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96.火薬の製造③(綿火薬)

小夜が綿花を持ってきてくれた。


「小夜、普段の綿花の処理はどうしてる?」

「う〜んとね、まず綿繰(めんぐ)りをして種を取って、それから綿打ちしてふわふわにしてから糸に紡いでるよ。あとは染色する直前に2時間ぐらい熱湯で煮てる」

「その煮込んでいる作業が脱脂工程だ。染色するだけなら煮込むだけでいいが、今回はしっかり脱脂したいから、この前作った石鹸を使ってみよう」


糸に紡ぐまでは同じ作業だ。

紡いだ糸の重量のおよそ30倍の水に浸け、更に2%の石鹸を加え煮沸する。

1時間ほど煮沸したら糸を取り出し、水洗いして乾燥させる。


そういえば石鹸はこれが初使用だ。

手に付けた感じは悪くない。ヒリヒリする感じやザラザラすることもない。泡立ちは多少悪いが、まあ天然成分由来の石鹸などこんなものかもしれない。


黒が配合比率を変えて4個作っていたから、それぞれパッチテストを兼ねて泡を俺の二の腕に塗る。

このまま24時間放置してみよう。俺は今日は風呂は無しだな。


脱脂が終わった糸は流石にそのままでは使いにくいため、数本ずつ編んで太い紐にしてから、予め作っておいた硝酸200mlに硫酸600mlによる混酸に乾燥させた糸を漬け込み、一晩放置する。


翌日、処理が終わった糸の束を混酸から引き上げ、よく水洗いしてから自然乾燥させる。


では早速実験してみよう。

綿花の処理を手伝ってくれた小夜も誘って、河川敷に移動する。


「黒ちゃん、何するの??」

「やってからのお楽しみ〜〜」

黒様の笑顔が怖い。


綿火薬になった紐を10cmほど切り取り、編んだところをほぐして長い導火線を作る。導火線以外は結んでまとめてしまう。


導火線に火を付けると、シュッと火が進んで本体が一気に燃えた。成功だ。


モノが燃える独特の匂いはするが、煙らしい煙もなく、燃えカスもない。


次は黒色火薬の時と同じように、陶器の筒に詰めてみる。大きさは直径1cm×長さ10cm。

筒に綿火薬を詰め、導火線を取り出した穴は松脂(まつやに)で埋める。

導火線に火をつけて、水面に素早く投げる。


パンっと乾いた音がして、陶器の破片が周りに飛び散った。


その瞬間、小夜がその場にへたり込んだ。真っ青な顔をこちらに向けている。

だいぶ驚かせたようだ。

「タケルさん…今のなに?なんで黒ちゃんは平気なの…?」


そうか、小夜は俺が猟銃を撃つところを見ていない。猟銃を持っている姿は見ているはずだが、ゴツい杖ぐらいにしか思っていなかったか。

これは実演したほうが早いだろう。


猟銃と弾薬を取り出し、装填する。

狙うは対岸の柳の木。距離50mぐらいか。まあ立射(りっしゃ)で直径10cmなら必中距離だ。

狙いを付ける。大きな音がするからと、黒が小夜の耳を塞ぐ。その姿を確認してから、引き金を引いた。


タンっと大きな音がして、対岸の柳の木がゆっくりと倒れた。その様子を小夜が呆然と見ている。


「びっくりするよねえ。私も最初に見たとき、何が起きたかわかんなかった。白が放つ矢よりも遠くまで届く弾丸。それを発射するための火薬が、さっき洗って干していた紐の正体だよ」


「そう……なんだ。タケルさんがその杖を持っているのは知ってたけど、そんな使い方をするものなんだ」

「ああ。別に秘密にしていたわけではないが、教える機会が今までなかったな。結果的に驚かせてしまって、悪かった」

「タケルさん!その道具なら私も戦えますか?」

おっとそうきたか……


確かに桜や梅、椿に比べて戦闘向きではないのは分かっているし、本人も自覚はあったようだ。

弓矢の間合いならともかく、もっと近寄ると怯えてしまうようなところがある。


小夜は精霊の力をマルチに使うし、緑の精霊は一番上手に使えるから、最低限の護身をしつつ戦場を駆ける衛生兵になってもらおうと思っていたのだが、やはり護身用の武器は持たせたほうがいいか。


衛生兵の護身用武器の定番は拳銃か自動拳銃だが、そこまで進化させなくても、例えば猟銃をカットオフしてハンドリング性を上げるだけでもいいかもしれない。それなら小太刀っぽく腰に差していても違和感は……あるだろうが、まあ肩に背負うよりはいいだろう。


とりあえず猟銃を撃たせてみるか。

反動は弱装弾を使えばいくぶん抑えられるが、カットオフするなら少なくともこの猟銃よりは暴れるようになるはずだ。


「小夜。とりあえず撃ってみるか。こっちにおいで」

そう言って小夜を河川敷の平らな所に連れて行く。


意図を察した黒が下草を払い、50mほど先に標的として1mほどの丸太の杭を打ち込んでくれた。

杭の上端30cmほどを削り、的にする。


射場に小夜を伏せさせ、猟銃を渡し構えさせてみる。

意外とサマになっている。

伏射(ふくしゃ)だと的が少し上になるだろうか。まあ支障はないだろう。

狙いの付け方を教え、射線上に他のものが無いことを確認して、自分のタイミングで引き金を引かせる。


小夜は数度深呼吸した。

「撃ちます」

タン!という発射音と同時に、的の木の端っこが吹き飛んだ。


小夜は目を白黒させていたが、すぐに正気に戻った。

とりあえず頭をワシワシして褒める。

「すごいな。初めての射撃で初弾命中だ」

「えへへ、練習したら真ん中に当たるようになる?」

「ああ。そうだな。早めに専用銃を作ったほうがいいかもしれないな。ちょっと待ってくれるか?」

「わかった!」


ということで、開発する武器に、小夜用のハンドリングの良い銃が追加された。


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