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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
4th AID 幸福と偽りのワライ

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咎人は刑死を以て

 カラスに合わせたのか雫は装いあらたに俺の前に現れた。ゴスロリのワンピースを何処で調達したのかは知らないが、カラスを伴い現れるとまるで鳥を支配する女王様のようで、非現実的というか、白昼夢でも見ているみたいだ。不特定多数の人間の夢に出たと言われる『This man』は有名だが、七凪雫が同じく夢の中に現れては世の男性を恋の虜にする存在と言われても俺は信じる。

 まして特殊能力を実際に使えるのだから、信じない理由の方が無いだろう。

「君達の望みを叶えに来た。これで満足?」

 本人が屋上の縁からひょいと下りると、男は俺の事なんぞ忘れて、ナイフの切っ先を彼女に向けた。

「七凪雫ぅ……! てめえ、何故俺の母親を殺したあ!」

「ん? 殺した?」

「え?」

 名前さえ知っていれば可能だろうが、雫の反応はどう考えても心当たりが無いと言った風であり、筋違いの恨みをぶつけられて存外素直に困惑していた。冷静にさえなれれば男にもその反応のおかしさは気付けたかもしれないが、頭に血が上った人間は確実に視野狭窄に陥っている。ましてそれが母親を殺した仇敵ともなれば……俺だってそうなる。

「とぼけるな! おかしいと思ったんだ……変な数珠つけたり、朝ご飯抜いたり、友達にわざと喧嘩売る様な真似したり……お前が仕向けたんだろ! 『六薙罪人ろくなぎつみと』!」

 仮にも恋人である俺も全く何の話だか把握出来ない。雫は「ろくな……」まで言って考え込んでいたが、三分もしない内に両手を広げ、半ば開き直り気味にカラっと告げた。

「人違いだよ」

「お前に不思議な力があるのは知ってる! それで操って、殺したんだ! さも言葉巧みに誘導した様に見せかけてなッ。普通に考えたらそんな怪しい名前の奴を信じる訳が無い!」

 一理というか百理というか万理の頂上というか、全面的に男の発言は正しいのだが何か引っかかる。尤も、迂闊に発言をすればせっかく彼女が引いてくれた注意がまた向きかねないのでここは黙っておく。流石に逃げる余裕はない。

「まあ、何でもいいや。大体予想がつくからね。可哀想と同情の一つも言いたいけれど、死刑囚に同情されて喜ぶ死人も居ないか。言い残す事は?」


「死ねえええええええええええ!」

 

 狂った声を張り上げながら男が飛びかかった。しかしそれよりも早く彼女を取り囲んでいたカラスが男に突っ込み、躊躇なく男の両目に突っ込んだ。

「ぎゃぎゃぎゃっ!」

 己の身を顧みない特攻をカラスが仕掛けるとは考えられない。という事は……操っているのだ。男がもんどり打つと同時に周囲の電線で待機していたカラスが一斉に飛びかかり、彼の身体を至上の餌と言わんばかりに群がった。

「ぎゃああああああああああああッ―――」

 激痛と呼ぶに生ぬるい絶望も一瞬の事。真っ黒に塗り潰されて分からないが喉を貪られたのか、声がピタッと止んだ。勝負とさえ呼べない一瞬の出来事、そして進行形で繰り広げられる凄惨な光景に俺は現実の理解にかなりの時間を要した。

 そしていよいよ理解が追いついた時、死体も残らぬ処刑方法から目を逸らした。直視するには惨過ぎる。忌避するには綺麗すぎる。男のいた場所には、血肉の一欠片も残っていなかった。

 雫は先程の男など秒で忘れて、その場から動けずにいる俺をぎゅっと抱き締めた。

「大丈夫ッ? 怪我はない?」

「あ、ああ…………」

「ん、この痣は……階段から落ちたのか。それもあちこちぶつけたね。痛くないのッ?」

「あ、ああ……………」

「ごめんね。もっと早く来れば良かったんだけど…………君に迷惑が掛かると思って」

 心ここにあらずだったという事に今気づいた。雫の心配は募るばかりで、終いには泣きそうになりながら俺に語り掛けていた。悪戯に心配させてしまった事に忸怩たる思いを感じながら、慌てて対応する。

「……あッ。…………め、迷惑だなんてそんな。来なかったら死んでたんですから」

「いや、してやられたよ―――私は来たくなかったんだ」

「え? それは……姿を晒したくなかったから、とか?」

「ちガウ」

 雫の声にノイズが掛かった錯覚がした。気のせいだろうか。

「私がたった今吊り出されたのは、薬子の作戦だって言ってるんだよ」

「え?」

「今まで私の所在は誰にも掴まれなかった。これからも掴ませるつもりは一切無いけどね。でも君を危険な目に遭わせれば私が引っ張り出される事が証明されてしまった。最悪だ、目先の安全を確保しなければ君が危なかったのは事実だけど…………ごめん」

「そんな謝らなくても! 実力行使って言いますけど、この国は法治国家ですから。今回みたいな例は特殊で、そうそう何も起きないと思いますよ」

「何も起きないと思ってるなら、悪いけど危機感が足りないよ。凛原薬子は私に対する捜査に関してのみ警察の協力を取り付けている。実力行使なんてどうとでもなるよ。例えば……『七凪雫が向坂柳馬という高校生を狙っているので彼を保護しよう』とかね」

「保護…………でも保護でしょ? 流石に危ない目には―――」

「薬子は私の逮捕に関わってるんだよ。ことその件では信頼されている。秩序機構は悪を挫くには強いが、味方を裁くには心もとないんだよ」

 掌の上で踊らされるという表現に沿うなら、雫は掌の上に居る事を自覚していると言えばいいのだろうか。しかしそれだけ薬子について理解が深いならこちらだって幾らでも対処出来そうなものだが……どうも芳しくない表情だ。

「…………これから連休だけど。薬子が接触してきたら注意するんだよ。いや、出来るなら逃げてくれ。彼女はこの事件を把握してる。これから君に対して―――本腰を入れるかもしれない」

「逃げろって……あいつの身体能力を知ってて随分無茶言いますね!」

「まあ仮にも一般人を装ってるから道端で襲い掛かるとは思わない―――」

 二人で話し込んでいると、ビルの下の方から大量のサイレンが鳴っている事に気が付いた。深春先輩が通報したか、はたまた男の声を聴いたか、それとも元凶らしい薬子が呼んだのかは定かではないが、ここは袋小路だ。俺はともかく雫を逃がさなければ。

「雫、逃げて下さい」

「勿論そのつもりだ。アイツが来てたら外壁をよじ登ってくるから」

 彼女が両手を広げると、残っていたカラスが雫の全身を覆った。竜巻の様に回って何の真似かと思えば、カラスが散った時、彼女の姿は消えていた。それこそきれいさっぱり、何の痕跡もなく。




「大丈夫ですかッ」




「うわああああ!?」

 屋上の縁から聞こえる声。まさかと思って振り返れば、本当に薬子が外壁からよじ登ってきた。正直ちょっと引いている。女子高生の身体能力じゃない。

「く、く、くす、薬子!」

「七凪雫が貴方を襲っていると聞いて急いで来たのですが…………奴は何処へ?」

「は、はあ? そ、そんな通報誰がしたんだ?」

「匿名の通報だったものですから、そこまでは。とにかく病院……いえ、襲撃のリスクを加味すれば信用出来ません。私の家で手当てをしましょう。そう、それがいいです。来てくれますね?」

「あ、ちょ――ーいや。俺、同行者が下の方に」

「一緒に連れて行きましょう。それで構いませんね。間に合わなかったお詫びも兼ねて色々とお世話させてもらいます。そうだ、これからの予定について話しましょう。貴方は既に危険です」

「ええ、いや、あの―――ちょっと、力強! 腕が抜ける!」

「本気ではないのでご安心を」

「本気なら腕が抜けんのかよ―――って待てや! おい! 人の話を……!」

 有無を言わせぬ膂力で俺は強引に引っ張られていくのだった。

  

デートだ!

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― 新着の感想 ―
[一言] ここ初見だと裏で何が起こってるか絶対分かりませんよね。
[一言] 某姉レベルで強いやん
[良い点] 薬子め……中々の策士っスね…… [気になる点] となると、このおにーさんの母親は薬子に……!? [一言] デートだとぉ!?
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