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82.筑豊国を興す②

村長が不安そうに見ている。

顔見知りで恩義もあるとはいえ、地頭だった佐伯を戦で破った若者が訪ねて来たのだ。

不安にもなるのは理解できる。


「単に報告というか挨拶回りだ。さっき言ったとおり地頭が交代した。年貢の徴収はこれまでどおり佐伯の手の者に担ってもらうつもりだが、今後はこの地域を豊かにしていくために、この集落にも協力して欲しい。具体的には農地の拡張や農業指導を行うから、そのつもりでいてくれ」

「お言葉ですが、この辺りは石も多く痩せた土地柄です。水を引こうにも斜面が多いため、農地を拡張しようにもこれ以上の開墾は難しいかと……」

「痩せた土地には痩せた土地でしか育たない作物がある。水利は多少考えがあるし、農作物が難しければ植林という方法もある。挨拶回りが落ち着いたら呼びに来るから、誰か俺の里に見学に来るといい。きっと得るものがある。それと、自分達の力では生活が成り立たなくなった者や酷い病気や怪我の者がいれば、すぐに俺に知らせてくれ」

「承知いたしました。是非見学させていただきたいと思います。今のところ我が集落では生活に困窮している者や病人、怪我人は出ておりませぬ。これもタケル様のおかげです。ちなみにタケル様が地頭になられたことは、皆に知らせてもよろしいですか?」

「ああ。構わない。ただ戦で破ったなどという部分は伏せておいてくれ。いたずらに怖がらせたくはない。そうだな……この集落を救ったことが認められた……ぐらいにしておいてくれ」


今までは里の事は秘密にしてきたが、これからはそうもいかない。様々な改革を進めていく上で、実例を見せるのは当然だし重要な事だ。子供達だけでもこれだけ豊かな暮らしができるのだと実証しなければいけない。


今日の会談はこれで終わりだ。村長はまだ半信半疑といったところのようだが、一度里を見学させれば気持ちも変わるだろう。



翌日は大隈を訪問する。大隈の住民たちと顔見知りの梅と、そして桜を同行させる。

二人とも大隈への同行は嫌がらなかった。やはり故郷に戻るのを嫌がっただけだ。


大隈の住人たちの腹痛を癒したのがつい最近だったからか、住人たちは皆俺や梅の顔を覚えていた。

腹痛が再発していないか確認しながら、村長の下へ案内してもらう。


「タケル様!ようこそおいでくださった!何やら近くで戦が起きたとかで、心配しておりました」

「ちょっと報告したいことがあってな。それよりまず土産だ。みんなで食べてくれ」

そう言って住人達の前で麻袋入りの米を村長に手渡す。

「これは……米ですな?しかしこんな粒の大きい米は初めて見ますな」

「俺の里で最近栽培している米だ。味の感想が聞きたいから、なるべく多くの人で食べてほしい」

「ではさっそく今夜にでも皆に振る舞うとしましょう。それで何やらお話があるようで?」

「ああ。内密にしたいこともあるから、できれば室内がいいな」

「では我が家においでください。何のおもてなしもできませんが、人払いはできます」



早速村長の家に移動した俺は、戦いの顛末を村長に説明する。

話の内容も村長の反応も小野谷の時とほぼ同じだ。違ったのは生活に困っている者の話になった時だった。


「お恥ずかしいことですが、実はこの数年で親を亡くした子供達がおりまして、今は親類の家に身を寄せておるのですが、その……あまり良い扱いをされておらんようでして」

まあよくある話だ。いろいろな理由で親類や里親に引き取られたはいいが、結局その家に馴染めず孤立していく子供達。あと数年、せめて自立できる年齢になるまでと耐えているのだろう。


「そういう子供達はうちの里で引き取る。もちろんまずは自助努力はしてもらう。その里に余裕があるのに、わざわざうちの里で引き取る理由はない。だが自分の里で面倒を見るからといって子供を虐待するのは看過できない。俺にとっても俺が造る国にとっても、子供達は宝だ。躾の域を超えた体罰や、過酷な労働を課すべきではない」

「承知いたしました。タケル様のお考えは皆に伝えます。それでくだんの子供達にはお会いになられますか?」

「ああ。できれば会いたい。連れてきてくれるか?」

「はい。そろそろ午後の作業も一服入れる頃合いです。しばしお待ちくだされ」


そのまま桜と梅の他愛もないお喋りを聞きながらしばらく待つ。

村長が5人の子供を連れて戻ってきた。男の子3人に女の子2人。年齢は杉と同じか少し上だろうか。

小野谷の子供達ほどではないが、一様いちように痩せている。

そういえば腹痛の治療をしているときに、妙に痩せた子供がいたが、それがこの子達だったか。


「タケル様。この子達でございます。ほれ、タケル様に挨拶せんか。ちゃんと歳と名前を言うのじゃぞ」

そう村長に促されて、子供達が挨拶を始めた。

「平太、10歳です」

「惣一朗、9歳」

「惣二郎、8歳」

「ちよ、8歳です」

「かさね、7歳!」

「自己紹介ありがとう。斎藤健だ。こっちは桜と梅。二人ともうちの里の子だ。もう村長から聞いているかもしれないが、嫌でなければ5人ともうちの里に来て欲しい。特に支度がなければこのまま向かいたいのだが、どうだ?」

平太と名乗った男の子がその他4人の顔を見渡し答える。

「兄ちゃんはこの前俺達の腹痛はらいたを治してくれた人だよな?だったら俺達は兄ちゃんに付いていきたい。お前達もそれでいいよな?」

他の4人が頷いて同意を示す。

「じゃあ決まりだ。桜、子供達を迎え入れる準備をしておくようにと青に連絡してくれ。このまま歩いて帰るから、到着は2時間後だろう。梅は子供達の健康診断を。4㎞ほど歩けそうか確認してくれ」

『了解です!』


こうして俺達の里は新しく5人の子供達を迎え入れた。

歓迎の食事はサツマイモ入りの粥と茹でたトウモロコシ、焼いた鹿肉のソーセージ、甘酒だった。

年齢が近い椿や杉達が、新入り5名にサツマイモやソーセージの説明をしている。

「旨え……旨えなあ……こんな旨い飯は初めてだ!」

男の子3人は右手にソーセージ、左手にトウモロコシを持ち、交互に食べている。

ちよとかさねは甘酒が気に入ったようだ。

「ちょっとお行儀ぎょうぎが悪いですが、まあいいでしょう。明日からはこの里の生活に慣れてもらうためにも、皆と同じ生活を送ってもらいます。椿と杉はこの子達の面倒をきちんと見るように」

早速青の生活指導が入っている。まあ任せよう。


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