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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
ENDEATH  ナナギの神曲

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192/221

奪い合うもので、分け合うと足りません

 三日目を抜いて四日目。

 眼を気にしないで貰えるのがそんなに嬉しかったのか、遊んでいる時の雪奈さんのテンションは過去一番で高かった。異性としての認識以前に年下特有の愛嬌みたいなものが弾けており、大変満足出来た一日だった。時々恋人プレイを蒸し返すと恥ずかしくなって黙り込むのも面白い。繰り返せば繰り返す程雫が俺に対して蒸し返した気持ちが分かる。

 三日目も来るようなら相手したが、そこまでの遊び盛りではなかった。二日目の反省を生かして物臭が発動しない内にコンビニで食糧を確保したので今日一日は外出しなくとも良い。学校が嫌いな学生は俺を羨むかもしれないが、ここに至るまでにどんな犠牲と事件があったかを思えば、休みくらいくれないと精神が持たない。


 ―――学校に復帰したところでな。


 クラスメイトは薬子の手によって改造された怪異に殺された。ほぼ全滅だ。気づくのが遅ければマリアも死んでいただろう。だからと言って憎む気持ちにもなれないのが不思議で、やはりイジメられていたのを知らんぷりされた事実が俺の中で尾を引いている。許したという事になっているが、それでも棘は残り続けるものだ。

 だがそれとこれとは話が別。薬子を憎む程クラスに愛着は無いが、殺される謂れは無かった。今だってその思いは変わらない。

 朝ごはんを食べながら流し気味にテレビを見つめる。雫の話題はもう出ない。あれだけ恐れられていた死刑囚は文字通り影も形もない。日常は滞りなく過ぎ去り、何の保証もないが明日は確実にやってくるだろうという予感がある。 

 新世界に入った時、そこは現実と全く相違なかった。おかしなヘッドギアを付ける過程があったから認識出来ただけで、例えば眠っている間につけられたならネタバラシされない限りまず現実と考えてしまう。構想の成就がどんな形で世界に反映されるのかは分からないが、彼女の言い草からしてあのヘッドギアの効果をそのまま全体に反映するのだろう。

 そうして思い通りの世界を作る事で死人は生き返り、死因のあらゆる一切が消え、戦争も競争も憎しみもない。アカシックレコードから技術だけを抽出すれば痛みのない成長が可能になる……

「……本当に、そんなうまく行くのか?」

 仮面に向かって語り掛けてみる。まさか喋りだすとは思わないが、どうせここに本物があるならば、せっかくだし本人と話がしてみたい。アカシックレコードに人格があるかは謎だが、最古にして最多の情報媒体というくらいなら、人格という名の情報くらいありそうなものだ。答えてくれるかは別とする。


 ―――意思があれば?


 響と霖子のお母さん(真の七凪雫)に神の脳みそことアカシックレコードが宿った。村長が神の生まれ変わりとされるのは日記の内容と併せて考えると母親の脳に宿った(部位が脳なのは薬子が雫の首だけを持ち去った事から推測される)レコードを奪取したからだ。

 つまりレコードにはそれそのものの意思がない。何故かと言えば単純明快、知恵は使うもので知識は使われるものだから。アカシックレコードは文字通り無限の知識かもしれないが、そこに知恵はない。誰かが知識を活用して初めて知恵になるから、意思の介入が必要不可欠なのだ。

 だから何だという話だが、もしレコードに意思があれば俺達に力を貸してくれただろう。というか薬子から奪い返して何もかも丸く収めてくれたに違いない。いや、分からないか。平行世界も含めて過去現在未来全ての情報を保有する存在の考えに人智が及ぶ筈もない。

 どうにかレコードに意思をとも考えたが、リスクが高すぎるか。大体実行手段も思いついてないのに、こんな曖昧過ぎる方法を会長や所長が採用してくれるとは思えない。あの二人は博打を打つタイプではないだろう。




 ピンポーン。

















「個人的に尋ねてくるなんて意外ですね」

「少しお話したい事がございまして」

 次に家を尋ねて来たのは緋花さん。親交が雪奈さんに比べるとそこまで深まっていないからか敬語が崩れない。ちょっとした願望としてフランクな彼女も見てみたい気はするが、それはもう少し後になりそうだ。

 『連れて行きたい場所があります』と告げられ、今は言われるがままに背中を追っている所だ。

「護堂様の報告によると、凛原薬子は度々貴方に好意を示していたとか」

「え? まあ、まあ。そうですね。やたらと手を抜いてくれましたよ。でも全然敵いませんでしたけどね」

「もしかしたらの話になりますが、貴方が告白すれば止まってくれるのではないでしょうか」

「…………はあ!?」

 緋花さんが冗談で言っている訳ではないのは分かる。それは分かるのだが、あまりにもふざけ過ぎた対策に俺は首を傾げてしまった。笑って流すべきか、それとも真面目に否定するべきか。それも分からない。人に伝わらない冗談は冗談ではないともされるが、人に伝わっても分からないものはある。

「ボケですか?」

「いえ、そうではありません。ただ、そういう人もいらっしゃるので」

「……成程。その人は良く分かりませんけど、アイツの言う好意ってそういう意味じゃないと思うんですよ。ほら、俺って恋愛経験なくて女性に免疫ないからワンチャン騙されてくれないかなっていう」

「明確に対立した後も、ですか?」

 それは……確かに。

 敵として互いに認識した後も言うのはおかしい。舐めプをしてくれるのは有難いが、一方で理由が見当たらない。では一体何の為に? 裏が無いとは全く思わない。対立する前の善行は、恐らくというか確実に付け入る為の演技だし。

「向坂様の事を、私は信用しております」

「信用ですか?」

「今回の一件、貴方が関わらなければこちらの勝利は見込めないような、そんな気がするのです。実際、どういう結末を迎えるかは貴方様次第とも考えております。向坂様、私達の事を気にする必要はございません。貴方様の最善を追求してください」

「……それは無理ですよ。雫を取り戻す代わりに全員死んでるとかなら笑えません。それを選ぶくらいならもっと別の―――」

「もう一度言いましょう。貴方様の最善を追求してください」

「……え?」

「どんなに困難な結末であっても、九龍所長を筆頭に、私達は全力で協力いたします。ですから不安がる事なく、進んでください」

 下駄を響かせながら緋花さんは綺麗な姿勢で歩き続ける。歩きスマホなどとんでもない。和服美人の神髄とは立ち振る舞いの美しさに集約されている。服装もあるだろうが、すれ違う多くの人々はその美貌に半分以上二度見した。友達と話していたり画面に意識を持っていかれている人間以外というべきか。

 ただし近寄りがたい雰囲気も同時に醸しているのでナンパはおろか写真を撮ろうという人間も現れない。本人が視線を気にしないのはそのせいかもしれない。

「……? ここは」

 思わず足を止めて建物全体を見つめる。ここは俺にとって始まりの場所。全てが始まり、日常が終わった場所。

 

 七凪雫と出会った廃工場だ。


 名前は分からない。そんなものはネットで検索しないと出て来ないだろう。少し足を止めたせいで緋花さんとの距離が少し開いた。追って中に入ると、天井から絡みつく物体が落下して俺を取り抑えた。




「王子様~♡ あ・い・た・か・った……はははははハハハ!」




「……真孤さん!?」

「まこちゃんでいいよん。はーあっはひ、好き~!」

 思考停止に重なる唇。否応なく奪われた唇に重なる空白。二度目のキス。三度目のキス。四度目の……

「……巫代様。向坂様が困惑しておられるのでそろそろ落ち着いていただけると」

「真実の愛を阻む者はないんだよお? はあ、王子様♡ 子宮が降りるって言葉は口が降りるって意味だけどぉ、王子様が願うならお腹を捌いて直接取り出してもいいんだよ? それで直接―――」 


「調子に乗らないでくれますか不愉快です。ここで殺しますよ死刑囚」


 薄暗い声が、工場内に響いた。度重なるキスの理由が分からなくて止まっていた思考が恐怖と共に動き出す。俺に向けられている訳ではないと知って、それでも嫌な汗が止まらなかった。真孤の顔に張り付いていた不安定な表情が安定する。

 緋花さんは声の無感情ぶりを裏切って笑っていた。

「……君は三代目によく似てるねえ。先祖返り?」

「嫌味ですか?」

「はいはーい♪ 分かりましたよん。ちゃんと約束は守るって。いひぃよぉねえ、そんな怖い顔しなくてさあ」

 真孤が離れたのを見て緋花さんが俺を引っ張り起こした。

「お怪我はございませんか?」

「あ、どうも。あの、三代目って何の話ですか?」

「ご先祖様の話です。何故彼女が知っているかは説明不要ですね。気にしないで下さい。ご存知の通りアカシックレコードに一番詳しいのは彼女です。二度目の面会という形でしょうか。どうぞ、抜かりなく質問してください。おかしな流れを感じたら私が仲裁に入ります」

「何でも質問してくださいな。私の事は勿論、ひいちゃんの事とかも。本人が教えられないなら私が教えてあげるよー」

 テンションはともかく、彼女なら確かに何でも教えられるだろう。護堂さんが居ないので遠回しに言われたら理解しかねるが、例えば既に分かり切っている事の確認や、微妙に不明な部分の解明などには使える筈だが、その前に。

「しれっと脱獄してるんですけど、どうやったんですか?」

「脱獄じゃにゃにゃ。正規でもないけんどもお、表向き死んでる死刑囚だから、ゴドーか水鏡家の力があればまあこれくらいは可能だワ!」

ゴドーとは護堂さんの事として水鏡家……そう言えば緋花さんは苗字を取り上げられているとか言ってたっけ。じゃあ彼女のフルネームは水鏡緋花みかがみひのかという訳か。綺麗な名前だ。

「にしても雫ちゃんと薬子ちゃんはズルいよね! 二人でレコードを分け合ってるなんて! 私も王子様と分かち合いたいな」

「方法があるんですか?」

「事故みたいなものだし、現代じゃ無理だのう。でもでもいいと思わない? 二人で感情を共有するんだよ。一体化だよ!」

「いやですよ気持ち悪い。大体共有って凄い変な気分になりそうですね。 …待って下さい。共有できるならお互いの位置分かりませんか?」

「お互いに繋がってるっていうかレコードを介してるだけだもん。だから例えば力を使った時とか、一緒に持ってきちゃうんだよ?」

 アカシックレコードは万能の力と思ったが他人の感情を引っ張ってくるなんて不便な力だ。元々が未来視の下位互換とだけあって半分こしても致命的な欠陥が……。

「……え?」

「にゃ?」







 じゃあ。

 もしかして。

 薬子が俺の事を好きと言っていたのは。

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] そんなに関係性深くないのになんで薬子こんなに好意的なんだろうと思ってたけどそういう・・・
[一言] さらっと水鏡言うたやん
[気になる点] 感情の一体化・・・!?え、じゃあ、それって・・・ というか真孤は水鏡家3代目当主を知っている・・・?
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