92.火薬を製造する②(黒色火薬の製造)
いつもより短いですが、キリがいいので投稿します。
黒色火薬の材料である硝石・硫黄・木炭は揃った。
あとは各材料を摺り潰し、丁度良い比率で配合するだけだ。
配合比率は硝石:硫黄:木炭がそれぞれ7:1:2。
ここから木炭の量を増やし硝石を増やせば狼煙に適した火薬になるし、逆に硝石の量を増やせば、燃焼速度が早くなる。
ここからの作業は黒中心で実施してもらおう。
まず、擂鉢に各原料を入れ、細かくすり潰す。
次に、乳鉢で更に細かく粉末状になるまで乳棒ですり潰す。
擂鉢や乳鉢は木炭を焼くついでに焼いておいたものだ。
粉末状になった各原料を秤量し、別の容器で混ぜ合わせる。
これで黒色火薬の完成だ。
では早速確かめてみよう。
ああ、これ以上の実験は、里の中でやると皆の迷惑になるといけないから、河川敷まで移動しよう。
火薬1gを秤量し、和紙に包む。
そういえば、そろそろ和紙の在庫が心許ない。紙漉きを計画しなければ。
和紙を細く切って黒色火薬を包んだ、長さ30cmほどの導火線を作り、火薬を包んだ和紙の包みに挟みこむ。
導火線に点火すると……
「タケル。燃えた」
そのとおり。とっても良く燃える。
いや黒様?そんなジト目でこっちを見ないで。正しい結果だから。
では次に、同量の1gの火薬を和紙に包み、導火線を付け、小さな陶器の筒に詰める。
導火線を引き出した穴を松脂で埋める。
導火線に火を付け、川の水面に急いで投げる。
すると……
パンっと乾いた大きな音がして、筒が破裂し飛び散った。
だいたい爆竹20本が一気に破裂したぐらいの音だ。
黒がぽかんとした顔で、水面を見ている。
黒がこちらを振り返り、首を傾げる。
「……何故?……」
少々言葉が足りないが、さっきはただ燃えるだけだった火薬が、何故爆発したと聞きたいのだろう。
解説しよう。
今回使用した黒色火薬は1g、硝石:硫黄:木炭の比率は7:1:2。
硝石つまり硝酸カリウムの分子量は約100、硫黄は32、炭素は12。
では黒さん。黒色火薬1gのモル数をどうぞ。
「……硝酸カリウム0.007、硫黄0.003、炭素0.017、合わせて0.027mol」
正解。
では0.027モルの物質が完全燃焼した場合、排ガスの容積は何リットルになりますか。黒さんどうぞ。
「……0.6リットル」
正解。
今回使った陶器の筒は、内径1㎝で長さ10㎝だった。内容積を黒さんどうぞ。
「……0.008リットル」
正解。
これが一気に0.6リットルのガスで満たされたのだ。
体積比にして実に75倍。どうなりますか?黒さんどうぞ。
「……陶器の筒が破裂する」
そのとおり。これが筒が爆発した理由だ。
「タケル。筒の大きさと火薬の量を変えて試したい」
きっとそう言うだろうと思って、いろいろ準備してきた。
筒の太さと長さを変えたもの、卵型のもの、円形のもの。
容量も様々だが、概ね卵ぐらいの大きさからソフトボール大といったところだ。
材質も陶器製と鉄製で準備した。
ここから黒の試行実験が始まった。
実験の場も水面から河原の砂の上に変わった。
火薬の量や詰め方、容器の形状を変えながら、破片の飛び散り方や砂の抉れ方から威力を確認している。
結局、人の手での投擲を前提にするなら、直径10㎝の陶器製の球に150gの火薬を詰めたものが、最も扱いやすそうだ。
ちょうどソフトボールの大きさだ。
また、何らかの投石機での打ち込みを考えるなら、直径20㎝の金属製の球に800gの火薬を詰めたものが良さそうだ。こちらはボーリングのボールの大きさだ。
今後は表面の溝切りによる破砕効果や、導火線の長さと構造による爆発時間のコントロールなどの検討に入る。
とりあえず黒色火薬の開発は成功した。
あとは量産に入ろう。
いろいろ書いていますが、現代日本では一定量以上の火薬の製造・使用には許可が必要です。ご注意ください。




