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8.旅を始める②

朝食の片付けを済ませると、出発の準備をする。といっても、目的地があるわけでもなく、そもそもどこに何があるかもわからない。まあいざとなれば黒い精霊の力で家があった場所には戻れるだろうが、いきあたりばったりでもいいだろう。

テントを畳み、かまどに残った燃え残りや薪を目立たないように散らす。かまどそのものも崩してしまう。誰かが立ち寄った痕跡は残さないようにする。


小夜の話では、このまま下流に向かうと小夜が住んでいた集落が、さらに下流にはこの地域一帯を支配する豪族がいるエリアがあるそうだ。

その支配地域は、川向こうの山裾まで。山を越えると別の豪族が治めるエリアらしい。


それならさっさとこの地を離れたほうがいい。追っ手が掛っているとも思えないが、小夜の両親を結果的に殺した集落に近づくのは、小夜も喜ばないだろう。


川に向かって歩きながら、隣を歩いている小夜を改めて観察する。

貫頭衣というか筒型衣というのか、生成りの生地で作られた布を何枚か縫い合わせ、チュニックのように着ている。同じ生地を帯のように巻き、腰の後ろで縛っている。生地は麻だろうか。足は裸足だ。荷物は特にない。髪は伸ばし放題のボサボサだが、何をするにも大変そうなので後ろで1つ結びにしてあげた。こっそり髪ゴムを使ったが、まだ髪ゴムの存在には気づいていないようだ。

「小夜は普段から裸足なの?足痛くない?」

そういえば呼び方が小夜ちゃんから小夜と呼び捨てに変わっていた。まあその方が自然だろう。

「う〜ん…草鞋を履いてたはずだけど、脱げちゃったみたいです。夜にでも作ります!」

草鞋を編むことはできるようだ。じゃあ草鞋作りは任せよう。

とりあえず川の浅瀬を見つけ、川を渡ってしまう。

飛んでしまえば早いのだろうが、別に急ぐ旅でもない。他に旅で必要なものは…お守り的な何かか?黒い精霊を使えば、少なくとも俺からは小夜の居場所はすぐに分かるだろうが…

「小夜は精霊が見えるって言ってたよね?どんな感じに見えている?」

小夜は辺りをぐるっと見渡すと、何箇所かを指差しながら答える。

「あの辺りに緑の精霊さん、青い精霊さん、少し下に黄色い精霊さんがいます!」

ふむ…比較的大きな個体が見えているようだ。

「じゃあ俺の右手を見て。どう見える?」

「あ…指に精霊さんがついています。人差し指に赤、あとは青、黄、白、緑です!」

「うん。きちんと見えているね。じゃあこの5色の精霊を小夜が預かっておいて。同じ色の精霊を集めさせたり、指から離れさせたり、いろいろ試してごらん」

「わかりました!」

小夜はそう言うと、人差し指に付いている赤い精霊から順番に、自分の周りを飛び回らせはじめた。

俺よりもスジはよさそうだ。

そんなことをしながら、山道を歩く。左手には渓流が流れている。先程まで歩いていた川に合流するのだろう。渓流の音を聞きながら登っていく。

しばらくすると、滝壺のような音が聞こえた。

といっても瀑布といった趣ではない。落差2mぐらいか。よく鮎返しとか魚止めとか言われる程度の滝だ。

滝壺を除くと、何か魚が泳いでいるのが見える。

小夜を手招きして尋ねる。

「お魚食べてみる??」「お魚食べたいです!」

即答だった。


釣りをするには、糸と針と錘は必要だろう。竿は竹竿を持っていたはずだ。さすがに小夜の前でカーボンロッドとリールでルアーフィッシングというわけにもいかない。

「じゃあ最初に餌を探そう。小夜手伝ってくれる?」

「はい!向こうでミミズ取ってきます!」

そう言うと近くの木の下の落ち葉を掘りはじめる。ちゃんと何がどこにいるのか分かっている。賢い子だ。

小夜が餌を取っている間に、釣りの準備を進める。

糸は1号のナイロンでいいだろう。山女針を直結し、針上10cmぐらいにガン玉を1つ噛み潰す。

糸の先端に輪っかを作り、竿先のリリアンに結ぶ。

釣りの準備が終わるのとほぼ同時に、小夜が大きなフキの葉に何かを包んで戻ってきた。

立派なドバミミズが何匹も包まれたそれを、満面の笑顔で差し出してくれる。ああ…アウトドア少女だ(笑)

「ありがとう。じゃあさっそく釣ってみよう」

ドバミミズを1匹針に縫い刺しにし、滝壺に振込む。直後にひったくるような当たりがあり、竿先が引き込まれた。

上がってきたのは尺を大きく超えるイワナだ。前世でもフライフィッシングやエサ釣りはしていたが、このサイズは鯉でしか見たことがない。

近くに生えていたササを根本から切り取り、エラに通して簡易のストリンガーにする。

餌をつけた竿を小夜に渡し、釣らせてみることにした。小夜も釣りの経験はあるようだ。慣れた手つきで糸を振り込み、あっさりと釣り上げていく。

あっという間に5匹のイワナを釣り上げ、満足そうだ。

あんまり釣ってもイワナがいなくなってしまう。

「じゃあイワナでお昼ご飯にしようか」「はい!」またしても即答だった。

「小夜は料理できるの?」ふと思って尋ねてみる。これだけ聡明な子だ。実は一人で生きていくだけの技術はあるのかもしれない。

「はい!食べる準備のことですよね?できます!」

「じゃあこっちの方法も知りたいから、お任せしてもいいかな?」そう言ってまな板代わりの木の板と、小刀を渡す。

「わかりました!」小夜は元気よくまな板と小刀を受け取り、イワナを持って水際に屈み込んだ。

料理は小夜に任せて、火の準備でもしておこう。

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