わんわん長者
子供のいない夫婦は犬を飼いました。
犬は、神様にお祈りして、話ができるようになりました。
わんわんは、幸せに、なれるのか。
すこし昔、あるところに、子供のできない夫婦がおりました。
夫婦はいつも神様にお祈りするのですが、一向に授からないので諦めて犬を飼うことにしました。
犬はかわいい。
犬をかわいがり、育てていると、子供を育てることと似たように、犬から学ぶこともたくさんありました。
夫婦はそのオスの犬を「プリン」と名づけ、プリンはすくすくと成長しました。
夫婦はまるで我が子のようにその犬に接しました。
プリンは大きくなると、お父さん、お母さんのために僕も何かしてやりたい、恩返しをしたいと思うようになり、神様にお願いしました。
すると、プリンは言葉を話すようになりました。
「お父さん、お母さん、僕はお父さんとお母さんのくらしをきっと楽にして見せますからね」
そう言ってプリンはなんと、近所の自動車整備工場に行き、
「僕も働かせてください、報酬はちゅーるじゃなくてマネーで」
自動車整備工場の店長はとても驚きましたが、プリンはなかなかよく働き、自動車のしくみをすぐに覚え、修理や車検ではメーカーに部品の手配までできるようになりました。
お父さんとお母さんは、プリンが工場に住み込みで働くので、なかなか帰ってこないことを心配して、たまに工場をのぞきに行きました。
店長さんは
「プリンはよく働いています。社員と同じだけ給料を渡していますよ」
お母さんは、
「プリンが元気で働いているならそれだけでいいのよ」
と言いましたが、お父さんとお母さんの姿が見えると、プリンは油で汚れたからだを気にせず、二人のもとに駆け出していきました。
「お父さん!お母さん!」
プリンは見に来てくれた二人に、思いっきり甘えました。
◇◇◇
月日がたち、プリンが一人前の整備士となると、店長さんが言い出しました。
「プリンや、お前、そろそろ結婚しないか?ウチの娘は30歳過ぎても、ずっと自分の部屋で小説を書いている。若いころに人間の男はもうこりごりだといって、引きこもってしまったのだ」
「いいよ!店長さん!娘さんをきっと幸せにします!」
娘は、名前をミチコと言いました。色々な男に何度も裏切られたが、犬ならば、として、プリンと結婚することになりました。
結婚式ではプリンの両親も喜んでくれました。
まさか、子供を授からなかった私達が子供の結婚式を見られるなんて。と言って喜びました。
ミチコは結婚してからすぐにプリンと仲良くなり、少しずつ自動車整備の仕事をするようになりました。
ある時、地元の大手自動車メーカーの人たちが監査に来ました。
「この工場では犬をウロウロさせているのか」
「なんか昔の小学校みたいな管理体制だな」
男たちは口々にプリンを悪く言い、犬なんかにウチの車をいじらせるな!と言って帰っていきました。
ミチコはくやしくてたまりません。プリンが一番この工場でよく働いたからです。
その日から、工場のゴミ箱が燃やされたり、毒入りドッグフードが工場に投げ込まれたりしました。
それでも、ミチコは「これだから男は」と言いながらプリンを守りました。
◇◇◇
しかし、いよいよ他の社員も、プリンを辞めさせなければダメかもしれないと思い始めました。
大手メーカーににらまれたままだと、小さな工場では仕事を選ばなければならなくなります。
社員たちはロープとナイフをもってプリンを囲み、
「こうするほかないんだ・・・許してくれ」
ミチコは、
「やめて下さい!この犬だけは!私の夫なんです!」
そう言いながらプリンに覆いかぶさりました。
すると、みるみるうちに、プリンは立派な青年になり、
「ありがとうミチコ、ミチコが神様にお祈りしてくれたから、僕は人間になれた」
社員はみな二人に謝り、プリンは人間として資格を取り直し、新しい店長としてしっかり働きました。
◇◇◇
こうして、その自動車整備工場はますます大きくなり、中古車販売を手掛けるようになり、海外との取引も始めるようになり、今では国内大手の販売店の一つになりました。
「犬として働いてた時の方が給料がたまったわん、はっはっは。おっと今ちょっと犬に戻ってた」
プリンは幸せに暮らしましたとさ。
おしまい
昔話でよくみられる「異種婚」
今回は「たにし長者」を現代風にするとどうなるかを、考えてみました。
自然に対する畏怖や親密感っていうのは、暮らしの中に自然があってこそだからなぁ・・・
現代社会に本当に必要な異種婚ばなし、ではないかもしれません。
亜種のひとつとして楽しんでいただければ幸いです。