98.石鹸の効果
翌日の夜は子供達の風呂で石鹸がデビューした。
子供達と言っても、平太・惣一郎・杉・惣二郎・松の年中組の男5人は、弥太郎の宿泊所に引っ越している。流石にそろそろ皆同居という年齢ではなくなってきているし、そもそも子供達の家が少々手狭になってきていた。
まあ短髪の男の子達は石鹸でガシガシ洗えばいいが、女の子達はそうはいかない。
様子を見に行くと、子供達の家の引き戸越しにワイワイと楽しそうな声が聴こえてきた。
どうやら小夜と白がきっちりとトリートメントして、ブローまでしてあげているようだ。
「すっごい!桜姉も梅姉も、小夜ちゃんみたいにサラサラの髪だ!」
「椿だって黒ちゃんに負けてないぐらいキラキラしてるわよ〜」
「ねえねえ、桜姉と梅姉はタケルに抱っこしてもらわないの?」
椿の発言に、桃と楓の髪をブローしていた小夜と白の動きが止まる。
「私達は……ねえ桜?」
「そうですね……抱っこで喜ぶ歳じゃないですし…」
「え??じゃあ何ならしてもらいたいの?」
「つ・ば・き・ちゃん?ちょっと黙ろうか?」
振り返った小夜のコメカミがピクピクしているのが見えるようだ。
「あ!わかった!子作りして欲しいんだ?桜姉も梅姉も、タケルの子供が欲しいんでしょ?」
これはいよいよ爆弾発言だ。
その場にいた女性陣全員の目がキラリと光る。
「だ!誰もそんなコト言ってないでしょ!」
「え〜そうなの?そろそろ柚子も八重も弟か妹が欲しいんじゃないかなって!じゃあ私が子作りしてもらおっかな〜」
「はあああ?椿なんかより私達が先に決まってるでしょ!」
「ちょっと!達って何よ!私は別に……」
「何?桜あんたタケルの子供欲しくないの?!」
「いやそうは言ってないけど……」
「でしょ?この一か月、午後はずっとタケルと一緒にいたのに、何にもなしよ!?ありえなくない!?」
「ちょっと!そんなコト言ったら、ずっと一緒に寝てる私は何?そんなに私に魅力ないのかなあ…」
「は?一緒に寝てる?何それ初耳なんだけど」
「小夜、詳しく聞かせてもらえるよね?」
なんだか恐ろしいことになっている。多分この引き戸を開けてはいけない。そっとしておこう。
母屋に逃げ帰ると、青と紅がゆったりとお茶を飲んでいた。
「おうタケル。なんだかあっちは姦しいな」
「ああ…なんか近づいてはいけない雰囲気だった」
「まああれだな、俺にはよくわからんが、女の園ってやつだな。落ち着くまでは放っとけ」
「みんな旦那様が大好きですからね。お茶飲みます?」
そう言って、青がお茶を入れてくれた。
青が入れてくれたお茶を飲んでいるうちに、少しは落ち着いてきた。
「でもタケルよ。落ち着いたらでいいけど、後継者はきちんと決めとかないと揉め事の種になるからな。俺達式神は別として、小夜か椿とは真剣に考えていいんじゃないか?」
「あら?桜と梅はいいの?」
「だってあの2人には子供がいるだろ。兄弟なのにタケルの血を引いてないってのはマズイだろ」
「まあそうですね。先に小夜か椿に子を産んでもらってからじゃないと、良くないですね」
いやせっかく落ち着いてきたのに、またそういう話をする……
「でも旦那様?後継者を決めて育てるのも、立派な君主の役目です。お世継ぎで揉めることほど不毛なことはありません。精霊に気に入られているのは小夜か椿ですから、やっぱりこの2人を中心に考えるべきかと」
「このまま数年すると、桃や楓、“ちよ”と“かさね”も参戦してくるだろうしな。早めに決めた方がいいぞ?」
そんなコト言われてもなあ…いや、うちの男の子達も立派に成長してるぞ?平太とか惣一郎とか、なかなかいいんじゃないか?
それに元の世界でも結婚した経験もないから、子作りとか世継ぎとか言われてもピンとこない。
「じゃあそんな優柔不断な旦那様のために、旦那様のお部屋を別にして、皆に解放しましょうか。旦那様も同じ屋根の下に他の者がいると、気になって仕方ないでしょう。誰が最初に子を成しても文句無しってことでどうでしょう」
「おお!いいんじゃないか?それって俺達も対象だよな?」
「私達が子を成せるかはわかりませんけどね」
「いや、大丈夫だ!確証はないが自信はある!」
「じゃあ早速明日にでも建ててしまいましょう。寝所とお風呂、厠があればいいですよね?」
お前ら……俺抜きで俺の話を進めるんじゃない!




