一匹狼の寄生の勉強
寄生に成功した。
俺は近くにあった水晶の様な鉱石に映る自分を覗いてみる。
鋭い牙に高い鼻と耳、そして四本足。
俺の体はちゃんと狼になっていた。
だが寄生した狼と全く一緒という訳ではない。
寄生生物の面影が残っているかのように、目は赤色で体毛は黄緑色だ。
それに、スキルを合計四つ習得。
…………寄生した相手の持っていたスキルを覚えることができるっぽいな
スキルが増えるのは正直かなりありがたい。特に攻撃系スキルは嬉しい。
『触手』だけではこの先詰むだろうし。
………これで少しは安心だな。
───数分後
俺は狼の身体で辺りを適当に歩いてみることにした。
宿主を入手したので地上に戻っても良かったが、そうしなかったのは単なる気まぐれだ。
───魔物の生態系豊かな洞窟でその選択は悪手だというのに
「───キュィ?」
探索中の俺は赤目白毛の兎を見つける。
たが、「わ〜可愛い〜」とはならない。
───全身血まみれで俺と同種の狼を食っているのだから。
「───ギュルッ!!」
兎は俺を捕食対象と定めるや否や、足を肥大化させ目にも止まらぬ速度で肉薄する。
「───ッッ!?」
反応に遅れた俺は兎の蹴りをもろに受け吹っ飛び洞窟の壁に激突する。
「がハッ………」
速すぎる、兎の蹴り。
狼の体のおかげか、意識を失わずにすんだが、それでも強すぎる威力だ。
兎の出していい力じゃない。
そんな愚痴を心の中で呟きながら体勢を整える。
「キュ、ギュィ!」
間隔かけず、兎がもう一度蹴りを入れようとする。
一か八か……………『豪爪』!
先程体で覚えさせられたタイミングを頼りにスキルを発動させた爪を振るう。
「ギュィッ」
苦し紛れの抵抗は幸をそうし、兎の腹を浅く裂いた。
…………これで『寄生』の条件は満たされた。
「ギュッギァッ……!」
変に抵抗されないよう、俺はすぐさま『寄生』を発動する。
───刹那、意識が飛ぶような感覚に襲われ、狼を離れた寄生生物の体が兎の体に侵入する。
数秒もしないうちに俺の体は兎となった。
はぁ、できた…………
体を見下ろせば、大きな二本足に丸々とした体。
狼に寄生した時と同じ黄緑色の体毛だがちゃんと寄生できている。
成功だ。
ただ、1つ気になることがある。
……この狼はどうなるんだ?
"寄生を使用した状態で他の生物に寄生する場合、今寄生している生物から抜けるため、その生物の体は失われます”
まじかよ。
これはかなり大きい欠点だと兎の嫌な顔を作る。
その場その場で魔物を切り替えて使おうと思っていたのだが。
──いや、大丈夫だ。
そもそもここは異世界。スキルやら、ステータスやらなんやらがある世界だ。
出来ないことはほとんどないだろう。
頭を回せ、なにかいい方法がきっと…いや、絶対ある。
……上限なしの勇者のポーチとかねぇかな
ゲームでお馴染み、無限に物を入れれる別空間・アイテム…………なんでもいい。
そこに魔物を入れ、ケースバイケースで入れ替える、そうすればいいのではないか。
───スキル『叡智』、該当するスキルとその詳細、習得方法を頼む。
"スキル 『体内貯蔵』”
体内に別空間を作りそこに任意でものを入れられる。
上限なし
タイラントベアの討伐により入手可、近くに生息反応あり
このスキル『体内貯蔵』は今後必要だろう。とても便利なスキルだ。
……………やるか、
今は狼なためおそらく大丈夫だろう。
────熊狩りだ
それから、三時間ほど洞窟を探索していると、5mはありそうなクマがいた。
見るからに裕福な体をしていて、『食』へ対する意地汚さが伝わってくる。
俺は弱気を振り払い、その巨体へ挑む。
今回戦う体は狼をチョイスした。
兎の体(遺体?)は俺の見つけた小さな空間の入口においてある。
上から石で軽く覆ったし、取られたりすることはないだろう。
───狭い洞窟内でで巨大な大食い熊と小さな寄生生物の戦いが始まった。
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