大喝采 独唱
ゴロゴロ
誰かに許してほしくて。助けてほしくて手を伸ばす。残念なことにここは私個人の資質であるために私以外の人間が入り込むことはほとんどない。当然のことながら私が他人を求めたからといってほとんどない来客が訪れることがあるはずもなく伸ばした手に行き先があるわけではない。
「これで手打ちにしないか?」
いつの間にか口から零れ落ちた台詞はなんとも気障ったらしいもので、何となく気に入らなくて頬を叩く。もはや反射的なものだ。小説やら漫画やらアニメやら、とにかく創作物のキャラが目を覚ましたり気合を入れるためにぱちんと頬を叩くのをまねしていたらそれはとは比べ物にならないよっぽど醜悪なものになって私の習慣が一つ増えることになった。
目の周辺の皮膚の薄い箇所から軽く血が漏れ出しているのを掌についた血痕で認識しながらも落ち着かず定まらない心を無理矢理押さえつけるためにもう一度、もう一度と叩くことをやめない。頭を掻きむしり埃やら皮膚やらよくわからないものが髪の毛を通じて狭い部屋の中を飛び散る。
いけない。
私の部屋なのだから、きれいにしておかないと。かるく部屋の収納に手を伸ばせばまるでしばらく使われていないかのように堂々とはまり切った形で鎮座する掃除機があった。もちろん掃除など毎日行うものだ。そんな置物のような扱いをしているわけではないのだが。
まあそんなことはどうだっていい。考えてしまえば次いつ私は私を攻撃するのか分かったものではないのだ。早めに用事は済ませておかねば。
有名メーカーの型落ち品の掃除機をゆっくりと丁寧にかけていけば何となく落ち着いたような錯覚に陥る。そうなってしまえばこちらのものだ、なんていって少し上がった口角がその行動と思考に対する不快感が強引に押さえつける。
掃除機を止める。
型落ち品特有の暴虐的な轟音が止んだ部屋の中で、浅くなっていた呼吸が少しずつ深くなっていく。
吸って、吐いて。吸って、吸って、吐いて。吸って、吐いて。吸って、吸って、吸って、吐いて。吸いすぎて。
噎せ返った背中がはねることをやめたときにはまあ、多分落ち着いて。
「手打ちにしてって言ったのに」
「・・・いや、ある意味手打ち?ハハ、うまいこと言うねぇ」
あっ、せっかく掃除機きれいに戻したのに。失敗したなぁ。
ダラダラ