないし、やりたくもない。そこのヴォレンのように中立という形にはできないか?」
「無理だな」
即答。
「何故?」
今度はエルナが聞き返した。
「私も戦争は反対。彼が良くて私達がダメな理由は?教えて。」
ラウゼルはエルナの質問に「簡単な話だ」と言葉を続ける。
「本来なら、これも配下に加えたい。だか、これは我とて苦戦を強いられる程の力の持ち主。この中でも我の次に強い。故に、中立という形でこれの扱いは保留しているのだ。
───早い話、中立がいいのなら「 自分は我に屈服するほど弱くない」と証明してみろ」
己の意志を通したいのなら己の力で示せ。
そんな意味が感じ取られる発言に俺はしばし考える。
そして───
「俺は転生者だ」
「───ほう?」
「俺の転生スキルは『叡智』。ざっくり言えば知りたい情報がなんでもない分かるっていう、とんでもスキルだ。」
俺の強さを証明するためにはこれが一番手っ取り早い。
それを聞いたラウゼルは少し驚きながら
「そういえば、あれからもう200年程か。」
「あ?」
「知らぬのか?転生者はなにもお前だけじゃない。200年周期で発生する、世界の仕組みよ。そこの『怠惰』も転生者だぞ。」
まじですか。
そういや転生者についてそこまで詳しく調べたことはなかったな。
そしてヴォレンも転生者という情報もさらっと出てきたし…………
「………なるほど。面白い。」
ラウゼルは悪い笑みを浮かべ、俺とエルナを交互に見やり、
「よし、決めた。貴様らに………そうだな、10年やろう。その間に、我に並ぶ程の強者になれ」
そう、提案してきた。
10年。
その時間の間に、少なくともヴォレン以上に強くならなければならない。
それが出来なければ俺とエルナはラウゼルの配下になり人間側の敵となる。
………やってやろうじゃねえか
「ああ、それでいい。……10年まだずに、お前をぶっ飛ばしてやるよ」
「私も」
「フッ、楽しみにしているぞ。」
エルナも啖呵を切る俺に同意し、ラウゼルが余裕そうに笑う。
俺は立ち上がり、入ってきた扉に歩き始める。
そのまま俺は肩越しに振り返り、
「時間が惜しい。今すぐにでも強くならなくてはいけないからな。………10年後、またこの場でな。」
正々堂々と宣言してやった。
俺はそのまま何も言わず、扉に向かう。
エルナも俺に続き、扉に向かって歩き始めた。
その背中を止める魔王はいなかった。
ラッキーと思いながら俺は扉に触れそのまま開ける。
「あぁ、そうだ。お前とそのの女が魔王だという情報は秘匿しといてやろう。」
俺は何も言葉を返さず扉を開け、出た。
そのまま扉を閉める。
………………一瞬、楽しそうに顔を歪める『強欲』が見えた気がした。
数年振りの『魔王の茶会』
それこそ、先代『暴食』が欠けた時以来の茶会だった。
そんなことを考えながら、いつものように脱力し、その場で横になる。
もう随分と付き合いの長い自室だ。
200年。
─────あれから200年経つのか。
「………クルシア・ノーティス」
1人の名を呟く。
その名は先程の茶会で聞いている側も気持ちいい啖呵を切った今代の『暴食』の名だ。
だか、そんなことは些事だ。
ノーティス。
この姓は、この世界で一番『怠惰』な僕ですら、驚いてしまう程重要なものだ。
どんな因果なのだろうか。
僕と似た境遇の『暴食』が、僕の一番大切だった人と同じ姓を名乗っている。
「………クルシア・ノーティス。────僕みたいにはなるなよ。」
それは自嘲であり、『暴食』に向けた忠告だった。
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