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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
4th AID 幸福と偽りのワライ

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ワタシを探して三千里

新章

 

 ―――お兄ってば、最近元気になったな。


 記憶の壊れた私にとってお兄は唯一の家族で、だからお兄が元気になる事が嬉しくないかと言われたら嘘になるんだけど、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、寂しい。私だってお兄の事を虚言癖だって思ってるけど、それとこれとは話が別。だって唯一の家族だから。

 お兄が本格的に虚言癖扱いされたのは高校生に入ってからだけど、その兆候はずっと前から―――櫻葉さんと絶交してから見えていた。お兄は忘れちゃったかもしれないけど、絶交直後なんて酷かった。自尊心を失っていたって言えばいいのか、一挙手一投足に陰があって、もう見てられなかった。私なりに慰めたつもりだったけど、それでもお兄は立ち直らなかった。立ち直ったのはいつだったっけ? お兄の事は鮮明に覚えていても、いつについては曖昧だ。

 『家族』の力になれる事が嬉しかった。寂しさを感じるのはもうそれが出来ないと分かっているからだろうか。もう流石に疑ってないけど、恋人が出来たって本当の話なんだね。


 ―――私だけの、お兄だったのに。


 何を言ってるんだろう? 私は。

 私だけのお兄なんて、そんな時期は一瞬たりともなかったじゃない。誰かがいつもお兄の傍に居た。私がお兄を助けた時なんて一度もない。どうして妹に生まれたかを問うつもりはないけど、出来れば同い年に、友達として生まれたかった。

 


「お前、知ってる?」


「え?」

 学校からの帰り道、友人の一人である鏡宮四之助かがみやしのすけ君が話を振ってきた。考え事をしていて全く前後の脈絡が掴めない。

「ごめん。話を聞いてなかった。何?」

「地味に傷つくな。最近女子の間で有名だろ、暗行路紅魔あんぎょうじこうまって奴」

 四之助君はどちらかと言えばクラスでは浮いている方で、別に特別な理由は何も無いと思うんだけど、何かと流行を嫌う癖があるから孤立しているんだと思う。特に仲が良い訳ではないんだけど、私もクラスの中心で馴染む人間でも無いから、不思議と絡む回数が増えている。私の記憶は壊れていくけど、ごちゃごちゃになった記憶においても彼と絡んでいる回数は非常に多く、男の子の中では一番仲がいい、と思う。

「……興味ない」

「あれさ、何か怖くね? 人の悩みを仮面で解決って怖すぎんだろ。ご利益のある壺とどっちがマシなんだか」

「―――興味ないから概要も知らないんだけど、そんなのが流行ってるの?」

「本当に興味ないんだな。妃沙子ひさことか恋愛成就の仮面貰って彼氏できたって聞いたぞ」

 南波妃沙子。クラスで私と一番仲の良い―――いや、四之助君を除けば全員と仲が良い女の子。彼は『なんか嫌い』という理由だけで距離を取っていて、そのせいで一部の男子の怒りを買っている。一説には妃沙子は四之助君を好きだって話だけど―――あれ?記憶が混ざってるかな?

「妃沙子って四之助君を好きだと思ってたんだけど」

「じゃあ諦めたんじゃねえの。彼氏ってのが確か三年の先輩だったかな。俺なんかよりよっぽどイケメンで、ついでに言えばバスケ部の主力だしな。俺が好きだったって話は知らないが、面食いだったんじゃないか?」

「四之助君。その暗行路なんたらってのに興味があるの? 流行なんて絶対乗らないとか言ってなかった? 気のせいならごめんね」

「いや乗らないけど、流石にちょっとなんか怖いだろ。俺以上に無関心なお前に言っても無駄だけど、学校に仮面を持ち込んでない女子ってもうお前しかいないんだぞ。最近じゃ先生までプライベートで使ってるって話だぞ」

「四之助君は?」

「持ってねえよ。男子の方はまだ普及してないから情報を集めようにもって感じだし、だからお前が何か知ってるなら教えてほしかったんだが……」

 興味ないし、興味がない物をどうして一々知ろうとしなければならないのか。大人になったらそんな我儘は言えないとも分かってるけど、私はまだ中学生だ。勉強さえ出来るならこの我儘は貫き通しても問題ない筈だ。

「知ってどうするの? 犯罪じゃないし、先生も止めようとしてないでしょ? 放置してもいいんじゃない?」

「いや~手遅れになる前に何とかして対処しときたいんだよなあ。もしだぞ、もしクラス全員が仮面着用してたらどうよ? 仮面貰った奴は全員『暗行路』の事を信頼してるし、カルト宗教のなんか……怪しい話に乗せられそうだろ?」

「考えすぎ。そこまで怪しくなってくるなら学校か警察が対処するでしょ」

 悪い人じゃないんだけど、四之助君はどうもネガティブ思考が強くて非現実的な方向にも発想が働いてしまう。そんな事はあり得ない。幽霊とか妖怪とかそういう話なら理屈は分かるけど、只の仮面にそんな力は無いし、信用を利用してお金を搾取するやり方は完全に詐欺であり犯罪だ。誰も対処しない無法地帯に私は住んでいない。

 四之助君がポケットに手を突っ込んで、淡白に呟いた。

「お前は、騙されるなよ」

「心配してくれるんだ?」

 揶揄う様に微笑みかけると、彼は「バーカ」と言って、目を見開いた。

「お前まで仮面使い出したらなんか気持ち悪いだけだよ。勘違いしてくれるなよ」









  

      












「連休だああああああああああ~…………」


「おめでとう」


 辛い辛い学校生活が一時的に終わりを迎える。明日から三連休だ。『カラキリさん』から二週間。薬子にも雫にも大きな動きは無く、市全体としても雰囲気は緩みつつあった。当の死刑囚が部屋に居入り浸ってさしたる事件を起こしてないのも大きいだろう。このままいけば捜査も打ち切られて、無事に俺は雫との約束を守る形に…………

「まあ、私は毎日連休だけどね」

「死刑囚が行く学校は無いでしょうからね。あれ? でも刑務所内は懲役があるんじゃ?」

「君、忘れたの? 私はあの堅苦しい拘束衣を着てたんだよ? 働ける訳が無い。ずっと一人ぼっちだったのさ。鉄格子の部屋で、窓のない石畳で。連休も長すぎれば退屈なものさ」

 終わりがあるから休みは休みなのであって、終わりのない休みは無限の退屈と変わりない。それでも俺を含めた大多数の学生は無限の休みを欲して、今日も有言たる休みに愚痴る。非常に難しい話だ。今の雫の話を聞いたとしても、やはり俺はもっと休めたらと思う。所詮は三連休だ。


  ―――しかし。


「雫。デートしましょう、また」

「―――いいよ。今度は何処へ連れて行ってくれるの?」

 今までの三連休と言えば寝て起きてを繰り返して、たまに瑠羽と遊んで、また寝るだけの味気ないものだった。だが雫が入り浸る今は違う。一緒に楽しむ相手がいる。それだけで休みは以前とは違った輝きを持つ様になる。

 ……恋人らしく『そういう行為』をしたい気持ちはあるが、家族に発覚されかねないのと、出来れば何もかも終わった後に心置きなくしたいので、今は飽くまで健全に、喪われた青春を取り戻すかの如く動きたい。

「うーん。何処か行きたい所とか無いですか?」

「君が傍に居るならたとえ地の中、火の中、水の中、鳥の中。断頭台の上とて大歓迎だとも」

 地の中、火の中、水の中……鳥の中?

「全部死体の埋葬じゃないですか!」

「あ、バレた?」

 鳥の中で確信した。それぞれ土葬、火葬、水葬、鳥葬だ。その理屈で行くとあらゆる場合において俺と雫は同じ葬り方で死んでいるではないか。

「まあしかし、せめて死ぬ時くらいは一緒に居たいものだよ。君とは生まれた場所も、生まれた時代も、性別も、何もかも違うんだ。せめて死ぬ時くらいは……ね」

 雫は背後から俺を抱きしめると、胸の辺りを手で優しく擦ってくる。他人に触られているからか妙に擽ったい。というかそこはかとなく官能的だ。

「お、大袈裟ですよ。生まれた場所が違うのは当たり前ですし、生まれた時代って年齢の事でしょ? 何もかも違ってたら俺達は出会えてないと思います。死ぬ時くらいなんて寂しい事は言わないでください」

「じゃあ……死んでも一緒は?」

 薬子曰く、俺は近い内に殺される。そうは言われつつもう二週間も経過しているが、殺されない保証は当の本人以外誰もしてくれない。口約束というのもそうだが、仮に正式な契約を行った所で相手は死刑囚だ。法律を守るつもりなど肩書からして更々ない。

 そういう事情から死んでも一緒という愛の証明は全く笑えない。少し間を置いて雫は自らの発言を茶化した。

「なーんて、君にそんな契約を強いるつもりは無いよ。流石に照れ臭いしね。あは―――きゃッ?」

 俺は彼女の方へ振り返りそのままベッドへ押し倒した。彼女の膂力は知っている、その気になれば抵抗処か逆に押し潰す事さえ可能なのに雫は一切の抵抗をしなかった。

 か弱い女の子と呼ぶには強すぎるが、少なくとも今の雫は可愛いと言っても差し支えなかった。

「な、何?」

「貴方を逃がしたその時から俺の地獄行きは決まってると思います。もし雫が一緒に地獄に落ちてくれるなら、その契約、願ったり叶ったりです」

 徐々に上体を下げていく。重力に逆らい天を突く豊満な乳房の先端が触れる。柔らかい。今日も雫は下着をつけていないのか。男心という名の性欲を弄ぶかのようではないか。それでも上体を鎮めていくと、柔らかな感触が潰れて、俺と彼女の胸の間で歪んだ。

「…………君は、実に馬鹿だな。私は死刑囚だよ? とっくの昔に地獄行きさ。おや、どうやら私達はお似合いの恋人だと閻魔様も認めていらっしゃるみたいだよ?」

「雫……」

「………………キス、してくれる?」

 ゴクッ。

 唾を呑んだ音は、或は雫にも聞こえていたかもしれない。流石にキス乞いは死刑囚と言えども羞恥に足る言葉らしく、発言してから遅効的に頬が染まっていった。

「ご、ごめん。今の……無し」

「駄目です」

「えッ」

「キスします。雫がどんなに抵抗しても、絶対にキスします。だって今、そう要求されましたから」

「…………ッ」

 どうしよう。死ぬ程恥ずかしい。雰囲気に流されてとんでもない事を口走ってしまった。言葉上と実情は全く違う。キスを宣言した事でさも俺が行おうとしているみたいに見えるが、キス待ちをしているのは雫であり、俺は激烈に己の発言を後悔しているだけだった。

 でも、言ってしまったものは仕方がない。俺達は恋人だ。キスしても問題はない。むしろ健全であるべきだ。深く息を吸って、状態ではなく唇を徐々に下げていく。雫は目を閉じて、さも目覚めのキスを待つかの様に、全てを受け入れた―――



 ピンポーン。  

 


 …………。

 もし薬子や深春先輩なら俺が出ないといけない。無視すると瑠羽が呼びに来るだろう。徐々に顔を離して、ベッドから降りる。雫は残念そうに唇を触っていた。

「誰かと予定でも組んでたの?」

「いや、そういう訳じゃないんですけど。薬子とか来たら感知されてしまいそうで……あはは。ちょっと行ってきます」

 安心する反面、後悔している俺も確かに存在している。あんな所で止まるくらいならもうキスしてしまえば良かったではないか、と。

 この何とも言えない感情を俺は恋人のジレンマと名付けたいのだが、出来れば解消方法を誰か教えてくれないだろうか。

  

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[一言] 避難所に「死刑囚」は無いのか(少し期待してた自分がいる)
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