ケモノから始まる異世界生活
どうしてこうなった。
目の前のグリフォンを見つめながら愛瑠は思う。
少し前に遡る。
愛瑠はその場に居ても意味はないと考え人里を探すために移動を開始した。その場を移動することで愛瑠を召喚した相手とすれ違う可能性があるがそもそも自分が召喚されたことを知ってるようにはこの状況を見て思えなかった。
そして歩きまわっていると遂に人が住んでそうな場所を見つけた。まだ少し距離があるため完全には見えないがそこは村と呼ぶのが正しそうな場所で周囲を田んぼが囲んでおり、人の住めそうな木製の家がいくつか建っているのが見えた。田んぼにも幾人かの人影があり、着いたら廃村でしたというオチは無さそうだ。
こちらに迷い混んでから初めて人に会えると思い村に向かって歩き出すと、突然後ろから何かが降り立ったような音が聞こえてそちらを振り返るとこちらに目を向けるグリフォンがいた。
(鷲の頭部と翼、ライオンの体。これはおそらくグリフォンだよね。あるいは近親種、合成獣合成獣の可能性もあるか)
目の前のグリフォン(仮)の瞳は深い知性を感じさせるものではなく肉食獣のそれである。
(グリフォン……幻獣と言っても獣と大差ないか。……これ詰んでない)
並の獣にも勝てない貧弱モヤシの一般人に大型の肉食獣。まわりに使えそうなものはなく抵抗は無駄だろう。しかし愛瑠は必死に生き残る道を探す。
全力で村まで走る。目を合わせたままゆっくりと後ろに下がる。逆にこちらから一撃入れて怯んでる隙に逃げる。
色々と浮かんでは消えていく。そうこうしてる間にグリフォンがしびれを切らし襲いかかって来た。
雄叫びを上げながらグリフォンの一撃が愛瑠に迫る。
愛瑠の処理速度がその一瞬だけ加速し周りの動きがゆっくりになるものの愛瑠に出来ることはなくグリフォンの一撃がくるのを眺めること出来なかった。
(あ、死んだ)
遂にグリフォンの一撃が愛瑠にたどり着き__
__愛瑠の後ろから飛び出した何かがグリフォンを吹き飛ばした。
「は?」
あまりの出来事に呆けてしまう。すると後ろから飛び出した何かが愛瑠に話しかけて来た。
「君! 大丈夫かい!?」
その声は高く幼さを残すものだった。
「え、ええ。大丈夫です。助けていただきありがとうございます」
「それは良かった! まだ危ないからぼくの後ろに隠れておいて」
お礼を言いつつ少女の後ろに隠れ少女の姿をしっかりと見る。愛瑠は瞠目した。
そこには15くらいの少女が立っていた。
茶色い髪を肩あたりまで伸ばしショートパンツにお腹が丸見えな服を来て健康的な素肌を覗かしている。しかし愛瑠が瞠目したのは少女が立っていたからではない。少女の頭の上にあるそれそれを見たからである。
それはけも耳だった。
本来耳があるべきところに耳はなく頭の上に猫科の耳がピクピク動く様子から本物だと察する。そ、それにおしりからでているこれは!?
「? 後ろに隠れるのはわかるけどなぜぼくのしっぽを掴むの?耳を触ったり? ……あ、これ意外に気持ち良い」
けも耳やしっぽを触られる少女が若干気持ち良さげに尋ねてくることで自分の失態に気づいた愛瑠はあわてて手を離した。すると後ろから第三者の声が飛んでくる。
「お主らは何をやっとるんじゃ……まだグリフォンは生きておるのじゃよ」
声のした方を向くとそこには狐の耳をはやした美女が立っていた。三本の狐の尾が生えており金の御髪が美しかった。腰に着けた刀に手を当て近づいてくる。
「ごめんよ村長」
「マオ、謝罪はいらんから早く下がれあれあれが起きるぞ」
そう言われると少女ーマオは愛瑠の手を掴み後ろに下がった。
グリフォンは既に立ち上がっておりこちらに襲いかからんとしていた。危なくないかとグリフォンと村長と言われた美女を交互に見ている愛瑠にマオは安心させるように優しく言う。
「大丈夫だよー。村長はとっても強いから」
その言葉を合図にしたかのようにグリフォンが村長に飛びかかる。村長は刀に手を当て避けようともせずグリフォンが近づいてくるのを持っている。
"グェェェェェ!!“
グリフォンが村長の元にたどり着き襲いかかった。そして村長もまた動き出した。
「〈炎斬り〉」
気がつけばグリフォンの首が地面に転がっていた。遅れてグリフォンの胴体が崩れ落ちる。ね、大丈夫だったでしょと話しかけてくるマオを尻目に愛瑠は村長とグリフォンを眺める。村長はグリフォンの死体を明らかに大きさの足りないはずの袋__アイテム袋!?と心の中で愛瑠は絶叫する__にすべて入れ、ゆっくりとこちらに向き直ると愛瑠に話しかけてくる。
「うむ、災難だったの少女よ。それでお主は何をしに来たんじゃ?」
「あ、すみません。助けていただきありがとうございます。私の名前は朝日愛瑠。愛瑠と読んでください。ここには突然連れてこられたようで誰か人がいないか探していたんです」
「突然連れてこられた? よくわからんが何か事情があるようだの。ここではなんだ村にくるかの?」
「はい、お願いします」
「そんな畏まらなくて良いんだよー。ぼくはマオよろしくね、愛瑠」
気楽にいこうと話しかけてくるマオは愛瑠の手を掴みそのまま村まで引っ張って行った。